家具配送のしくみ
noteで購読している作家さんのエッセイ。
その中で、家具の配達を通してとってもがっかりしたという話をされていた。
作家さんが家具を購入した家具屋さんの対応もちょっと良くなかったようだけれど、少々の誤解や行き違いも感じられる状況で。
家具配送と宅配便とではそもそもの仕組みが全然違うのだけれど、それが消費者に説明されることはほとんどない。
すでに個人事業主としてはインテリア業界を引退しているわたしだけれど、勝手にインテリア業界を代表してその誤解を解けたらと思う。
家具配送は、家具の工場から消費者のところまで出来るだけ安く届けられるように工夫されていて、例えばソファー1台が数千円で手元に届くのは、この工夫のおかげ。
この工夫がなかったら、ソファーの配送料なんて軽く3万円は超えると思う。
①産地から各地へ
家具の産地から出荷される家具は大型トラックに乗せられて、一旦各地の家具配送業者の拠点で降ろされる。
家具を消費者の元に届けるのは、実は家具メーカーやショップではない。
全国各地に家具配送を請け負う専門業者がいて、彼らが家具メーカーやショップと契約をしており、"お手元に届ける"役割を担っている。
例えば九州の家具工場で家具を乗せた大型トラックは、関東行きなら神奈川、東京、埼玉、栃木などで順に家具を降ろし、帰りはまた別の荷物を載せて九州まで戻る。降ろされた家具は、家具配送業者の倉庫で配送の日を待つことになる。
家具が再びトラックに乗せられるのは、配送の日の前夜のこと。
②配送計画
人は、そんなに頻繁に家具を買わないものだと思う。宅配便や郵便なら、年に50回100回と家に届くかもしれない。家具を買うのは数年に1回、というところだろうと思う。
利用頻度が多くないから、家具の配送業者も多くはない。宅配業者とは比べ物にならないくらい小さな小さな業界である。
小さな業界ゆえに、例えば埼玉の八潮に拠点を構える配送業者が、同じ日に届ける数件のうち、千葉の千倉と東京の府中両方に行くなんてことが全然あり得る。
それぞれの家具の配送日は事前に決まっているから、産地から家具が確実に届いているのを確認したうえで、配送前日に内勤スタッフが知恵を絞る。
できるだけ効率的なルートになるように。積荷となる家具が安全に乗せ切れるように。
例えば八潮市にある配送業者の、ある1台のトラックの配送先が千葉の千倉、市原、東京の大田区、府中市、のような一日なら、朝一番で市原、その次に千倉、アクアラインを渡って大田区、府中市、という順で計画するだろうなと思う。
その結果が、前日の消費者宛の電話である。
「明日の家具配送、午前中に伺います」
(ずいぶんざっくりした時間指定だな)と消費者が感じる瞬間。消費者は、宅配便慣れしているからそのギャップは大きい。
配送業者としては、もし翌日に受け取れないならこのタイミングで断ってほしい。ただし、リスケジュールは一番早くて一週間後なんてことは大いにある。大体において先の予定もすでにびっしり埋まっているから。
1日に1件くらい多くしてくれてもいいじゃない?というわけにはいかない。配送の安全が担保できなくなるから。
そういうわけで、例えば千葉の千倉と東京の府中が午前中で、市原と大田区が午後なんていう希望をうかがっていては、物理的に配送が無理なのだ。残念ながら。
③積み込み
1日の配送を終えて拠点に戻ってきた配送業者は、夜のうちにもうひと仕事する。翌日配送する分の家具を、トラックに積み込む作業である。
昼間のうちに内勤スタッフが調整したコースに合わせて、手前から家具を下ろせるように順に積み込んでいく。
重量バランスも大事なので、おそらく想像よりも技術のいる作業である。
④配送当日
そんな過程を経ての、配送当日である。
道路が空いているうちに、トラックは拠点を出発する。高速道路を使えばもちろん業者もち。なるべく使いたくないのが本音だろうと思う。
最初の現場、市原でソファーを降ろして運ぶとする。
お客さんに挨拶し、ソファーの置き場所と運搬ルートを確認する。もしもソファーが置けるだけのスペースが片付いていなかったら、速やかに荷物をよけてもらうようにお願いする。
置き場所と玄関の段差などに傷防止のマットを置く。家具も建物も傷つけることなく運び込むには技術がいる。
運び込んだら梱包を解き、脚の取り付けなどがあれば組み立て作業をする。
お客さんの希望を確認しながらソファーの位置を決める。
梱包材と傷防止のマットを撤去してトラックに積み込む。
受け取りサインを書いてもらい、挨拶をして出発。
これでもし、次の現場、千倉のお客さんが都合で不在にしていたら。
電話をかけるなど手を尽くすけれど、うっかりで不在にしてしまいすぐに戻ってこられるところにいないことがわかったら。
そのまま次の現場の大田区に向かうしかない。
もし千倉のお客さんの家具がダイニングセットなど、大きくて物が多い場合、それ以降の荷物の積み下ろしは困難を極める。丁寧な扱いは当たり前、パズルのように前後を入れ替えるのには時間も体力も奪われる。
ほんと、冗談抜きでつらいです。これ。
どうにか1日の仕事を終えて拠点に戻ったトラック。千倉のお客さんの家具を一旦倉庫に戻す。
次の予定を立てたとしても、この日のガソリン代、積み下ろしや再連絡の人件費がかかる。それをお客さんに請求できないとすれば、負担するのは家具のショップかこの配送業者ということになる。世知辛い。
⑤まとめ
そんな配送業者さんのお陰で、家具配送は安い金額で実現しているというところがある。
冒頭にも言ったけれど、この仕組みって特にお客さんにはお伝えしてないことなのでわからなくて当たり前かもしれない。
この内容が、作家さんの目に触れることはないだろうけれど、どんな業界も雑にやろうとしている人ばかりじゃないってことは、あのエッセイを読んだ方のうち一人でも多く知っていただけたら嬉しいなと思う。
わたしは彼らには、たくさん助けていただいたから。