ゆうれい
幽霊がいる。
もう何だかそれはわかっていた。
建て付けが悪いわけでも、風が吹いているわけでもないのに扉を閉めてもいつの間にか開いてるし、真夜中に寝ていると、大音量でテレビが点くし、照明がいきなりチカチカと点滅するし、窓に誰かがいるわけでもないのにコンコンと音がする。
その度に無視して来たが、とうとう、幽霊の姿が見えるまでになった。ここまでくると怖いとかよりも迷惑。
そもそも不法侵入だし、見えないからって何をしてもいいわけではない。生前はここに住んでたのかもしれないが、もうここは俺の家なんだ。賃貸だけど。
テレビでアニメを見ていた。主人公が涙ながらに仲間に語りかけて奮い立たせる感動的なシーンだ。
その前で幽霊は正座をしてテレビに釘付けだ。幽霊って感動という感情があるのか? まあ、恨めしやって感情があるくらいだからあるんだろう。ただ、すげえ邪魔。
実体があれば頭からビールを被せてやりたいが、それができない。悔しくなって缶ビールを握り潰す。
その音で気付いたのか、幽霊はゆっくりと振り向いてニヤリと笑う。ムカつく。
お風呂場からシャワーの音がしている。
もしやと思い、風呂場へと向かうと、幽霊は裸でもないのにシャワーを浴びていた。もちろん濡れていない。でもなんだかご満悦だ。かすかに鼻歌が聞こえる。
……まあ、許してやろう。水道代とガス代が勿体無いけど。あれ、でもそう思うとムカついてくる。何なんだよこいつ。
誕生日だ。
恋人もいないし、家族からはLIMEのメッセージだけでお祝い。友達からも別にプレゼントはない。1人で自分へのご褒美だ。ケーキを買って家に帰宅。
1人、机の上にケーキを置いて「誕生日おめでとう」「何歳になるんだっけ」と心の中で会話する。
幽霊が隣に座って来た。
今度はどんな邪魔してくるんだ。なんて思ったが。
なんか知らんがずっと拍手を送っている。パチパチパチと音は鳴っていない。音が出ていないことに不満を抱いたのか、窓辺に立ってコンコンと音を出し始める。
何で拍手の音はしないのに窓は音が鳴るんだよ。まあでも、満更ではない。うるせえが。
布団に入って寝ていると、幽霊の活動時間なのかソワソワし始めていた。今度はどんな悪戯をするのか決めているのだろう。
朝起きたらプリンが無くなっていた。
まじ許せん。