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楓 作 「続・未来への一歩〜拾われた膝枕」


今井雅子先生の作品「膝枕」の外伝を
書かせていただきました。
ご覧いただきありがとうございます。

今井雅子先生の「膝枕」も合わせて
ご覧ください。

今井雅子先生の正調膝枕と
その派生作品はこちら

「続・未来への一歩〜拾われた膝枕」


雨の日の帰り道。
すれ違った車が、スピードを緩めないまま
通ったおかげで、私の足に思い切り水しぶきが
飛んできた。はぁ…ついてない。
201号室の男が、アパートのゴミ置き屋に捨てた段ボール箱を思い出した。

通販好きの男。
箱の中身は腰から下の膝枕。
あの膝枕が届いた日から2ヶ月後…
男の部屋には、女が通うようになった。

そして、あの段ボール箱に入れられた膝枕は
ゴミ置き場に捨てられていた。

雨に濡れ箱も汚れ、まるで寂しく過ごしている
自分のように見える。惨めだ…
捨てられた膝枕に自分を重ねてしまうなんて
私もかなりの重症ね。

部屋に戻って来たけど、汚れてるだろうな〜
寒くはないかな?と気になって仕方がない。
やっぱり見に行ってみよう。

雨の中、しばらくゴミ置き場の段ボールを眺めていた。
どのくらいの時間そこに立っていたのだろう…

ふと、カタカタ動いていることに気がついた。え、動いてる。気のせい?
箱の中をそっと覗いてみる。

ゴソゴソと膝と膝を合わせて
何かを伝えたそうな素振りをしている。

「う、動いてる!!!」
「どうしよう、雨に濡れて汚れてるし
 捨てられてるから持って帰っても良いよね…」

人が居ないのを確認して、傘を畳み段ボール箱を持ち上げる。結構大きいな…

家に着いて、箱から膝枕を出した。
まずは、全体を綺麗に拭いてあげた。
膝を内側に寄せてありがとう?のような
お辞儀みたいな動きをした。
感情表現も出来るんだ。

あ、スイッチが付いてる。
でも電源コードはない、電池入れるところもないなぁ。ソーラーかな?
明日晴れたらベランダに出してみよう。

膝枕を綺麗にしたら私も安心したのか
眠気に襲われて、そのまま床の上で寝て
しまった。

朝方、ぶるっと寒気がして目が覚めた。

「あ、いけない〜そのまま寝ちゃったんだ。
コンタクトがバリバリ…」

外さなきゃ… 起きようと思った瞬間、足が
つった!!

「イタタタタタ〜」

足が冷えるとすぐつってしまう。
痛い…ふくらはぎまで痛みが走る。
こんな時、ひとりで耐えるしかない。

「あ〜あ…足を伸ばしてくれる彼がいたらなぁ」

また寂しさに襲われる。
朝からなんなのよ〜

今日は晴れてる。
窓を開けて、ベランダに出てみた。
そうだ!昨日拾ってきた膝枕を出してあげよう。

光を浴びて、膝枕も気持ち良さそうに見える。
ゴミ置き場にしばらくいたからきっと疲れてる
かな?

土曜日の朝はゆっくりと朝寝坊。
ゴロゴロしていたらお昼になったので、膝枕を
ベランダに置いたまま近所の商店街に買い物に
出かけようと玄関を出た。

201号室のドアが開いた。
男が女性と出て来た。あれが彼女か。
細身の結構素敵な女性。
腰に手を回して2人で階段を降りて行く姿を
私は上からじーっと見ていた。

まぁ、こんな女がいたら膝枕捨てるよね〜。
家に膝枕なんて飾ってたら、女も気味悪がって
逃げ出しちゃうか。

いつもなら、こんな光景見たらすごく嫉妬しちゃうけど、今日はなんだか気持ちが落ち着いてる。うん、別に気にならない。

私の気分もジェットコースターだな…

ずーっとずーっと戻って来ることが出来ない
海の底まで気分は落ち込んでたのに。
なんでだろう?天気のせいかな?

朝から歩いてなんだか気持ちいい。
前向きな自分に生まれ変わった気分。
いつまでも、こんな気持ちでいられたら良いな…

あ、そうだ、AIチャットくんにも言われたんだった。前向きに、自分を大切にしていこう。

さ、帰ろう。

清々しい気分で部屋に戻った。
ベランダに出していた膝枕を見に行く。
あ、ライトが付いてる、充電出来たんだ。

部屋の中に入れた。
拾って来た時より、なんだかシャキッとして
元気そうな膝枕。スイッチのところには
【男】【女】と書いてある。
試しに男の方に、入れてみよう。

「こんにちは、恋愛マスター内蔵
ナビ搭載膝枕"マス男"です」

「え!喋った!!!会話が出来るの?」

「ナビ主さん初めまして、マス男です
あなたの恋愛をナビゲートします」

「え?恋愛マスターなの…私なんかでも
ナビゲートしてくれるのかな?」

「大丈夫です。優しくサポート致します」

「本当に?ありがとう…」

びっくりした〜喋るなんて…
なんだか男の人だし緊張する。
201号室の男性は、この膝枕に恋愛相談してた
のかな?それで上手くいって彼女が出来たのかな…もしかして、ナビゲートしてもらったら私にも彼が出来る??そんなわけないよね。期待するの辞めよう…ダメだった時また落ち込むし。

スイッチどうしよう。消しておこうかな。

スイッチをOFFにした膝枕はちょっと寂しそう
に見えた。

やっぱり暇だし、スイッチ入れてみようかな。

カチッ
「どうしました?ナビ主さん、マス男です
ご用件をお伺いします!」

「ご用件…ってほどでもないんだけど
あの…マス男さん、私、なかなか彼氏出来なくていつも男の人に都合良く使われてるような。
なんでこんなに恋愛が下手なのか。
はぁ…こんな愚痴みたいなことを言ってもしょうがないか」

「ナビ主さん、大丈夫ですよ。何でも話してください。私がナビゲートしますから」

「あ、ありがとう…ございます」

私はこの日から、ナビ搭載膝枕の恋愛マスター"マス男"さんと毎日話すようになった。
男の人と話すの苦手だったけど、マス男さんは
すごく寄り添って話を聞いてくれる。
そして、色んなアドバイスもくれる。

いつも、自分を否定してる私に

「大丈夫ですよ自信を持って。顔を上げてください」と声を掛けてくれる。

いっそのこと、マス男さんが人間だったら
良かったのに。マス男さんみたいな優しい人と
付き合いたい…マス男さんのような…。
はっ!私ったら何考えてるんだろ。バカね。

「ナビ主さん、彼を作るためのアドバイスを
今日はお話ししますね。インプットはそろそろ
おしまいです。アウトプット、実践して行きましょう」

「えっ!!あ、はい。そうですよね。マス男さんを頼ってばかりじゃなくて、そろそろ自分の足で歩いて行かなきゃいけませんね」

「ナビ主さん、自信持ってください。あなたなら大丈夫です」

マス男さんが、話し始めた。

彼氏を作るにはまず

1. 自分自身をよく知る
自分の魅力や趣味、好みを把握し、自信を持ち
ましょう。

2. 外出する
外出することで新しい人や出会いが生まれる可能性が高まります。友達との食事やパーティー
趣味の集まりなどに積極的に参加しましょう。

3. オンラインでの出会いも活用する
インターネットやスマホアプリでの出会いも
チャンスです。ただし、安全面にも注意しましょう。

4. コミュニケーションを大切にする
相手と積極的にコミュニケーションを取り
自分自身の魅力をアピールすることが大切です。

5. 自然な流れに従う
焦らず、自然な流れでお互いに気持ちが合えば
付き合うように誘ってみましょう。ただし、強引にアプローチするのはやめましょう。

「マス男さん。私に…出来るかな」

「ナビ主さんゆっくり、出来ることから少しずつ始めていきましょう。きっと素敵な人に出会えますよ」

こうして、私はマス男さんのアドバイス通り
まず自分に向き合い、そしてメイクとファッションアドバイザーの人を探して相談した。

メイクをしてもらったら、驚くほど自然に笑顔になれた。
つけたことのない色を唇に塗ると、違う私が現れた。私、こんな顔になれるんだ。

それは、メイクが濃いわけでもなくて、内側から溢れ出たもの。綺麗にするのが楽しくなった。
メイクを替えたら背筋が伸びた。

ファッションアドバイザーの方に、似合う服を
セレクトしてもらった。
今まで何を着たら良いのか?何が似合うのか?
わからなくて迷子になってた。

渡された洋服を着て、鏡の前に立つ。
え、これが私?
見たことのない自分がそこには映ってた。

色んな事に前向きになれた。
外出するのが楽しくなった。
今までは誘われても、断ることが多かった。
どうせ私なんか行っても…

でも、今は違う。

同窓会や、ワイン会。色んなところへ足を運んでいたら楽しめるようになって来た。

SNSのアカウントも作った。
マス男さんのアドバイスに従って、ラジオも聞くようになった。
土曜日の朝、昼に起きていた私は
ラジオを聞くために8:30に携帯アラームを
セット。そして金曜日は、仕事帰りに電車の中で
ラジオを聞いた。
すると、Twitterでリスナーさんと仲良く話すようになった。リスナーさんの1人からDMが来た。

「いつも仲良くしてくれてありがとう。良かったら今度コンサートに一緒に行きませんか?」

すごい!会ったこともない人と、知り合いになれて一緒にコンサートだなんて!!

なんだか生活に張りが出て来た。

マス男さんからは「そろそろInstagramもやって
みましょう」と言われた。恐る恐る投稿して
いたら、気の合う仲間が増えて来た。

今度良かったら集まりませんか?という話しに、私は思い切って参加してみた!

初めましてなのに、そんな感じしないよね〜。
そう話しながら、新しい出会いが始まった。

たくさん笑って、たくさん飲んだ。
こんなに笑ったの久しぶりだ〜。
あぁ…楽しい夜だった。

帰り着いて玄関を開けると、LINEの着信音が
鳴った。誰だろう?と思って確認すると
さっき別れたばかりの槙野くんだった。

「もしもし、槙野くんさっきはどうも
どうしたの?」

「いや〜特に用はないんだけど、無事家に着いたかな?と思って」

優しい…心配してくれたんだ。心の奥の方が
ふっと、暖かくなった。

そのまま槙野くんと1時間程話して、電話を切った。それから毎日のように槙野くんと話すようになった。

彼とは初めてなのに、一緒にいると懐かしい
感じがした。話していても良く笑わせてくれる。
心地良かった。
彼はゆっくりゆっくりと距離を縮めてくれる。
話すことに慣れて来たところで、2人でご飯行かない?と誘われた。

心地よい緊張感。
槙野くんは私のことどう思ってるのかな?
そんなこと思いながら、食事の後少し散歩した。話の流れで、お互いの恋愛感についても話した。

考え方が合うところが多かった。
もちろん、趣味が合わないものもある。
でも、それは当たり前。何でも合うわけないし、自分の知らない事を教えてもらえるのも楽しかった。

家に帰って、マス男さんに今日のことを報告した。マス男さんは、今までの彼との会話も流れも知っているので、慎重に見てくれていた。いつも私は相手に合わせてしまう。
そこも注意されながら、そして焦らないようにと釘を刺された。

「ナビ主さん、ここまで良く頑張りました。
ナビ主さんは、自分自身を見つめて自信も出て
きました。積極的に外に出るようになりましたし、SNSを活用してお友達も出来ましたね。
槙野さんとのコミュニケーショもgoodです!
もう、私のアドバイスは必要ありません」

「えっ!アドバイス終わりなの?」

「はい、ナビ搭載膝枕 恋愛マスター内蔵
マス男はそろそろナビ主さんとの生活は終わり
です」

「え、アドバイスが終わっても一緒にいられるんじゃないの?」

私はびっくりして、泣きそうになった。

「私の役目はここまでです。ナビ主さんはもう
ひとりでやっていけます。槙野さんと仲良く
お幸せに…。明日、私を捨てに行ってください」

そっか、そういうことなんだ。
この膝枕は捨てられた…というより
恋愛がマスター出来たら、次の人のために
また捨ててもらうんだ。

私はたまたま拾ったのだろうか?

「ナビ主さん、ナビ主さんは素敵な方です。
ただちょっと不器用で、恋愛に慣れていなかっただけ。どんなマインドになれば良いかをお伝え
すれば、すぐ彼は出来るのです。
なので、通りかかったナビ主さんを数回見かけ
ましたが、私の心の呼びかけに答えてくれたのはナビ主さんだけです。心の優しいナビ主さんだから、私はお伝え出来たのです」

私は涙が溢れて、何も言えなかった。
ただただ感謝だけ伝えた。

泣きながらマス男さんの言う通りに
また箱にマス男さんを詰めた。

段ボール箱を抱えて、マス男さんに指定された
場所へと向かう。今度はアパートのゴミ置き場
じゃなかった。

"不用品はこちらへどうぞ"

張り紙のしてある場所に、段ボールを置いた。

「バイバイ、恋愛マスターマス男さん。
ありがとう…」

次はどんな人が拾うのかな?
きっとまたその人を幸せにするんだね。

寂しくなって泣きながら夕陽を眺めた。涙で滲んで良く見えない。でも、いつのまにか下を向いて歩くクセが治ってた。



最後までお読みいただき
ありがとうございました。

膝枕朗読リレー2周年を記念して
5月に3本目をアップさせていただきました!

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