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弾奏L

雨樋あまどいのない軒先からぽたり、ぽたりと、雨粒が落ち続けるのを見つめている。こたつの中から見つめている。空は一面ライトグレーの雲に覆われて、拡散した光が居間を十分に明るくした。軒先に視線を戻す。屋根に当たった雨が流れてきているというよりも、屋根のふちでしずくが自動的に生成されているように思われた。

わたしの居るところからは雨の線が見えなかった。また視力が落ちたかなと思う。代わりに、屋根裏に反響する雨音に耳をそばだてて、まだ止んでいないのをしっとりと確かめる。かさぶたができた時の、そこにかさぶたがあることを指の腹で何度も確かめる時の、あの確認に近いものを感じた。

わたしの指がギターの弦をはじく。指と弦のはざまで音がはじける。けれどもわたしの耳は、雨が屋根をはじくのを聞いている。しずくがはじける。ひかりがはじける。あるいはかげが。くうきが。舌が口の中をはじく。はじける。こえが。ことばが。

睫毛と瞳の間にできた曲線は、この日見たなによりも明るくひかっていた。

夜、寝て、何の苦心もなく目を覚ませる朝がある。アラームが数分後に鳴るのを予感しながら、スマートフォンを握り、目をつぶってそのときを待つ。けたたましさを知覚する前に親指の筋肉を動かして、同時に身体を起こす。シャワーを浴びる。西向きに付いた風呂場の窓は、塗り壁のような重たい色をしている。身体を洗う。髪を洗う。シャンプーの泡を流すころに青い朝の光が入れば、水の粒が肌にはじけて宙を舞う。水の粒が光の粒になる。そこにまっすぐの息を吹きかけると、粒がくるくると渦を巻いて、息の通り道が見える。そうやって朝を過ごすのがすきだ。けれど、今日は、それにはすこし早すぎた。

しめった髪の毛をそのままにしてキッチンへ向かう。先客がいる。そっとした息遣いでぽつり、ぽつりと会話をする。朝の静かさをこわさないように。ふいに、自分の息が白いことに気がつく。相手の息も。あらたな息の通り道を確かめて、雨音の止んだ一日を、しかしはずんだ気持ちで始める。


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