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熟女パブに行って、ツイてくれた同じ歳のコから学んだこと

人間誰しも高校くらいまではさほど周囲と異なる世界で生きているなどという感覚はない。

しかし、そこから先は平凡な毎日を平然と暮らしてきたつもりの人同士でも、進んだ『道』が異なると二人の世界は激しく乖離していき、アラフォーにもなるとその離隔は‘’東京⇔リオデジャネイロ‘’状態になることがある。

団塊ジュニアのコアに生まれた自分は、
○普通に大学を出て
○普通に民間企業に就職し、
○普通に転職・起業・出世もせず20年平社員して
○普通に晩婚・離婚・再婚・育児とか...
言わばまったくインスタ映えしない?毎日。こんな自分を『神』と崇めるやつは同年代にはいない...

...わけではないのだ!!

先月、仕事でうまくまとまった案件があり、取引先の社長さんらから宴に招かれた。町田で佐賀牛のしゃぶしゃぶをご馳走になり、場は盛り上がり、気をよくした社長さんは『よーしいい気分だ!シンさん、今日は‘’歌い‘’に行くぞぉ~!どうだ!?』と雄叫びをあげたので、(カラオケなら)喜んで!と答えた。

社長さんの言う‘歌いに行くぞ’は、社長さん行き付けの熟女パブに行くぞ!の『隠語』であることを知ったのは、その10分後だった。狭く急な階段を登り終えた先に現れたのは、お出迎えの昭和テイスト溢れる黒服のおじさまだった。どうみてもそこはカラオケでもスナックでもない。

『シンさん、こーいうドゴ来たごどあるが?ずぐぞパブ!(津軽的‘熟女パブの意’’)えーぞえーぞ!ずぐぞパブ。みんなおもっぎりたのしんでげェ!』社長は酔って気持ちよくなると東北風の訛りが露呈するそうだ。

43歳にして俺、熟女パブ、デビュー。

で、自分にツイてくれたコは、アキコ。全然熟女に見えない。30代じゃん?と思った。しばらくみんなで乾杯やら社長の宴柿落としソング?とやらで盛り上がり、次第に『個別歓談』になってきた。

『シンさん?でしたっけ。なんか歳近い気がするぅ!おいくつですか?』『え?43?うそ!いっしょ?今年4になるの?それとも3になったの?』『え~~!4になるんだ!完全タメじゃん!タメタメぇ~!誕生日いつ?え?12月?ヤバーい、一緒!!』

幸い、日にちは違ったが、まぁ、同じ年月をお互い暮らしてきたというわけだ。それにしても、熟女パブに行くとタメ歳のコがやってくる年代に自分が差し掛かっているとは...微妙。

‘’なかなかシンさんみたく若いお客さんこないから今日は新鮮♪♪‘’とアキコは喜ぶ。次第にお互いの身の上話になったが、離婚経験者であること以外は、同じ年なのにかなりかけ離れた人生をお互いが歩んできていることに驚きを隠せない。

アキコの半生は
○普通に高校を中退
○普通に20歳で高校の同級生とデキ婚
○普通に21歳で長男、23歳で次男誕生
○普通に25歳で離婚。生活の為お水の世界へ。
で今に至る、だ。なんとその子供たちは就職も決まり、先日遂に次男も家を出たので、彼女の人生は完全に『第二ラウンド』が始まっているのだ。

(俺にはさっぱり想像がつかない、育てた子供二人が巣立つという意味...)

長男がまだ1歳半の自分からすると、この女性はすでに社会に自分の子供を二人も送り出した言わば『神』である。長男たった一人の育児のことですら‘’戦力外状態‘(=嫁いわく)なのだから、彼女がシングルマザーとして乗り越えてきた苦労の度合いというものは計り知れない。

やだぁ~シンさん、私が『神』なわけないじゃん。それを言ったらシンさんの方が『神』よ。そもそも大学とか行ってる時点であり得ない。同級生にそんなコいないし...あと同じ会社に20年勤めるってそれヤバくない?私は同じ店に2年いたことないから。シンさん越えようとおもっても最低今からこの店でも18年以上かかるわけじゃない?絶対無理!あと、そもそも論でいうと私昼間スーツ来てサラリーマンしてる同じ年の友達がいないの!それってずっとドラマの中の世界にしかいないって思ってた。シンさんはそれなんでしょ?それ、神よ!

そうか、俺も『神』か!
では、互いの神に乾杯!

大卒勤続20年スーツの神:

『この年齢で子供が巣だったんだからいいなぁ。もうこれからは自由自適な楽しい第二の人生だけが待ってんじゃん。いいなぁ~』
W子育完了のシングルマザーの神:

『ってみんなに言われるけどねぇ~。私もずっとこうなるまでは!って頑張ってきたんだけど、はれて子が巣立った瞬間、前のダンナが再婚したらしく...じゃあ私はどうしようかと考えだしたら、なんか虚しくなっちゃって。』

その話題になったとたん、明るい表情はキープするものの、明らかに声のトーンが電池切れ状態になったのを感じた。

おそらく、アキコは人生のこの節目を楽しみにしていたのだろう。お金も時間も自由に使って、楽しい買い物だの旅行だの趣味だのが待っているハズだったのだろう...しかしー

子が巣立って、彼女が手にした自由というのは、とても乱暴にいうと、独り身の人間に金と時間がありさえすれば、誰でも得られるものであって、だからといってそれは彼女の『心を満たしてくれるもの』ではない。そこへ、前のダンナの再婚というニュースが飛び込んできたからショックだ。なんで『あなただけ』そうやっていつも幸せになろうとするのよ、みたいな?

おそらく、前のダンナは、はぐれた子供たちとは一緒に暮らしていなかったものの、間接的に成長を見守りながら、社会人になるまでは俺は再婚しまい!とか自主的に腹を決めていたのだろう。おそらく再婚相手の女性はそれをずっと待ってくれるくらい辛抱強い女性だったのだろう。そしてついに結ばれたー。それは一般的には微笑ましい話だが、アキコはそれを許せない。素直には祝福できない。

なんかバカにされた気分。‘’俺だってずっと子供が巣立つまで我慢したんだよ、そろそろ再婚しくらいさせろよ!‘’みたいなアテツケに思えた。私には自分を支えてくれるパートナーは20年間ずっとだれひとりいなかった。なんか私だけ独りバカみて人生損した気分...
こういう話をすると、みんな『仕事を昼間のに変えてやりなおせばいい』とか『男をつくって再婚すればいい』とか『パーっと海外旅行してこい!』っていうの。
でも私はこの夜の仕事しかしたことないの。昼間の仕事やれっていわれても私パソコン使えないし!あと、男つくれって...もう何十年も純粋に恋愛とかしてないからもうどうしたら男できるかわからない。そもそも私がいいなぁと思う人には必ず相手がいるのよ。奥さんがいなかったことはない。私はずっと誰かの合鍵みたいな存在だったの、ずっと。だから、再婚しろいわれても無理なの!あと、私海外いったこともないからね!パスポートの作り方とか知らないし。

終電が間近になった。酔ってフラフラの社長さんが会計をしてくれている。

アキコの先々はとても気になるが、再婚以後月額おこづかい25,000円になった私にはどうにかしてあげるすべは一切なく、心温まるトークで締めくくってあげるしかない。

アキコは、何をしたら楽しめるか教えてほしい!という。使える予算は、なぜか50万という。テーマは『一週間、海辺・お肉・初海外旅行』という。

『羽田からハワイアン航空のビジネスクラスでハワイにいくんだ。で、ワイキキのモアナ・サーフライダーホテルのダイアモンドヘッドが見えるオーシャンビューの部屋にチェックイン!晩飯は大好きな肉を吐くほど喰えばいいさ。まずはカパフルのサイドストリートインでポークチョップだけを頼んでひたすらあのしょっぱいポークをクアーズて薄めながら頬張るんだ。で、お腹が膨れる前にすぐ退店してワイキキに戻りトニーローマに行って、今度は山盛りのベイビーバックリブを無言でひたすらむしやぶりつきながら、バーボンソーダであの甘辛ダレを流しこむ!食い終えたら、無風で星空が綺麗な深夜のビーチを歩きながらホテルまで腹ごなしに一時間かけてあるくんだ。で、部屋についたら死んだように時差ぼけ解消で寝る!で、翌朝から.......』

どこまで説明したか覚えていないが、『ちゃんと日本語でしゃべって!』と半分逆ギレ気味に突っ込まれた時点で宴会終了。『でも楽しそうに話してるシンさん見てたらハワイってなんか楽しそうで、お肉が美味しそうだっていうのだけはわかったよ。ありがとう。海外もしいくなら神の言う通りハワイにいくね』

神......ねぇ~
嫌味のないいい響きだ。

少しだけ自分に自信がもてたかも。
(アマいか?)

ー文中で紹介したお店ー

サイドストリートイン(カパフル・ハワイ)
https://sidestreetinn.com/
ポークチョップは必食です!

トニーローマは六本木にもあります!
http://tonyromas.jp/
もちろんベイビーバックリブもあります。
オニオンローフも食べてください!

この記事は以下に集録されています!

『アラフォーの卒業論文』

40歳は二度目のハタチ...というが、実際はどんな数年間だったのか?書き下ろした10のエッセイ集 by 叶田(kanaita)