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おせっかいオバハン現る
病気が急に生活に大きな影響を及ぼしてくる。
訪問看護をしていると、こういう場面に立ち会うことがあります。
今年の冬はとっても寒いので、もうそれだけで体調を崩す方もたくさんいらっしゃいました。
郡山の冬はこれからが本番ですね。
暮らしは止められないので、サービスの調整が間に合わないこともあります。
特に、病を持つご本人が家族の中心にある場合。
その方が動けなくなると、一家の暮らしの流れが止まってしまいます。
こんな時、ある程度自由に動ける訪問看護って、いいなぁと思います。
ご本人の同意とケアマネさんの同意を得て、困っているところを支援できるからです。
そんなことがこの年末にあったので、文章にしてみたいと思います。
難病を患うAさん。
調子はあまり良くない日が続いていましたが、ある朝本当に動けなくなってしまいました。
自力で歩いていた人が、自分で起き上がることもできない。
これは大変なことです。
デイサービス先からも「こりゃ大変だ」となり、訪問看護に連絡が入りました。
デイサービスの帰りに合わせて臨時訪問すると、寒い部屋で毛布にくるまって寝ていました。
体の動きを見せてもらい、すぐに受診が必要と判断しました。
クリニックの看護師さんに「もう先生帰っちゃいましたよ」と半ギレされましたけれども、そんなことで怯んでいる場合ではない。
「そこをなんとか、別の先生にみてもらえませんか」
「うーん、ちょっと待っててください」
(話のわかる看護師さんでヨカッタ)
寒い部屋で鼻水を垂らしながらクリニックからの折り返しを待ち、翌日診察してもらえることになりました。
ありがたい・・・
ご家族ともお話。
受診の必要性をお伝えして、付き添いを依頼しました。
ご家族も仕事をしながらの介護で、さまざまな葛藤を抱えていることを話してくださいました。
受診が決まったので、あとは暮らしをどうするか。
時は年末。
さて、どうしようか。
ヘルパーさんが来られない朝、訪問看護しましょう、となりました。
1日目
訪問すると、起きてベッドに座ってはいるけれど、そのまま動けなくなっていました。
自力で薬は飲めた。
身支度を整え、姿勢を整えたところで、ポッケに仕込んできたおにぎりを食べてもらうことにしました。
Aさんが動けないので、食事の準備もできないだろうな・・と思ったのです。
ちなみにご家族の分のおにぎりも持ってきたので、
「あのう・・これ、食べます?」と、居間にいるご家族にも声をかけてみる。
「おう。そこに置いておけ」
(あ、食べるんだ・・・)
「お赤飯なので、あったかいうちに食べてほしいです」
「(無視)」
「あのう・・お赤飯なんで、ごま塩かけた方が美味しいです」
おにぎりと一緒に仕込んできたごま塩スティックをちらつかせると、
「自分でやるから置いておけ」
(やっぱりお赤飯にはごま塩かけるんだ)
「はい。わかりました」
なんか、ちょっとその横柄さが気になりますが、頼まれてもないおにぎりを持ってきたのは私である、と言い聞かせ、Aさんの元へ戻ります。
Aさん、すでにおにぎりを食べ始めようとしていたので、
「あ!ごま塩かけたほうが美味しいから!ちょっと待ってください!」
慌てて居間に戻り、そっと置いてきたごま塩スティックを拝借。
封を切ってAさんの元に駆け寄ったその瞬間、私の手元からごま塩
スティックがするりと落ちる。
(手がかじかんでいたのだ)
おにぎりではなく、Aさんの足元の床にごま塩をかけてしまう私。
「ぎゃーーーー!ごめんなさい!」
あっはっは!と笑って
「コロコロ!」と指示を出してくれるAさんに救われる私。
ごま塩とコロコロは相性があまり良くなく、処理するのが大変でした。
(掃除機の方が相性が良いでしょう。)
ちなみに持参したお赤飯のおにぎりは夫のお母さんが作ってくれるお赤飯で、私の大好物でもありまして。
黙々と食べるAさんに「美味しいでしょう?」とドヤ顔で声をかける私なのでした。
「美味しい」と言って、ペロリと完食されていました。
あったかい食べ物はそれだけで人を元気にしますね。
洗濯機を回して、干して、この日は帰ってきました。
2日目
おはようございまーす、と、そろりと入室したら、
まず、部屋が北海道状態。
(とても寒いってこと)
ご本人は初日よりも調子が良さそうで、座る姿勢も良くなっていました。
まず依頼されたことは、ストーブの灯油を補充することでした。
部屋の温度を適切に整えること。
看護の基本です。
身支度を整えて、追加された薬を確認して、朝ごはんを食べてもらって、退室する流れです。
この日は薬の捜索に時間がかかりました。
あちこち探したけれど見つからず、探すのを諦めて
「とりあえず、お布団整えていいですか?」と言ってお布団を整理していたら、
ベッドの足元から薬が出てきたのです。
「あ、あった」
「そういえば昨日受け取ったかもしれないな」
記憶が曖昧な様子のAさん。
「もーーーー!」となりましたが、結果見つかったんだからそれでよし。
捜索の過程で、Aさんがいろんなところにいろんなものをしまいこむ癖があることが判明しました。
もの一つ取るにしても、自分で動ければ良いのですが、動けない今は大変です。
Aさんの代わりに動いてくれる人がいて初めて成り立つ暮らし。
ご家族にもなかなか頼れない場合はなおさら大変です。
ものの整理についても、Aさんと今後相談しなきゃ・・としみじみ考えました。
朝ごはんも食べてもらい落ち着いたので「じゃ、帰りますね」と伝えると
「待って!」とAさんに止められる。
(「ヨイショ、ヨイショ」)
小さな掛け声で動き出そうとしているAさん。
でも体は動かない。
「渡したいものがあるんだ」
「Aさん!私何もいらないです!」
(咄嗟なことに失礼な物言いになる)
「ちょっと待ってよ」
でも体は動かない。
とにかく、今は時間が必要なのだ。
お薬をちゃんと飲んで、その効果を待つことが、今できる最大限のこと。
「Aさん。動けるようになったらいただくから。
今日はここで暖かくしてすごしててください。また必ず来るから。」
懇願する私。
「うん。ありがとうございました」
私の願いを受け入れてくれたAさんにまた救われた。
私っておせっかいよね・・・
でも、こういう時って、あると思うんです。
相手に選んでもらうが大前提だけれど、選ぶ力が弱っている時って、
あると思うから。
そういう時、私の中の「おせっかいオバハン」が現れる。
でも。
おせっかいと感じるかどうかは相手次第。
困った時はお互い様、動ける私たちが動きます、というのが、
lifeの基本的なスタンスだと思います。
Aさんとのこの数日間が、いずれまたキラキラ輝く日が来る。
ごま塩は本当にただのおせっかいだけど、私もAさんも真剣でした。
揺れ動く暮らしと向き合う時、自分の人間力も試される気がします。
そこでまた成長できる。
だから面白いなと。
ケアしながらケアされていることを強く感じる訪問看護でした。
私は訪問看護が大好きです。
2025年も、日々の訪問看護から感じることを言葉にしていきたいと思っています。
そして、看護を通じて幸せになる人が増えたらいいなと思っています。
今年もよろしくお願いいたします。