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後田多ゼミ 目取真俊氏の講演会を開催しました
2024年12月6日
国際日本学部 後田多ゼミナール
多々良朋香・阿部日菜・矢次貴洋
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2024年11月30日に後田多ゼミナール主催の講演会「目取真俊氏が語る:日本—沖縄/差別と欺瞞の構図―作家活動、戦争の記憶と辺野古から―」を神奈川大学みなとみらいキャンパス4階4019教室で行いました。
目取真氏は、1960年生まれ沖縄県今帰仁村のご出身で、1997年に沖縄戦の記憶を背負って生きる庶民の姿を描いた作品である『水滴』で第117回芥川賞を受賞されました。2000年には『魂込め(まぶいぐみ)』で第26回川端康成文学賞、第4回木山捷平(きやま しょうへい)文学賞を受賞されています。2023年には韓国の国際文学賞「第7回李浩哲イ・ホチョル統一路文学賞」に選出されました。小説だけではなく、評論集も多く執筆されています。執筆活動のほか、沖縄辺野古新基地建設の反対運動の現場でも活動されています。この講演会は作家の目取真俊氏をお招きし、沖縄の現状や目取真氏が感じていること、考えていることを語っていただきました。
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まず、目取真氏ご本人が撮影された米軍の訓練の様子の映像をいくつか上映していただきました。この映像に映っていたのは、県道のすぐそばにある森で行われている訓練やウミガメが産卵にくる砂丘で行われている訓練、墜落事故が多発しているオスプレイの上陸の様子でした。民間人が目に入る場所で訓練が行われ「米軍」という存在が日常であり、来年で戦後は80年を迎えるが沖縄の現状は変わらないと目取真氏は仰っていました。辺野古新基地建設が抱えている問題は多くあり、なかでも長期化する工事によって増大する予算が大きな課題となっているそうです。2013年度時点では埋め立てに使用する工事費を2310億円と見積もっていたが、軟弱地盤の存在が明らかになり7225億円に増額されました。工事の完成の目処が経っておらず予算がどれだけ膨らむのかが分からないと言うのが現状であり、予算を浪費するのではなく教育面や産業面に使用し経済復興を目指す事が課題なのではないかと仰っていました。また、辺野古新基地は普天間基地の代替施設にはならないことも明らかになっていました。辺野古新基地は滑走路が短く施設面積は小さいため、固定翼の輸送機の使用や物資を保管する倉庫や駐機場などの施設が限られるため、琉球全体の兵站能力を低下させることにつながると仰っていました。
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今回の講演で私が強く印象に残ったことは、「大和人の罪」についてです。大和人とは、沖縄に暮らす人々からみた我々日本列島本土に暮らす人々のことであり、今回の目取真先生のご講演では私たち大和人の生活がいかに沖縄に暮らす人々の負担の上に成り立っているかということを思い知らされました。
目取真先生ご自身が記録された在日米軍の訓練の様子の映像には、豊かな沖縄の地を蹂躙しながら進む軍用車両や青い沖縄の空を切り裂く轟音と共に現れたヘリコプターの姿が映し出されていました。皆さんの中で「軍事訓練の爆音」や「軍用機の墜落事故の恐怖」と隣り合わせの日常生活を営んだことがある方がどれほどいるでしょうか。私は生まれてから20年以上経った今まで経験はありません。しかしながら、現状として彼らの姿は沖縄に暮らす人々にとって当たり前の日常となってしまっています。「関東に住んでいる私たちには関係のないこと」と考える方もいるかもしれませんが、これらは日本の外の世界で起きているものではなく、日本の中で今まさに起きていることです。さらに、この事態を引き起こしている原因の一つは私たち大和人にあると目取真先生は仰っていました。
目取真先生は「(在日米軍)基地は決して東京や名古屋などの大都市には造らない。沖縄のような立場の弱い地域に押し付けている。それは大和人の多数意思によるものである。」と仰っていました。私たちは沖縄に基地問題を押し付けておきながら、自分たちは関心を示さず米軍のいない日常を享受している、挙句には現状をよく知ろうともせず基地の移設に賛成している者もいる、これこそが「大和人の罪」なのではないでしょうか。
また、私はこの講演を受講して私たちが生活する地域のメディアと沖縄のメディアの報道の差に違和感を持ちました。沖縄では日々辺野古への基地移設問題をはじめとした日本が抱える問題について報道されているのに対し、私たちが生活している地域のメディアはそれらについての報道が極めて少ないという現状があります。この報道の形がとられているため、沖縄の米軍基地問題に対して無関心でいる人々やメディアの報道だけを信じて基地移設に賛成する人々が増加してしまうという原因の一つになっているのではないかと私は考えました。
今回の講演を受講して私は、我々大和人は現在沖縄で起こっている問題について、「遠くで起こっていること」ではなく「私たち日本人が抱えている問題」だと考えるべきだと感じました。私たちが抱えている問題を背負うのは沖縄に暮らす人々だけではなく、私たち大和人を含めたすべての日本人です。日本に暮らす日本人である私たちがすべきこととは、いままでのように一方的に沖縄だけにすべてを押し付けるのではなく、これまでに沖縄で起こったことと今まさに沖縄で何が起こっているのかについて調べ正しく知り、広く発信し、解決に向けて歩んで行くことなのではないでしょうか。
ご清読ありがとうございました。