カタカナ語
朝、大きなやかんでお茶を沸かしていたら、母が「マタニティ...マタニティー茶!」という。
ある時、玄関の上の棚に‘ナタデココ’があるから取ってくれと言った母は自信満々だった。母がそのようなものを買ってわざわざ棚の上に置いておくなんて珍しいから、わたしは既にそれが‘ナタデココ’でないことには薄々感づいていた。
棚の扉を開けて見てみると、魚の缶詰やナッツ類なんかが備蓄してある、いつもの光景が広がっている。そこでわたしは母の言う、‘ナタデココ’らしきものを検索する。恐らくこれだろうというものにすぐに目星はつく。備蓄品のかごの間に挟まっている、小さなボトル。そこには堂々と‘ アマニ油’と書かれている。わたしはすでに横に広がった口許を顔に張り付かせながら、解答を言い渡した。それが正解だったと知り、甲高い笑い声。ナタデココをココナッツに変換し、ココナッツ油を同じ油の仲間に変換すればよいのだったら、とりあえず繋がっている。
‘マタニティー’というお茶があるのだったら、‘マタニティー茶’は変でしょ、と密かに思う自分が可笑しい。本当は‘マテ茶’なんだけれど、カタカナが苦手な母はその苦手意識の所為で、妊婦さんとごちゃごちゃにしてしまうようだ。わたしにとっては愛すべき面白い母である。
彼女はわたしがすすっている米粉でできた麺をみて、「ホー」と呟く。それじゃフクロウじゃん!というようなやり取りをこれからも続けられたら幸せということだな、きっと。ふふふ。