利他の精神を学び、幸せに生きるための知性を磨く
私たちかなふくでは、毎月月初に、瀬戸理事長による講話の時間を設けています。この時間は、私たちの使命や大切にしている想いを改めて共有し、心をひとつにする機会となっています。私たちのストーリーを語る上では避けられない理事長講話。3回目となる今回は、2025年7月に開設を予定しているかながわ福祉大学校の理念のお話です。
利他の精神と共生社会
福祉の源泉である「人間力」を高める学びを土台とする『かながわ福祉大学校』は、来年7月の開校に向けて準備を進めています。大学校の基本理念は「利他の精神を学び、幸せに生きるための知性を磨く」。今回は「利他の精神」と「幸せに生きるための知性」についてお話をしたいと思います。
早速ですが、利他の精神とは何でしょうか。よく聞く言葉だと思います。日本航空(JAL)が利他の精神を持ち、会社を再建したという事例は有名ですね。利他の精神というのは、利己主義と対のところにあるものです。つまり、自分優先ではなく、相手のことを考え、相手の利益になることを考え、自分を抑えるという考え方ですね。戦前では当たり前の概念でしたが、戦後の個人主義教育のもと、利他主義とのバランスが崩れてきたように思います。『隅に追いやられてしまった』という言い方が適当かもしれません。利己主義とはあまり良い言葉ではありませんので、それが個人主義という言葉に変換され、個人の主張が重要だという風潮になりました。それに付随して「私が、私が」「俺が、俺が」とう考え方が主流になってきたように感じています。
そんな中では利他主義が肩身の狭い状況に見えますが、この考え方の方が世の中うまくいくように私は思っています。「ともに生きる社会」「共生社会」は、利他主義の考えがなければうまくはいかないのです。一人ひとりが利他主義とは何かを考え、実践していくことが重要です。自分の利益だけを考え、行動するのではなく、相手のことを考え、相手の利益を考え、そして行動するということが重要になるのではないでしょうか。
利己主義から利他主義へ
なぜ相手のことを考えた方がうまくいくのでしょうか。実感として、自分のことよりも相手のことを考えた方がうまくいくと思われている方は大勢いらっしゃると思います。これは、自分の利益や欲だけで行動していくと、どこかでつまずいてしまうことにお気づきだからではありませんか。相手のことを考え、企画し、実行した方がうまくいく。これは社会の摂理、法則と言えると思います。
だから私は、利他主義を一つの考え方として浸透させていきたいと考えています。神奈川県民一人ひとりが利己主義ではなく利他主義になれば、県内はもっともっと良くなるだろう。そういう想いをもとに、かながわ福祉大学校をつくり、「利他の精神を学ぶ」ことを基本理念としました。
幸せに生きるための知性とは
かながわ福祉大学校の基本理念には、もう一す。それは「幸せに生きるための知性を磨く」こと。さて、幸せに生きるための知性とは何でしょうか。
私は昭和31年生まれで、高度経済成長を経験した世代です。昭和の成功モデルといえば、良い成績を取って良い大学に入り、良い会社に入って良い車とマイホームを持つというものでした。お金をたくさん稼ぐことが昭和の成功モデルとだったと言えるのではないでしょうか。私自身もその成功モデルを刷り込まれて育ちました。さて、その成功モデルの幸福度はどうでしょうか。たくさんお金を儲けた。立派な車を持ち、家を建てた。そんな話を色んな方々から聞いてきましたが、その成功モデルの実現は、イコール幸せになるのでしょうか。
「幸せかどうか」は、皆同じではなく、一人ひとり違うものではありませんか。たくさんお金があって、豊富に物を所有していれば幸せかと言うと、そうとは限らないのです。そのことに、私たちは早く気づいた方が良いと思っています。溢れんばかりの物が人を幸せにするわけではありません。それが幸せと感じるのであれば、その人は昭和の成功モデルの中に生きているのかもしれません。何が幸せの知恵なのか。これを皆さん一人ひとりに考えて欲しいのです。
5つの知恵を磨く
幸せの知恵は、磨き込まないといけません。磨けば磨くほど人生は豊になっていくのです。私から、5つの知恵をお伝えします。
1つ目は「人との結びつきが幸せになる」ということ。仕事でも家庭でも、地域でもそうですが、人と人がつながること、これが幸せの知恵になっていきます。単なるつながりではありません。お互いに利他の精神をもち、つながるということです。それがお互いの幸せにつながります。
2つ目は「経験にお金を使う」ということ。価値観の問題はありますから、贅沢品や嗜好品にお金を使うことも否定しません。しかし、体験や経験にお金を使うことで、ネットワークや人脈が広がり、豊かな人生が送れると思うのです。色々なところへ行き、自ら体験する。そんなお金の使い方が幸せになると考えています。
3つ目は「日々の生活の中に小さな幸せをくみ取る」ということ。例えば、食事に行ったときに、注文してから提供される時間が長かったとします。そのとき、美味しい食事ができることを幸せと感じるか、感謝の気持ちを持てるかがポイントです。長く待っていることにイライラして、せっかくの食事が美味しく感じなかったり、幸せに感じなかったりすれば、それはとてももったいない。小さな幸せは日常にたくさん転がっています。その小さな幸せに気づくか気づかないか。それは、その思考回路を持てているかどうかの違いです。小さな幸せに気づける思考回路をもち、その知性を磨き込んでいけば、より幸せになれるのではなないでしょうか。
4つ目は「小さな親切をたくさんする」ということ。私たちは親切にされると嬉しいと感じますね。けれど、実とのころは親切にした方が、大きな喜びがあるものです。親切にされると嬉しいけれど、自分から親切にすることはない。これでは利己主義で大きな喜びを感じられません。利他の精神を基本に、人に親切をたくさんする。これが幸せの知性の磨き方です。
5つ目は「面白がる力をもつ」ということ。仕事もつまらないと思ったら、つまらないものになります。仕事をする時間は1日の中で結構な割合を占めています。仕事がつまらないと、人生がつまらなくなってしまう、面白くなくなってしまうのではないでしょうか。であれば、仕事を面白がって取り組んでみるのはどうでしょうか。これも知性の一つです。面白がる力がないと、面倒くさい、つまらない、なんでこんなことしなければならないのか、とネガティブに考えがちです。面白いと思えるように考え、それを受け取る力が必要です。面白がる力が備わってる人が大勢いると、笑顔溢れる、活気溢れる組織になっていきます。誰かの笑顔のために仕事をすると、かかわる皆が幸せになる。誰かを幸せにするためにこの仕事があると考えることができれば、一つひとつの仕事の価値は上がり、何より、自ら面白いと感じられるようになると思います。私が県庁の職員で介護保険の立ち上げをしていた当時、運営指導業務(介護サービス事業所の運営・人員・設備状況の確認を行うこと)は皆に嫌がられている仕事でした。早く異動したい、こんな仕事は嫌だ、もっと感謝される仕事がしたいと考える人が大勢いました。けれど、運営指導というのは介護サービス事業所の質を上げることができる仕事です。指導することによって、サービスの質を上げ、その結果として利用されている方々を幸せにすることができる、笑顔にすることができる、地域社会のためになる。自分の仕事がそういうところに繋がっていくことに気づけるかどうか。仕事の価値をどう捉え、解釈するか。これは知性の一つだと言えます。
柔軟に、しなやかに
これらの知性を磨くことによって皆さん一人ひとりの人生は輝いていきます。そして、皆さんが集まるこのかながわ福祉サービス振興会も、活気溢れる面白い組織になっていくと思います。そして、かながわ福祉大学校もそうなって欲しい。それには一人ひとりの力で、自分で知性を磨いていかないといけません。誰かに磨いてもらうことはできませんし、それでは幸せを掴み取ることもできません。時代が変わると変わるもの、変わらなければいけないものも出てきます。それに対応できる柔軟な心や考え方が必要です。
幸せになるためには色々な知恵を磨いていかなければならないということを、少しでも気づいてもらえると大変嬉しく思います。
瀬戸 恒彦
※本文は職員に向けた講話を編集の上、公開しています。