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Visual Thinking Strategiesを体験して―アート鑑賞で磨く対話のちから

国際日本学部国際文化交流学科3年   中村美月

 「デザインと社会」をテーマとする角山ゼミで、6月6日(木)に横浜美術館のソーシャルリレーション担当リーダー・襟川文恵さんを講師としてお招きし、「VTS」のワークショップをおこないました。
   VTSとは、1980年代のニューヨーク近代美術館(MoMA)で、美術作品の鑑賞教育プログラムとして誕生したVisual Thinking Strategiesのことを指す 言葉です。日本では「対話型鑑賞」という呼び方で定着しています。
   VTSでは、まずファシリテーター(司会者のことで、今回は襟川さんが務めてくださいました)から、“What is going on in this picture?”(「この絵で何がおこっていますか?」)という質問をします。これを最初の質問とすることは、VTSの手法として決まっているそうです。それに対して、一人ひとりが一つの作品をスキャンするように眺め、気づいたことや感じたことを挙手して話します。そして、一人ひとりの意見を言いかえるようにファシリテーターがまとめ、対話をすすめていきます。
    私が印象に残ったのは、ファシリテーターが人の意見を決して否定しないというところです。意見を言うときにためらってしまうひとつの原因として、自分の言おうとしていることが正しいかわからない、自信がないということがあると思います。しかし、VTSではファシリテーターが必ず自分の意見を理解しようとしてくれて、否定しないとわかっているので、安心して  自分の思ったことを率直に伝えることができたと思います。
   また、このVTSは決まった時間(今回のワークショップでは15分間)、ひとつの作品を見ながらそのことについて話し合うので、過去の記憶と関係のない対話ができます。そのため、認知症を患っている方でもできるというお話がありました。今、私の祖父も軽度の認知症を患っています。そんな祖父ともVTSであれば「普通に」話し合うことができるのではないかと思い、   実際にやってみたいと思いました。  
    私が普段美術館で作品を見るときに、気になった作品の前に少し長く立ちどまることはありますが、ほとんどの作品はゆっくり歩きながら見ることが多いです。そのため、ひとつの作品をじっくりと見るのは、中学の美術の授業以来だったかもしれません。今回体験したVTSで、作品について気づいたことや考えたことを共有する中で、自分が気づかなかったことや自分とは違う視点からの感想を知ることができて、作品への理解が深まったような気がします。
   また、友だちと美術館に行く時、作品について軽く意見を交わすことがあります。その時に自分では気づけなかったことに気づくことができたり、友だちが気づかなかった点を指摘することができたりと、一人では感じることのできない楽しさや面白さがあったことを思い出しました。
      美術館だけではなく、学校で過ごしたり、人とどこかへ出かけたりするときにも、気づいたことなどをお互い否定することなく聞き合うことで、何か新しい発見につながるかもしれない――今回、VTSワークショップに参加して、このような思いが強く残りました。

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