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米国式葬儀の話【最終話】🍎と愉快な仲間たち 〜葬式編〜

お葬式のお話、最終話である。 アメリカでの葬式事情をお伝えする記事の続き。

皆様は、ハウスミュージックってご存知?クラブとかでズンズン、ドンドコかかってるやつ。

ハウスの起源はディスコミュージックにあります。1970年代のディスコミュージックがDJ文化と共に発展し、80年代、リズムマシンの登場により、現在のハウスの原型が誕生。特徴的なビートは大音響のクラブにおいて、強烈な効果を発揮し、パーカッションや、ピアノ、ギター、ベース、シンセなどのダンサブルな音色と絡み合って、興奮や恍惚、陶酔感などを生み出します。

https://housemusiclovers.net/bigginers/

何、言ってんだ。タイトルどうした?葬式の話やろが、と思われた方がいるであろう、というかいてほしい。だって、普通、葬式がハウスミュージックに結びつくことはない。だが、あったのだ、そのような葬式が。

中編で赤い葬式の話を書いたが、書いているうちに、あれ……そういえば、まだあったわ、なんか日本では絶対に体験しないであろうお葬式。それは、今年の2月に亡くなったおじのお葬式である。

その時にあげた記事は亡くなったおじをずっと愛するおばの姿に心打たれ、しみじみと書いた。私も夫も、みんなめちゃくちゃ悲しかった。イギリス人の強烈なおじを亡くしたことがさ。

だが。その葬儀場では、ずーーーっとハウスミュージックがかかっていた。

下のYoutubeリンクをちらっとでもチェックしていただきたい。私はビジュアル系バンド大好きのBBAであるので、ハウスミュージックには馴染みがないのだが、あまりの衝撃で覚えてしまった曲である。タイトル、その名もLiquor Store

パーティ始まるから、酒屋にいくぜ!酒屋にいくぜ!ずんどこ、ずんどこ、的な曲であり、なぜこの曲を…と思った。いわく、おじが生前、死んだら葬式ではハウスミュージックをかけるように、と常々言っていたらしい。おじはハウスミュージックが大好きだったのだ。で、彼のスマホ、パソコンに残されていた音楽をかけたのだという。

皆がさめざめと泣く中、大音響で響き渡るハウスミュージック。カオスじゃん。カオスでしかないよ。だって、泣くじゃん?くぅぅってなるじゃん。嗚咽の合間に、ずんどこずんどこダンスミュージックよ。ダンサブルな音色よ。なんだよ。しかもおじ家族はわざわざおじ所有だった音響のいい、ベースのゴリゴリ響くスピーカーを式場に持参である。

このように、故人の好きだった音楽を会場で流す、というのもよくある話。先日のおじのお葬式でもおじの好きだったソウルミュージックがかかっていた。元同僚の旦那さんが亡くなった時もお葬式にいったが、そこではSons of Anarchyという当時、大ヒットした白人バイカーギャングドラマ(下記リンク参照)非常に激しい感じのドラマだがそのテーマソングが延々とかかっており、参列者はみな、ひそひそと、お、Sons of Anarchyだ。あ、Sons of Anarchyと口にしていた。葬式だっつのに、白人バイクギャングの話してる場合ではないのだ。

これらのBGM、もしくは式中に流される音楽は故人、家族からの要請にて流されるので、特に指定がなければ、静かなクラシックなどがかかっている。多分、指定のないのが普通だとは思う。ハウスとかソウルとか、サンズオブアナーキーとかさ。おかしいだろ。

この「ハウスミュージックイギリス人おじ」は宗教色の一切ない葬儀をと望んでいたらしく、司会進行はおじの長男(夫アルゴのいとこ)が執り行った。彼はとても良い人なのだが、マイペースで独特の世界観を持っており、また、うっかり八兵衛もびっくりな、そんなん、誰がしでかすのよ!というようなうっかりをしでかす人物。ちなみに、うっかり八兵衛とは、ドラマ水戸黄門に出てくる軽口を叩いて反省する際に発する口癖の「こいつはうっかりだ」から「うっかり八兵衛」と呼ばれている。役回りは一貫してコメディリリーフで、殺伐とした内容になることも多い話を和ませるというキャラである。

堅物であったおじは、いとこ氏のファッションについてよく怒っていたが、これが一番俺らしいと思うし、親父もきっといつもみたいに苦々しい顔をして、けっと言うはずである 俺はそうしたいと主張し、彼は、ピンクのシャツに、トゲのついた謎の黒ジャケット(あちこちにワッペンがつけてある。おそらく自作だと思われ)……え、なに?北斗の拳の雑魚キャラ?みたいなトゲトゲジャケットである。画像参照。これに、下は黒革のハーフパンツに、じゃらっとチェーン付き。足元はコンバースの黒スニーカー。いや、黒いけども!黒いけども!自由がすぎるやろが!

めっちゃトゲトゲだった。こんなんだった。
北斗四兄弟の中でも、もっとも残念なキャラクターであるジャギ。私は好きよ!ジャギさまぁぁ

だが、彼はそんな風であると親族一同、わかっていたので、そうね、あなたらしいし、おじさんも喜ぶわみたいに普通に受け入れられていて、え、私がおかしいのか?硬いのか?としばし、自問自答した。ちなみに、いとこ氏は身長185センチ、体重多分120キロくらいのブラザーである。でかい。でかい上に、奇抜な格好すぎてどこにいても目立つのだ。ちな髪型はモヒカン、トップは緑色である。ますますもって北斗の拳、雑魚キャラではないか。

日本人的には、そして(多分)多くのアメリカ人は、まずお葬式に行くなら服どうしよってなるはず。今回、タイトル画像で使わせていただいたマサルさんのイラストもタグは、喪服とあり、Noteでも喪服の記事を書かれてらっしゃる

私の場合、父が病院でいよいよ、となった時、母が「今から喪服を仕立てることはできないから、とにかくきちんとしたものを買いにいかないと」と我々3きょうだいを高級服店に連れて行った。当時は、ババァ!お父さん死んでないのに喪服の心配とはこれいかに!と大層、憤慨したのだが(20代前半だったし)後々になって、日本全国から父の弔いに来てくれるのだから、喪主、そしてその家族がみずぼらしい格好であると失礼にあたるし、何より、お父さんに恥をかかせることになる、というようなことを言われてなるほどなぁと思ったし、確かにしっかり準備して良かったと弔問客の人数、顔ぶれをみて、暴言を許しておくれよ、ママンと、反省した。

そういった経緯があったから、北斗の拳雑魚キャラジャケットのいとこ氏をどうかと思ったけど、残された家族も親族も、イギリスの親族も、いとこ氏はこれでよし、と思っていた風なのでよいのであろう。感覚的な話ではあるが、やはりこの国は貧富の差が激しいというのと、自由の国というので、よく言うTPOに応じた服装や振る舞いが日本のものと比べてユルい気がする。

アメリカにきて参列したお葬式では参列者が全員、喪服(フォーマル)だったことがない。半分くらいフォーマル、残り半分、自由。そんな感じだ。これもまた、文化の違い、考え方の違いなんだろうなぁと思う。そこに人種による慣習だとか考え方の違いも混じってくるから更に複雑化し、さらにsocioeconomic status(社会経済的地位)も絡むとますます「一概には言えない」という状況になるのである。

ともあれ、見た目は奇天烈というか、ちっとも葬式らしくないいとこ氏ではあったが、立派に式を終え、うっかり八兵衛しなくてよかったと私は安堵し、私達夫婦は、感動した。式ではよかった。

だが。後日、おじの遺骨を引き取りにいった折、このうっかり八兵衛黒人版は、なんと。よりにもよって、すっころんでおじの遺灰をばらまくという失態を犯してしまったのだ。八兵衛どころの話ではない。よりによってなんで、遺灰持ってるときにそんな!と思うがこれもまた彼らしいといえば彼らしい話で、おじもまた『このアホが!』と生前と同じように怒ったことであろう。ちなみにばらまいた遺骨はなんとか、拾えるだけ全部を手でかき集めて戻したそうで、いとこ氏曰く、全部ぶちまけたんじゃなくて、ちょっとだけだったよ、とのこと。いやそれでもさぁ……

ともあれ、そんな様々なお葬式を経験してきた中で、私自身も先行きについてぼんやりと考えねばならぬ年頃、健康状態である。なんせ過去に3回は、もうあかん、死ぬ、これ、という喘息発作をしでかしているのである。

私は、差し上げられるだけすべての臓器を献体し、髪の毛もできるならヘアドネーションしてほしい。皮膚もアトピーの研究に使えるならひっぺがして構わん。夫が望むのであれば、タトゥーを入れている箇所のみひっぺがして、鞣して額装にすればいい。(そういうサービスがある)ゴールデンカムイみたいでいいじゃない?ふふ。

で、火葬した後、ママの遺灰と混ぜて宝石にしてそれを夫につけていてほしい(再:そういうサービスがある)余った遺灰はほんのちょっぴりでいいから、小さな瓶にでもいれて父と同じ墓にいれてもらえれば幸いである。おそらく、火葬、皮膚の鞣しと宝石錬成、小瓶の送料で死亡保険は全部使うだろうから、葬式はいらぬ。墓もいらぬ。あと人工関節の股関節はデカいチタン製であるので廃棄する場合は病院に確認すべしと、言う旨の遺書のようなものをしたためている(2回目の発作で半年くらい入院したときにしたためた)とはいえ、弁護士とか正式な手続きを経て作成したものではないから、それはそのうち正式なものにしようとは思っている。

ちなみに皮なめしサービス、もとい、Preserved Tattoo Skinは 約13センチ四方のサイズで$1700ドル。全身の墨だと1千6百万円。ブラックジャックの漫画にもあったわよね。全身の入れ墨が博物館に飾られるお話。余計すぎる情報だが、私は左の胸にちょうど13cm四方くらいのタトゥーと、腰にある夫の詩と蓮の花のタトゥーは、大体20cm四方くらいだから、2枚鞣したら、大体、5000ドル〜8000ドルくらいらしい(いくらかかるか問い合わせた)こちら皮なめしサービスのニュース。

遺灰宝石錬成(ちゃんとMemorial Ringとかそういう名前がある)は、ダイヤモンドにするなら、0.1-0.19カラットのダイヤモンドが$2,999から作れる。27〜28万円くらい。1/2カップの遺灰が必要。2カラットのものを作るには、$28,000(3百80万円くらい)。普通の2ct ダイヤモンドリングの価格は$8,000 to $50,000くらいだから、まぁまぁのお値段なのである。

遺灰って結構な量になる。日本だと骨の形のまま骨壷にいれるが、アメリカでは粉末状になっている。日本と違って火葬にすごく時間がかかるのは、おそらく、火葬場というような施設が存在しないのと、粉末化する作業なぞもあるのであろう。詳しくはよくわからないけれど。友人は、親戚が亡くなった時に荼毘に付したのだが、宅急便で送られくる際に、梱包が甘かったのか、なぜかお骨が漏れていて大変だったと言っていた。日本では絶対にありえない話。ひっどい話である。

義母は小身長150センチくらいであったが、それでも4姉妹+夫兄、夫弟分の小さい骨壷(10センチくらい)うちにあるメイン骨壷(高さ20センチ、幅10センチくらい)それに、男きょうだいのロケットペンダント5つ、我々夫婦のロケットペンダントで2つ。以上に分骨された。調べてみたら、About 5 pounds for an adult. The weight can vary from 3 pounds all the way up to 10とあった。大人の平均で大体、2キロくらい。1キロから最大4.5キロくらいまでになるらしい。

そう考えると不思議なもので、人は、生まれてくる時、大体2-3㌔くらいで、亡くなるときもそれくらいの重さになる、というのはうまくできているなぁと思える。

でも、おじのハウスミュージック葬式を経験したら、なんならビジュアル系の音楽をかけ続けて、会食でもして、あの人、あほやったなぁくらいに覚えていてほしい、と言い残すのもいいかもしれない、と最近はちょっぴりそんなふうにも思っている。

夫アルゴは「お前が死んだら、お前を殺して、俺も死ぬ」と常々、意味のわからないことを言う人なので(で、いやもう死んでますよって私がツッコむのもセット)りんご(犬)なぞも私がいなくなったら寂しさのあまり死ぬかもしれないので、まだまだ死ねないなぁとは思うのだけど。ふと思い立って改めて数えてみたら、これまで私は15記事(この葬式記事3つをいれたら18記事)誰かの死や葬式、死に関して思うこと、そんなことを書いていた。これまでの記事が220記事なので、Ring Note,8%は死にまつわるエトセトラなのだ。これは結構な数だと思う。

どんな人にも死は平等に訪れる。病気でも、事故でもそれは確実に、でも不意にやってくる。だから、自分が死を迎えるとき、残していく人たちに迷惑をかけたくないし、悲しんで欲しくもない。私はかつて、死にたいと思い、でも死ねなかった。ならもう生きるしかねぇ、でもどうせ生きるなら楽しく、幸せに生きたいと思った。だからこんなふうに言葉にして、文章にしておくことで、しっかり覚えておこう、とか。心づもりを忘れたくない、なんてそんな気持ちもあるのかもしれない。

というわけで長々とお付き合いくださりありがとうございました。

この葬式の記事をやどかりさんが紹介してくださいました。やどかりさんの記事は、『ボーダレス アイランド』(2021/日本/台湾)という映画の紹介。とても興味深い映画の紹介記事ですので、ぜひともチェックしてみてください(やどかりさんはたくさんの本、映画、音楽のレビュー記事を書かれている博識な方です)。


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