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私が思い出になる前に

おい、神。

そんなに私を殺したいのか。一度でも自ら死のうとした過去は、そんなにも罪なものなのか。死が唯一の救済であることもあるだろうに共感力低いな、おい。

聞こえてるなら、はいと言えっつー話だよまったく、たわけが。

落ち着け、私。

神と私の押し問答、向こうからの答、ないけど。でも言うぞ、私が思い出になる前に、私の記憶を返せ。えらそうに絡まって解けやしない一つになった思い出を、勇気でもって解いてやる。全部まとめて怒りと悲しみで手荒く心の奥に放って閉じ込めた想いを、愛でもって拾い集めてやる。だから、私の記憶を返せ。


(しばし目を閉じる)


その昔、CHARAに焦がれて焦がれて、もう絶対そこに行きたいと思った、歌を歌う人になる事を決意した、18の冬の私。上京資金を貯めるのに、たくさんのバイトをしながら毎日バカでかい声で歌い、Rubiiな仲間達と共に音楽を創ってた。色んな人の色んな縁で紡がれてゆくそれはいつしか、未だ見ぬ誰かへと届けることができるようになり、でも次第に誰かの熱を冷ましていって、ジュエルは壊れた。

横浜から東京へと一緒に旅に出た彼らを失ってもなお、私の確信は疼いてた。こんなんで終わるガラじゃない。私のワンダーなトリップの終わりはここじゃない。

その頃はCIBO MATTOがおいしくておいしくて、なんかこんなんやりたいと思った、可愛くてツンツン尖ってる女の子を仲間にほしいと思った、21の、季節忘れた。またしても色んな人の縁で見つけた彼女達のライブは正に可愛くてツンツン尖ってて一瞬で恋に落ち、かりんとうでおびき寄せてspeenaになった。前よりも更に多くの未だ見ぬ誰かへと届けることができるようになり、でも次第に音が見えなくなっていって、可愛い女の子は壊れた。爆破スイッチを押す日が決まってから最後の音を届けるまで、さながら遺書を書く様に子守唄を創った。

少しだけ、歌うことそれは生きることに疲れたかな、なんて思った。長く一緒にいた恋人とも、この頃に別れた。愛おしくて憎らしい人だった。私の確信は少し揺らいでた。昔よりも、人が嫌いになった。聴く音楽聴く音楽に胸が震えなくなった。その頃の友人達と毎晩のように地下の箱の中で音にまみれて踊ってた。少しだけ、が、だんだん膨らんでいった。隣で眠る男なんて誰でもどうでもよかった。

月の出る頃に眠れなくなった。眠くて目がシクシクするのに、眠ることを脳が拒んだ。太陽の出る頃に気を失って、沈む頃に目が覚める日が続いた。いつも気だるくて、体も心も削られていった。世界中みんな楽しそうに生きてていいな、私の笑顔ってどんなんだったっけね、もう誰も私を必要としていないのに、なんで私今ここにいるんだろか、私の存在に意味はあるんだろか、誰が私を証明できるんだろか。仕事と家庭を失ったビジネスマンってきっとこういう感じなんだろな、もうどこにも居場所がなくて、世界はそんなこと知ったこっちゃないっつって回ってくんだよな、私を置いて。一人だと知って、月が見ていた。まるで自分だけが辛い思いをしていて、他人だけが自分を傷つけたと思い込んで、自分以外の世界なんか本当は見えてなかったんだ。


(目を開けて)


ふぅ、疲れた。ひとまずここまでにしておく。ここから先の記憶がとてつもない気がしてるんだけど、体力つけて再度挑むことにする。思い出さなくてもいいのかもしれないとも思うんだけど、生きているうちに思い出したい気もしてるそれはたぶん、私がこの手で私を、体ごと愛せる力を持っているということを自分に証明したいのだと、そんなふうに思うの。

知らんがな勝手にやれって思うだろうけど、生きてる証を残したい的願望を許してね。




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