見出し画像

楓 作「 妻とヒサコと膝枕と……」(会話バージョン)

 先日新しくアップした作品 ⬇️


 「 妻とヒサコと膝枕 」の会話バージョン
 です。

 登場人物が沢山出てくるので、膝枕と……に
 しています。


 色んな方と楽しんで朗読していただけると
 嬉しいです。
 読みやすいように変えていただくのは
 🆗です。
 読まれる時は、聴かせていただきたいので
 TwitterのDMにひとこといただけると
 嬉しいです。






【 それからの...妻 】




 あれから数か月
 ホストクラブには1度行ったきり
 心の隙間は埋まらなかった。


 お盆休みは久しぶりに帰ってくるのか?
 夫に聞いてみた。

 会社から、他県への移動は自粛するように
 言われているから
 今回も帰れない…と言われた。

 体のいい言い訳?

 本当かも知れないけれど
 もう、何を聞いても疑ってしまう。


 まず、旦那の状況はどうなってるのか
 探ってみることにした。

 こっそりと旦那のアパートへ

 あの日以来のこの道…


 またあの女がいたらどうしよう。
 悪い想像ばかりが浮かんでくる。

 視界に男性の姿が入ってきた。
 ふと見ると 

 配達員の恰好をした体格の良い男性が
 段ボール箱に話しかけている?


 あの箱…もしかして

 近くに行ってみるとやっぱり!
 押し入れに入っていた、あの段ボール箱…

 会話が聞こえてきた。


配達員「おまえあの時の膝枕か…どうした?
    捨てられたのか」

   「え、帰りたいのか。わかったわかった
    連れてってやればいいんだろ」

 捨てられた…

 連れてってやる?


 妻 「待って、やめて下さい!!」

 配達員の男は驚いた顔でこっちを見ている。

 妻 「あの、ごめんなさい。私その
    その箱の届け先の か、家族です。
    困るんです、また運ばれても。
    ほんとに困るんです!!

    あの、突然こんなお願い、失礼だと
    わかってます…ごめんなさい。でも…
    そのまま捨てておくか、持ってって
    もらえませんか?」

 緊張のあまり
 早口でまくし立てた。

 配達員「え!ご家族? えっと、奥さん
     ってことですかね? あ…うーん。
     いや、あ、うーん」

 明らかに困ってる。わかってる…でも。
 旦那がせっかく膝枕を捨てたなら、また元に
 戻られるのは嫌だ。


 妻  「ごめんなさい!!お願いします!」

 男の返事も聞かずに、走って駅に向かった。


 建物の陰から振り返って見ていると
 しばらくしてから、男は箱を持ち上げて
 アパートとは別の方向へ去っていった。

 配達員さん、優しそうな顔してたし
 断れなさそうな感じだったから
 きっと連れて帰ってくれるに違いない。

 良かった!!
 これでひとつ解決したような気がした。

 問題は、あの「ヒサコ」という女

 旦那の会社には、実はアケミという友人が
 働いている。

 こんな恥ずかしい話はしたくはないが
 調べてもらうことにした。


 アケミ「今、時間大丈夫? 調べてみたよ…。
 うーん。ちゃんと知っといた方が良いよね?」

 妻  「ごめんね、変なこと頼んじゃって
     何でも教えて」

 アケミ「うん、いたよヒサコ。見に行って
     来たよ。すごく綺麗ってわけじゃ
     ないんだけど、雰囲気のある子で
     40前くらいかな~  
     大丈夫?聞いてる?」

 妻  「あ、聞いてるよ。大丈夫大丈夫」  

 アケミ「そう?わかった、じゃあ続けるね。
     で、真面目そうな子で、周りの評判も
     まずまずだったわ。
     ただ…なんか…社内で、少し噂に
     なってるみたいなのよね」

 妻  「え、そ、そうなんだ」

 アケミ「ふたりで歩いてるのを見た人が
     何人かいて。付き合ってるのかな?
     って」

 妻  (ため息)

 アケミ「もしかしたら、上の人に知られるの
     時間の問題かも。いま、そんな状況
     だよ」

 妻  「そっか、わかった…あの人の出方を
     見るわ。アケミ調べてくれて
     ありがとう」

 まだ、続いてたんだ。


 正直、旦那に対して
 好きって気持ちがあるのか?もうわからない。

 裏切られた"むなしさ"だけが沸き上がってきて
 涙が勝手に流れていた。 


 それから数日後、旦那から電話が来た。


 妻「なに?どうしたの?」

 夫「あぁ、今回辞令が出て転勤になったんだ」

 妻「え…あーそうなんだ。どこ行くの?」

 夫「うん、沖縄」

 妻「沖縄……」

 夫「まあ、あと数年で定年だし、君は都会が
   好きだろ、沖縄暑いし興味ないもんな?
   10日後には引っ越すよ。
   あ、コロナだから手伝いいらない。
   引っ越しパックでやっちゃうから。
   住むとこ決まったら連絡する、コロナが
   落ち着いたら遊びに来るといい! 
   じゃあ、用件は以上」

 妻「あ… ねえ!…ちょっとねえ…」 
   電話切れてる。いつもそう…
   まだ話してるのに、全然聞いてない。


 私はその夜、アケミに連絡した。

 どうやら、二人の関係が会社にばれて
 夫は島流し。
 ヒサコは居づらくなったようで退職するらしい。


 きっと、ヒサコを連れて行くのよね。
 私に、沖縄に来れば…とは言わなかったし。

 もう、あの人は戻ってこないのかも知れない。


 あなた彼女がいるんでしょ!どうするつもり?
 と聞いてみようか? 

 でも、"そうだよ"って言われたらどうしよう?
 はぁ…もう、こんなことばかり考えるの…
 疲れた。


 迷った挙句、彼に電話をしてみた。
 泣きながら話を聞いてもらった。
 昔からいつも私の味方になってくれる。


 そして私は…別れる決意をした。




【 それからの...ヒサコ 】




 田中さんとの関係が社内の噂になり
 彼は沖縄へ飛ばされた。



 私は刺さるような視線に耐え切れず
 会社を辞めた。
 もうすぐ40歳。これからどうしよう。

 彼からの連絡を一生懸命待ってみた。


 夫  「なかなか連絡できなくてごめん。
     心配かけたね」

 ヒサコ「うん、ううん…」

 夫  「仕事まで辞めることになって…
     迷惑かけちゃったね。一緒に…
     沖縄行く?」

 ヒサコ「え!!ホントに? 行っていいの?」

 夫  「うん、いいよ。このまま単身赴任
     だから、うちのは暑いとこ嫌いだし
     付いてこないから大丈夫だよ」

 ヒサコ「嬉しい、田中さん大好き!」


 やった~!!

 こんなことってある?

 最高に幸せ!

 どうしようどうしよう!

 あ、そうだ!荷造りしよう!!



 ああ、妄想が膨らむ… 
 きっとそのうち一緒に
 なれるのかも。

 そんな想像が頭の中で膨らんで、やっと
 幸せになれるんだ…って思った。


 沖縄は、暖かくて心地良かった。
 私たちの新しい生活を祝福してくれてる。


 しばらくすると、奥さんから離婚届が
 送られてきた。

 こんなに早く、私への道が開かれているの??
 嬉しい反面、ちょっと怖くなった。
 これが、幸せ過ぎて怖いということか。

 あ~人生絶好調!!


 このときは
 そのあとのことなんて、全然考えてなかった。


 沖縄に来て、一年が過ぎ
 事務のバイトをしながら、彼との生活は
 幸せだった。


 ところが、彼が体調を崩し始めた。

 仕事を休みがちになった。


 ヒサコ「どうしたの?」

 夫  「疲れてるんだ・・・」

 ヒサコ「そっか…」

 夫  「ごめん。新しい職場だからね。
     仕事も慣れないから」


 彼は、メンタルがやられている。

 段々、彼と過ごす時間が苦痛になった。

 数か月が過ぎ、彼は仕事にも行かず
 家に引きこもるようになった。
 お酒の量も増えて
 ただの60近いおじさんになってきた。


 もう、限界。ツライ…
 ため息しか出てこないよ。


 ヒサコ「ふう……」

 夫  「……ヒサコ。話があるんだ。
     こんなとこまで連れてきたのに
     情けない姿になってしまって。
     一緒にいても疲れるよね。
     出ていきたかったら…いいんだよ
     我慢しなくて。君はまだ若いから
     僕には止める権利はない」

 ヒサコ「えっと……。えっと…。
     ごめんなさい、私、何も力になれなくて
     ごめんなさい。でも幸せだった。
     今までありがとう」


 私は急いで荷物をまとめた。


 東京での彼との時間。
 沖縄に来てからの彼との生活。
 無駄な時間だったのかな…


 膝枕に嫉妬して、離れない!と言い張った。
 私だけを見てほしくて……

 膝枕を捨てに行ってもらい
 歯ブラシを置いて通い始めた。

 奥さんにも負けたくないって
 ただ意地を張ってここまできてしまった。

 いろんな人を傷つけて、何やってるんだろう。
 これから、どうしていけば良いんだろう。


 私は途方にくれた。



【 それからの...夫と膝枕 】




 膝枕のワタシは、配達員さんのところに
 引き取られて随分時間が経ちました。


 配達員「おはよう、膝枕さん!
     いいお天気だね、じゃあ行ってきます。
     今夜は10時くらいに帰ってくるよ」

 膝枕 「いってらっしゃいませ…
     ふう(ため息)……」

 配達員「ただいま!今日は膝枕さん何してた
     かな?」

 膝枕 「何って、何も出来るわけないじゃない
     ですか… おかえりなさいませ。
     膝枕どうですか?」

 配達員「え?おれ?膝枕? いやいやいやいや
          ダメだって。アカンアカン!」

 膝枕 「はい、今日もいらないのですね。
     かしこまりました」


 彼の元に帰りたい〜!!
 なぜ帰りたいのかって? 
 生まれて初めて触れたものを、親だと認識する
 でしょう。

 ワタシのプログラムには、そう認識されて
 います。だから、どうしても帰りたいのです。    
 ワタシは毎日祈りました。
 祈り、祈り、祈り続けました。
 そして毎日配達員さんに膝をにじらせ
 お願いしました。


 季節が何度も通り過ぎ…
 配達員さんは、音声配信にハマっていて
 お休みの日は1日中喋ってます。
 声もかけてくれなくなりました。


 もうワタシは、我慢できません!!
 今日という今日は飛び上がって暴れました。

 帰りたい!帰りたい!彼のところに帰りたい!!


 配達員「膝枕さんどうしたんだい? 
     暴れないで膝が傷つくよ!!
     血が出ているじゃないか!!
     え、帰りたいのかい? 
     そんなに諦めきれないのかい。
     わかった、わかったよ。
     奥さんとの約束を破るのは
     申し訳ないけど…うんうん
     帰ろう。送ってあげるよ」

 膝枕 「やった!!ありがとうございます。
     信じていれば奇跡が起きるのですね!」


 ピンポーン


 配達員「宅配便です、サインは結構です。
     玄関に置いておきますね」

 夫  「あ、はい。置いててください。 
     え、なんだこれ。あ、あのゴミ置き場
     に捨てた膝枕!帰ってきたのか…」



 もうすぐ定年

 ひとり身になった彼は、メンタルもボロボロに
 なっていたので、早期退職制度を使って
 会社を辞めました。


 そして小さな島へ、ワタシを連れて
 移り住みました。


 夫 「僕の周りには、誰もいなくなったよ。
    結局君だけだね、そばにいてくれるのは。
    ごめん…捨てたりして」

 膝枕「そうでしょう、そうでしょう!
    やっとわかってくれましたね」

 夫 「これからは、君とずっと一緒だよ」

 膝枕「これからは、ワタシだけを愛して
    くださいね!アナタの頭はワタシ
    だけのもの。今までの行いを
    反省してください」

 夫 「取り扱い説明書の、注意書きのように…
    一生大切にします」

 膝枕「はい。
    ワタシの願いは、愛する人と
    一生一緒にいること。
    ずーっと大事にしてくださいね!」


 すべてを無くした男は

 「箱入り娘膝枕」に愛を誓うのであった。


                                                           終










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?