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Human Trafficking: Tote Project -2

Human Trafficking/人身売買の話。ふらふらと欧州にぶらり一人旅に行った夫アルゴが、誘拐されそうになった話の続き。

その1。

夫アルゴは、フランスあたりをふらふらしていた。この「人さらいされるかも」の電話の前には「ボートにのって国と国をねぇ、行き来できるんだよねぇ。で、あっちについたら、電車にのってパリに行くね!」とウキウキしていた。正直、私は仕事だの、犬の世話なぞがあり、ほぅほぅ、一人で楽しそうやのぅ(苛)とした。なんせ時差が8時間と微妙。電話がくるタイミングも微妙だったのだ。

どうやら、この国を行き来するという船の中で見知らぬ人に話しかけられ、その人は流暢な英語を喋り、NYでしばらく暮らしていたというような話をしたのだという。夫アルゴは、おぉ、俺もNYからきた。今は気楽な旅の途中で、このあと、電車でパリに行くというような会話をしたらしい。

で、電車に乗っていたら、その人に「またあったね!」的な感じで声をかけられ、相席してもいい?そんな流れから、一緒に電車で旅路を共有することになったらしい。

これだけなら、別に普通の旅の1コマである。だが、しばらく話しているうちに、相手の男は、根掘り葉掘り、いろんなことを聞き始めたらしい。現金を持っているか、とか、素敵なジュエリーつけてるね(その時、夫アルゴはゴールドのネックレスをしていた。ラップの人たちがつけてるみたいなじゃらっとしたやつ)とか。行くとこやホテルは決まっているのか?なんならうちに来ないか。パーティがあるんだ、と、そんな話になったらしい。

このあたりから夫アルゴは嫌な予感がしたんだそうだ。動物的な勘とでもいうか。この人は、危機的状況を察するのに長けているのだ(だからストリートでも捕まったり、ひどい目にあったりしなかったと自慢していた)

警戒しつつ、相手を見ているとどうも向かいの席に座っている人に視線を投げ、頷いたり。周囲に何人かの男性がウロウロして、視線を合わせたりしていたのだという。夫アルゴが席を立つとついてくる。自分が怪しんでいることを悟られないように、できるだけ自然に会話をしようと努めたらしい。疑心暗鬼というか、あれ?と思ったらすべてが怪しく思えるのはいたしかたがない。

「ホテル探したり、俺、疲れているから連絡先だけくれる?」と言う夫アルゴに、相手は「え、ホテルなんて時間かかるし、俺の家にこい」と強引に話を進めようとする。そこで、私に電話をしてきたのである。

まず最初の電話は日本語で「あ、奥さん。ちょっとたいへんデス。モンダイです」というもの。何だこの人?と思い、話をするものの、どうにも話が通じない。夫アルゴは何故か日本語会話に固執する。あとから話を聞けば、なるほど、怪しい人の前で英語を使うのを避けたかったのであろう。だが、その時は理由もわからないから、「一人でふらふら遊びにいってるくせに、まったく。どうせ日本語話せるんだぜって見せびらかしたいだけでしょ!」と私はイライラしただけだった。

わけの分からぬまま、電話を切られ、ふとみるとラインである。ひらがなで「でんわしてください。10ふん」とある。何なのだ、一体。今話したじゃん。と更にイライラしたものの、言われた通り電話をすると今度は英語で今、パリに向かう電車にいること、船の中でフランス人と思われる男性に出会い、家に呼ばれ、パーティに誘われていることなどを英語でいったあと、最後にまた日本語で「10ふん後に電話ください」という。ちなみに夫アルゴは、時間の分。「ふん」と「ぷん」の区別の仕方をイマイチ把握していない。

声はいつもの感じだったものの、流石におかしい。なんぞ、これ、と思い再度、言われた通りに電話をしたときに言われたのがその1で書いた「Human Traffickingのグループに目をつけられた」という会話だった。笑い飛ばす私に、いいから聞け、と深刻な声音で夫アルゴは小声でぼそぼそと続けた。

今、トイレにいるが、トイレの外までその人がついてきていること、油断したふりをしてみたら、別の席に座っていた人に話しかけていたこと。よくよく見たらその人の拳は全部潰れていて(つまりひどく喧嘩なれしている人の手だった)耳も潰れている。夫アルゴが特定の宿を予約していないこと、現金を持っていること、アメリカ人であること、これらのことを数回にわたり確認したこと。

もちろん、夫アルゴのような人が誘拐されることがあるはずないじゃん、などと決めてかかっていた私は、切羽詰まった彼の声を聞いても、まだ大げさなと思っていたのだけど。

「いいかい、真面目に聞いて。あと20分ほどで電車はパリにつく。俺はそこでもうダッシュで逃げるつもりだ。でももし、俺から30分して電話がなければ必ず、大使館なり、警察に電話しろ。あとAppleのサイトにログオンして、俺のスマホの位置を確認して(スマホを無くしたとき用のGPSトラッキング機能を使用していた)」と、そんなことを一方的に告げると、電話は切られた。

ぽかーんである。繰り返すが当時の私は、Human Traffickingのことの重大さがわかっていなかったし、夫アルゴのような体格の人間が攫われるというケースを想定できないでいた。だが、若い頃、散々な修羅場を生き抜いてきた夫アルゴである。彼のおかしい、怪しいと思う直感を私は信じているので、訝しく思いながらも、言われたように、Appleのサイトにログオンした。ちなみに、昔、しでかした浮気事件のあとから、彼は自主的に私に携帯やもろもろのサイトのログオン・インフォメーションを渡していたし、信じられないのであればGPSで辿れ、と言われ、この電話を探すプログラムの使い方も見せてくれていた。

結末。結局、30分してから電話は無事に来た。夫アルゴは興奮のあまり、泣きながら、逃げ切れたのはラッキーだったと言った。相手があまりにしつこかったため、わかった、家にいくよ、パーティにいくよ、と、とりあえず返事をしたのだという。目的地が近づいて、降りるためにドア付近に移動したら、その男が真横に。そして、背後に二人の男性が不自然に、ぴったりとくっつくように立っていたのだという。夫アルゴにアプローチしていた男性は、その背後の二人になにかを話しかけたのだが、夫アルゴには通じない言葉だった。電車が駅につき、ドアがあき、降車すると前の車両から降りてきたまた別の男がズカズカとものすごい勢いで夫アルゴの方へ向かってきたのだという。

そこで夫アルゴは、その場から全速力で走り出した。彼の怪しいと思った直感はあたっていたらしく、夫アルゴが走り出すと同時に、話していた男、背後にいた二人の男たち、そして別車両から降りてきた男が何語か(おそらくフランス語と思われ)で大声で叫びながら追いかけてきたのだそうだ。

身軽なデブでよかったぜ」と夫アルゴは後々そういった。サモハンキンポーかな?(燃えよデブゴンとか、昔、ジャッキーとともに映画で活躍していたデブのカンフー俳優)

しかし、このときほど、自分が日本語を喋ることができて良かったと思ったことはない、とサモハン、否、夫アルゴは言った。「アンタに電話することで、相手との会話を遮ることができたし、連絡できた。で、その安心感があったから、あの場で走り出して逃げようって決めることができた」……そうである。とにかく無我夢中で走り、人混みに紛れたのだという。

「まずほら、アメリカ人のパスポートは高く売れる。俺のネックレスだって100万(日本円換算)くらいの価値はあるわけだし、現金ももってた。そこに予定もなく、知人もいないとなれば、絶好のチャンスだよね。健康な成人男性だから、臓器だって売れるし、殺さなくとも娼夫なり、奴隷なり、使いようはいくらでもあっただろうし。薬なんかで眠らされたら一発よ。多分だけど、あの人らはすごく手慣れてた。色んな犯罪者とかギャングたちを見てきたけど、そういう種類の人間だって話しててわかったんだ。やたらとドラッグの話をしてたから、俺がブラック、しかもアメリカ人で、黒人だから、パーティと酒、ドラッグをエサにして釣ろうと思ったんだろうね」

当時は、ただの気のせいでは?考えすぎでは?と思ったけれど、今になって思えば、おっそろしい話である。

何も考えずに、見知らぬ土地で知り合った陽気(に見える)人が、親切心満載で、え、ホテル決めてない?うちにきなよ!とか。え、予定もないの?知り合いも?それじゃパーティにでもきなよ!なんて言われれば、疑り深くない人であれば、騙されるであろうし。ホイホイついていって、そこに酒だの薬だの盛られてしまったら……そう考えると、こういったグループの犯罪なんて案外、あっさり成り立ってしまうのではなかろうか。

Men and boys may be victims of human trafficking for the purposes of forced labour, forced begging and sexual exploitation, and as child soldiers. The percentage of identified male victims is disproportionately lower than that of women for a number of reasons, including the fact that for many years anti-human trafficking legislation around the world tended to focus on trafficking in women and children or trafficking for the purpose of sexual exploitation, of which most victims are women.
男性と少年は、強制労働、強制物乞い、性的搾取、および児童兵としての人身売買の犠牲者になる可能性があります。 特定された男性の犠牲者の割合は、多くの理由で女性の割合よりも不釣り合いに低い。犠牲者のほとんどは女性です。

https://www.unodc.org/toc/en/crimes/human-trafficking.html

その1に頂いたコメントにもあったけれど、臓器売買なんてこともあるし、少ないとはいえ、可能性なんていくらでもあるわけだし。そもそも、その1に出したデータや数字なんて、生き残った被害者のもの、わかっているもの、警察に事件として届けられたもの、の数字であるので、知らないうちに、数字にもできないケースでの被害者、つまり、命を失ってしまった人だってたくさんいるのだろうと思う。

NetflexのドキュメンタリーにGirl in the pictureという作品があるのだけど。これは、とある若い売春婦の死から話が始まる。彼女の名前が偽名であったこと、遺族になんとか連絡をつけたいと思った友人らが、彼女の形跡を辿っていく話なのだけど。これもまたHuman Trafficking、誘拐が原因であったというお話。亡くなった女性の人生があまりにひどいものでなんで、人間が人間にそんなことできるのかという憤りとやるせなさばかりが沸き起こる作品ではあるが、興味を持たれた方はぜひとも見ていただきたい。

Human trafficking earns global profits of roughly $150 billion a year for traffickers, $99 billion of which comes from commercial sexual exploitation. Globally, an estimated 71% of enslaved people are women and girls, while men and boys account for 29%
人身売買は、年間約 1,500 億ドルの世界的な利益を人身売買業者にもたらしており、そのうち 990 億ドルは商業的な性的搾取によるものです。 世界的に、奴隷にされている人々の推定 71% は女性と少女であり、男性と少年は 29% を占めています。

The many different types of human trafficking mean that there is no single, typical victim profile. Cases are seen in all parts of the world and victims are targeted irrespective of gender, age or background. Children, for example, might be trafficked from Eastern to Western Europe for the purpose of begging or as pickpockets; young girls, for example from Africa, may be deceived with promises of modelling or au pair jobs only to find themselves trapped in a world of sexual and pornographic exploitation; women from Asia may be tricked with promises of legitimate work, which in reality lead to virtual imprisonment and abuse; and men and women alike, for instance those trafficked from South to North America, may be made to work in gruelling conditions on farms.
人身売買にはさまざまな種類があるため、典型的な被害者のプロファイルは 1 つではありません。 症例は世界のあらゆる地域で見られ、被害者は性別、年齢、背景に関係なく標的にされています。 たとえば、物乞いやスリ目的で、東ヨーロッパから西ヨーロッパに子供たちが人身売買される可能性があります。 たとえばアフリカ出身の若い女の子は、モデルやオペア(家族の一員として働くこと)の仕事の約束でだまされて、性的およびポルノの搾取の世界に閉じ込められていることに気付くかもしれません。 アジアの女性は合法的な仕事の約束でだまされ、実際には事実上の投獄や虐待につながる可能性があります。 また、男性も女性も同様に、たとえば南アメリカから北アメリカに人身売買された人々は、農場で過酷な条件で働かされる可能性があります。

なんたること。奴隷制とは廃止されているのでは?!(驚愕)こんなん、奴隷制度の頃と変わっていないではないか。

The International Labor Organization estimates that there are 40.3 million victims of human trafficking globally. 81% of them are trapped in forced labor. 75% are women and girls. 1 in 4 victims of human trafficking are children.
国際労働機関は、人身売買の犠牲者が世界で 4,030 万人いると推定しています。 そのうちの 81% が強制労働に巻き込まれています。 75% が女性と少女です。 人身売買の被害者の 4 人に 1 人は子どもです。
 
Traffickers use elaborate international networks to move women across borders to destination countries. The United Nations identifies Nigeria, Thailand, China, Bulgaria, Lithuania, Romania, Belarus, Moldova, Russia, the Ukraine and Albania as “very high” countries of origin. 人身売買業者は精巧な国際ネットワークを利用して、国境を越えて目的国に女性を移動させます。 国連は、ナイジェリア、タイ、中国、ブルガリア、リトアニア、ルーマニア、ベラルーシ、モルドバ、ロシア、ウクライナ、アルバニアを「非常に高い」原産国として特定しています。 

https://www.worldvision.org.nz/getmedia/3b8dbd60-bb77-4c61-9754-2b1824da7c35/topic-sheet-the_global_sex_trade/

そういや、漫画・アニメBlock Lagoonでもあった。ルーマニアの孤児がHuman Traffickingの犠牲の果てに殺し屋になり、って話。でもこれって、映画やドラマ、漫画や小説だけの話ではないのである。そしてこれを書いていて思い出したけれど、日本でだって拉致事件(疑惑濃厚)はあった。幼い頃に地元の海岸で成人男性やカップルが失踪した事件。
 
Human Trafficking =Human for Sale。たまたま購入したバッグ。それが人身売買被害者たちをサポートするためのチャリティーとして使われることを知った。それをきっかけに私は色々考え、調べて、こうして記事にしてみた。その1の記事にも書いたが、このプロジェクトの目的はAwareness、つまり、人身売買というものについてのこと、それについて知ってもらうこと、が目的の一つである。

なので、これをきっかけに、何かしらのAwarenessを促すことができたのなら幸いだと思うし、こんな非道なことがいつかなくなることを願いつつ、この話を終わろうと思う。

ちなみに、この危うく攫われそうな事件をきっかけに、流石に怖かったのか、夫アルゴは無計画なぶらり一人旅をすることを控えている(当たり前です)
  
Tote Projectのサイト。


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