龍角散という諸刃の剣
今回、勢いだけで書いたので無料です。サポートはいつでも受け付けております! とは言え無料でお楽しみください。
初めてのゲーム実況でダンガンロンパを選択したのは私なのですが、まさかあそこまで白熱するとは。結果的に何かと叫ぶこととなり、途中の歌枠を含むと、10日間連続で喉を酷使したことになります。久々に喉をやってしまいました。普通にゲームをしていてファンと楽しく過ごしていただけなのに、気付いたら喉がイカれていた。そんな馬鹿な話があるかとお思いでしょうが、この世にはそういった奇怪な現象があるのです。
今朝までは喉の状態をもっと甘く見ていたので、トピアに入り浸って人の枠で歌ったりしていました。何故かと言うと、こんな時に限って睡眠時間が安定せず、最近朝の四時半ぐらいになると決まって目が覚め、頑張って寝ようとするものの眠れず、仕方ないから五時半には起きて仕事部屋に行くというルーティンが出来上がってしまっているからです。しばらくはメールをチェックしたりアキラちゃん関係の企画を考えたり色々していますが、ちょっとするとすっかり暇な気分になるのでトピアで箱集め(応援している人にギフトを投げるための無料ポイント収集の意)を始めます。それもだんだん飽きてくるので、最近はカラオケ枠を開いていらっしゃる配信者さんのところへ行って、隙あらば歌わせていただくという形にして箱集めも楽しくやっている、はずでした。
しかし本日六時頃、起きてそんなに時間が経っていない上に「なんか声が掠れるな」という自覚があったにも関わらず、突然トピアでボーカロイド曲(ベノム)を歌ったところ「掠れる」から「ガッサガサで一定の音域以上の声が出なくなる」までに喉の傷みが進化を遂げました。我ながらアホだとは思いますが、その後も何曲か歌って、私の喉はすっかり瀕死になりました。そこで朝に豚骨系のラーメンを食べたところ、油をとったのが良かったのか、一時はドリカムの「未来予想図Ⅱ」をリビングで熱唱するまでに快復したのですけれども、その後また喉の様子がおかしくなりました。流石に何かしらの脳センサーが働き「お前は本物のアホか」「龍角散買ってこい、声楽家が愛用してるやつ」「あと消炎剤飲め」「バーカバーカ」という脳内モールス電気信号的な何かに心を突き動かされたので、近所の薬局へ行って上記の「龍角散」を購入しました。龍角散は古い歴史を持つ伝統的な喉の治療薬で、現在は「龍角散ダイレクト」という飲みやすい新製品も出ています。が、飲みやすい味になったり溶けやすくなったりで、効能的には本来よりも若干劣ってしまったのか、味もマイルドなら効き方もマイルドといった感じなのです。
そもそも元祖と呼ばれる粉末の龍角散を使ったことのない私ですので、のど飴の龍角散程度の味を予想して「あれは確かに美味しいとはいえないけど、慣れた味だから」程度の気持ちで、説明書通りに粉末の龍角散を喉の入り口に水無しでぶち込みました。
するとどうでしょう。生まれてはじめて自分の味覚を疑い、一気に水で流し込みたい衝動を堪えるのに相当の精神力を要する羽目になりました。正直ちょっと震えが来ましたし後悔もしました。
粉末状龍角散の風味を文字で表現するとしたら「地獄」「砂埃」「幕末、銀色仁丹等を拷問用として粉状に砕いたものを口の中に漏斗で流し込まれる刑に処された」等々、どういった側面から見ても前向きな言葉は出てきません。粉末の龍角散を「あれー? え、そんなに不味くない! むしろちょっと好き系かもぉ!」とはしゃげる余裕のある、味覚破壊されたお花畑になりたいと本気で思いました。あまりいい例えではないですが、もしあれがコカインだとしたら私は二度とコカインをやらないと思います。あんな地獄の粉末を味わってまで気分を高揚させたいと思う情熱が一切ないからです。
龍角散によって一時メンタルをズタズタにされた私は一旦仮眠を取り、起きてから再度龍角散に挑みました。すると、リアルに二回ほど大きくえづきました。改めて「美味しくないなぁ……(クソマズじゃねーかよ殺す気か!!!!!!)」とは思いましたが、やはりそこは喉のため。目に涙を浮かべるほど辛かったですが、何とか粉末を喉に貼り付けたまま過ごしました。『水を飲んではならない』。いつの時代も、部活でも、これ自体は虐待だと思うのですが、龍角散の場合はその限りではありません。何故なら、私は水を飲まないことを自分で選択している成人だからです。自ら地獄の血の海に飛び込み溺れもがき、それでもなお喉を治したいという気持ちのほうを優先しているからこそ、説明書に従っているのです。
私は「株式会社龍角散」の公式サイトを検索し、製品情報を確認して、下の方にある「おくすりのめたね(オブラートの役割を果たす、子供用の服薬補助ゼリー)」を見つけ、しかし尚も製品情報のトップに堂々と君臨する粉末状の拷問パウダーこと「龍角散」を改めてまじまじと眺めました。その下に「龍角散ダイレクト」が勿論ありましたが、その製品たちの並びを見て、
「いいですか、あなた。我々の信念と技術は龍角散にこそ詰まっているのです。商品企画開発部の新入社員たちが『龍角散って不味くて飲めなくね? 甘いの作ろうよ! 溶けやすくて飲みやすいやつ! 絶対売れるよ!』『言えてるー! 天才ー!』『あれってぶっちゃけ部屋の隅に溜まってるホコリじゃね? 人間には無理無理アッハッハ』『アッハッハわかりみーー!!』的なクソ会話の末に勝手に作った、あまーい龍角散ダイレクトを飲みたければお飲みなさい。ええ、ぬるま湯に浸かりたければ勝手にそうしたら良い。しかしね、あんたは声優だ。幾多の修羅場を潜ってきたんじゃないのかい。あんたも声優の端くれなら、喉が何よりも大事だろう。ならば元祖の龍角散を勧めておくよ。おじさんが言いたいのはそれだけさ……。あれが、あれこそが……私たちの出した、結果……! なんだ」
という幻聴まで聞こえました。池井戸潤の世界をそこに見たのです。
もしあなたが自分の喉を大事にしなければならない仕事や趣味をお持ちの方なら、粉末の龍角散に挑む気持ちもご理解いただけると思います。そこには拷問、いや三途の川が確実に待っていますが、私はこれを執筆している深夜の今、煙草を控えて龍角散と向き合い、そして明日の朝「喉おかしいことなんてあったっけ? 全然普通だけどな」と晴れ晴れとした顔で言うのでしょう。内心「有難う、おじさん……龍角散という天の啓示を私にくれて」と感謝しながらね。龍角散の缶を胸に抱き締めて、求婚したいとまで慕うでしょう。
もし全く治っていなければ、やはり私のように味が合わない人もいるということなので、その際には龍角散ダイレクトに変更することを決意したということを記載し、末筆とさせていただきます。
吉川華生