愛情に装置など誤算でした
あの日の私は25才、一回りほど年上の恋人の作ったお籠の鍵ならかかってて、外せる事に気がついたマンデイ、結婚するはずだった、子供が欲しかった、あの日からうーんと大人になった頃に誰かから聞いた彼の本音に、少しだけ切なくなったのはきっと、悲しみと怒りにひた隠しにされたたくさんの楽しかった思い出を忘れてはいないからだろう、と、いつかそんなふうに思う日が来ることなど1ミリも想像していない夢見る小鳥は窓辺から飛び立った、あの人の元へと走るためにベッドの下に隠しておいたハートのパンプスを履いて、付き合うとかおそろいの指輪をするとか結婚とかって形ばかりじゃなくて、本当の意味で心と心を繋ぎたかったんだよ、じゃなきゃ形なんて無意味じゃないか、お籠の鍵をかけていたのは自分自身だ、そして、心を決めたならいつだってそこから出ていける。
新しい恋人は昔の恋人と正反対の、不安定 the ワールドで音楽するアーティスト、音楽に傾倒してゆくあの日の私の最大の理解者、夜中の3時に眠りから覚めて小さな明かりをつけ、彼を起こさないように小声で歌いながら歌詞を書いていればモソモソする彼、「あ、ごめん」と言えば口に人差し指を当てて「しー(そのまま続けて)」のジェスチャー、こんなに私をわかってくれる男の子が私の事を好きだなんてもう奇跡、これでもう私の音楽を邪魔するものは何もない、恋の煌めきすら手にした私は体中に漲る無敵感でもって音楽へと向かう。
2003年、新しいspeenaはタナトス、つづれおり、マルゴレッタと、コンスタントにシングルをリリースしていく。当然、次のアルバムに入るであろう曲達、でもこの時点で ”キレイに並ぶだろうか?” と考えて曲を作る程には3人娘は幼く向こう見ず、シングル曲はポップでわかりやすく、加えてビリっと電流が流れるもの、それを判断基準にしていた私はこの頃さらにもう一つ、バンドサウンド(になるべく近づける)という項目をプラスする。
つづれおりで掴んだイメージ、speenaのスタンダードを、ものにしていかなくては。なんかやってたら出来ました、結果オーライ偶発的なそれではなく、最初からそこを見据えて向かっていきたい、もっともっと塊になりたい。ロックとポップとパンクでいたい。
つづれおり / speena
1. (つづれおり割愛)
2. 誤算(ギンギンギン)
そろそろシホのエッジを見せつけてもいいでしょう?誘惑アロマが彼女の全てでは当然ない、こちら側こそが彼女のクールだ。
これでもかと歪ませた電気なギターを気が触れたように弾き倒す彼女のカッコよさに惚れた私の自慢みたいな、ねえこれカッコよくない?の共有。
ライブでの彼女は長い髪で顔が隠れがち、最中にチラリと見える伏し目がちな目はしびれるセクシーさを携えて、蔑むように、挑発するように、そして愛おしむようにフレットを掴まえる。なのにギンギンギンってなに。そういうとこチャーミング。
この頃あいつに虐げられる怒りで満ちていた彼女、怒りを押し殺しながら始まるイントロ、苦手なくせに感情を歌詞にしたその胸の内、私が可愛さを盾に、世界に放出してやんよ。
レコーディング。この手の曲はお手のもの。
怒りも過ぎると笑けてくるってあたりをサブタイトルのギンギンギンに込めるシンセ(aメロに登場する3連発)。トラックダウン時、ヘビーな8のロックなリズムにクールにノッて聴いてる3人娘は、この3連発、しかも何回も来る、2番のaメロの最後のやつめっちゃ音でかい(エンジニアの松本ヤシャーン靖雄氏の遊び心)、真面目にサウンドチェックすれど、ギンギンギンが来る度に爆笑していた。
” 彼女は超特急 メンチボール片手に乾杯!
魂の大特価 序列なんて破壊しちゃえよ ”
お前の急所を掴んで、捻り潰してやろうか。立場の違いからあんたはいつも、言葉のふりした足の裏で私の頭を踏みつける。いいよ、それで満足するならひれ伏そう。でもね、一歩外に出てみなよ、あんたはどこにでもいるただの男だ、弱点も然り、私がそれをガッツリ握ったなら、立場なんて一瞬で入れ替わるんだよ。
3. 愛情装置
あぁ、彼が好きです、大好きです、故に私は無敵です、どうやら彼もそうらしいです、そりゃもうボンボンぶつかり合ってハートが弾ける、好きの応酬が止まない、ラブいと思ったが伝え時と言わんばかりに「好き!」って言えば「好きだよ!おいで!」と両手を広げてくれるその胸に、ボーン。散々恋を我慢した二人には、自制も計算も誰かの気持ちを汲むことも、そして相手に傷つけられるかもしれないと自分を守ることも、もうできないね。どこまでも行け、行けるとこまで、もう何も考えずに、クロードチアリ。
レコーディング。楽しかった。この手の曲はお手のもの。
私のデモのオルガンフレーズ、もうこれが曲みたいなもの。ベースが忙しそうで、すみませんね、と思う。恋に走るビート担当。ドラム然り。
ショーコにやってもらった「壁に耳あり、クロードチアリ」はTVのイメージ。部屋で一人、ネイルしながら彼を想う、あんな事とか思い出してきゃーってなってたら不意に「速報です」、えっなに、一瞬TVに意識が行く、と見せかけてやっぱり行かない、ところで彼が好き、きゃーって。
近づいてくる足音から録ろうってなって、マイクから少し離れた所から大きめの足音を鳴らして、何度もちょこちょこするショーコ、可愛かった。
私の恋をいつも側で見守っていたシホちゃんの、がんばったね、おめでとう!感あふるる歌終わりのギターフレーズは、お願いだからもう私を止めないでとナミダをこらえながら歌う私の背中を、行って来い!と押してくれる、ラブい。
女の子バンドっていいね。そんな気分が最高潮。
” 朝が来る度に今日も 大好きだって思うのが
続いてゆけば ずっとに変わる
もう止めないで。 ”
好きってやつには抗えない。好きってなんだ、可愛らしい、恋しい、愛しい、憎らしい、よくある感情に名前をつけるとだいたい、しいしい言ってるのに、好きってなんだね。子供か。いいえ、それこそが真理。それはきっと恋になる前、ひと目見た瞬間に惹きつけられたあの煌めき、わあ素敵!と、すぐ触ろうとする子供のような、純粋なる欲求。
この頃は大阪でラジオ番組をやらせていただいてた記憶、月に二回、いつもおいしいもの食べてた、新世界の奥の串カツ屋さんとか、551を知ったのもこの頃。
ラジオ局の皆様から関西弁を教えてもらったな、よくアメ横の近くのホテルに泊まってたな、可愛い雑貨屋さんでお皿とか買ってたな。
そろそろ大好きなJUNIOR SENIORに会うことができるこの頃、増えてきたライブ、バンドの中音ってでかくて、声を張るどころか、がなるまでしないと聴こえないことに悩んで、どうしたらライブでもいつもみたいな力まない歌が歌えるんだろう?私もっと歌上手なのにな、力むとピッチ下がるんだよな、向いてないのかな、せっかくベイビーちゃんと触れ合えるライブなのにいかんせん200ぱーで楽しめない私を待ち受けていたのは、まさかの恋人による平穏ぶち壊し、でも前より平気だったのは音楽と共にあったから。
読んでくれてありがとう。すーき。