🍎家の食卓【３】たかがパイ、されどパイ

我が家の食卓・料理事情なぞを綴っていくこの🍎家の食卓シリーズ。3回目の今回は、ブラック・アメリカンの妻らしき記事である。別にフェミってわけではないけど、女に家と書いて嫁って、この漢字、私は好きではない。ので、妻、と書いてみる。

以前のNoteで触れたがもう長いこと、クリスマスやサンクスギビングなぞのアメリカ的大イベントでは私が料理をする。亡きママが教えてくれたレシピで。もともと、料理好きであるので、教えられたレシピを完全にマスターしている。

これはいつの事件だったが忘れたのだが、とあるイベントディナーで起こった事件である。夫アルゴはブラックであるので、ママに教わった料理はソウルフードと呼ばれるものである。ソウルフードとは、と調べると

米国南部の黒人の伝統的な料理。豚の内臓の煮込み、ナマズのフライ、コーンブレッドなど。

https://kotobank.jp/word/%E3%82%BD%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89-668144

と、出てくる。有名なものは他にチティリン（臓物煮込み）やガンボなどがあるが、アルゴ一族は生まれも育ちもNYであるので、ナマズやガンボは食べない。アメリカ南部と北部の違いは言葉（アクセント）や文化もろもろあるが、食生活も結構違う。そして、南部と北部に違いがあるように、食べ物もまた白人・黒人で違う。

私が体感として感じる白人の家庭料理と黒人の家庭料理の違いはフレイバーである。淡泊対濃厚。あっさり風味とコクの濃い料理とでも言おうか。

ちなみにソウルフードについてはコチラに詳しくある。

フライドチキン、ナマズのフライ、または豚肉料理（腸、ハムあるいはポークチョップ）で、サイドディッシュとして、黒目豆のシチュー、サツマイモのシロップ煮、葉野菜の煮物（キャベツ、コラード、ケール、カラシナ、カブラ菜など）、チーズマカロニ、ライスなどが付きます。パンは通常コーンブレッドですが、小麦粉のパンが出される場合もあります。人気の調味料は、カイエンペッパーの辛いソース、香辛料、お酢です。また、アフリカ系アメリカ人が必ずと言っていいほど飲むのは、「レッドドリンク」と呼ばれる赤色の甘い飲み物（炭酸やパンチ、または粉末ジュースから作るタイプ）です。デザートの種類も豊富で、バナナプディング、ピーチコブラー（モモの焼き菓子）、パウンドケーキ、サツマイモのパイが圧倒的な人気です。

https://amview.japan.usembassy.gov/celebrating-american-soul-food/#:~:text=%E3%80%8C%E3%82%BD%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%81,%E6%96%99%E7%90%86%E3%81%8C%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E7%9A%84%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

なのだが、先述した通り、アルゴはナマズは食べたことがないし、黒目豆のシチューも食べない。豚肉も食べない。だから人それぞれ、ソウルフードもまた地域により様々なのであろう。そして引用した文で太字にしたサツマイモのパイが今回のトピックである。安定のRingoノート、長い前置き。

「アメリカ、サンクスギビング、料理」で検索するとわかるのであるが、ここで必ず出てくるのが、パンプキンパイ。秋の実りの象徴のようなものであるが、こちらをご覧いただきたい。

サンクスギビングのディナーを英語で楽しむ：伝統的料理10選
1. Turkey（ターキー） 
2．Stuffing/Dressing（詰め物／ドレッシング） 
３．Mashed Potatoes（マッシュドポテト）
４．Gravy（グレービー）
5. Cranberry Sauce（クランベリーソース）
６．Corn（とうもろこし）
７．Green Bean Casserole（グリーンビーン・キャセロール）
８．Candied Yams（ヤムイモの砂糖煮）
９．Pumpkin Pie（パンプキンパイ）
１０．Pecan Pie（ピーカンパイ）

https://www.fluentu.com/blog/english-jpn/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%AE%E3%83%93%E3%83%B3%E3%82%B0%EF%BC%BF%E9%A3%9F%E3%81%B9%E7%89%A9%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88

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さっくりとこのNoteの結論を言うと、「ファミリーディナーにパンプキンパイを出したために大騒ぎになった」という話である。

いいかい。ブラックアメリカンのおうちにお食事に呼ばれ、デザートでも持っていこうという人！パンプキンパイはいかんぞ！スイートポテトパイだぞ！絶対に、だ。メモっといて！できることならここは赤の太字にしたい程に大事なことなのである。

あと、上に引用した伝統料理10選であるが、ブラックファミリーにおいては、コーンブレッド、コラードグリーン、マカロニチーズ、これらは必ず出る。特にマカロニチーズや、それをオーブンで焼いたベイクドマカロニチーズは、そのおうちの自慢料理であることが多い。これは非常に大事である。マカロニチーズは喜んでお食べなさい。絶対に、だ。おふくろの味、おばあちゃんの味的な位置づけと思っていただきたい。

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で、パイの話。私は甘いものが好きではないので、基本、デザートは食べない。だがイベントディナーを作るとなると、もちろんデザートも作る。そういうわけである年のデザート。ピーチコブラーなる桃のパイ的なもの、パウンドケーキ、クッキー、そしてパンプキンパイを作った。

家に集まったアルゴ家族（ママ、兄、弟）や親族、友人たちは、おいしい、おいしいと料理を食べ、日本人であるというのに、こんなにもソウル的なマカロニチーズが作れるなんて信じられない。コラードグリーンだって、ソウルフードレストランで食べるもののようだ！とベタ褒め。ママは「なんせ私がイチから仕込んだのだし、この子は料理上手なの。コーンブレッドだって、コラードグリーンだってスクラッチ（インスタントではないもの）から作ったのよ。日本人でソウルフードが作れるなんてうちのリンゴだけよ！」と鼻タカダカであったし、私も褒められて有頂天であった。

だがしかし、デザートタイムで、全員が固まった。何を作ったの、と聞かれ、私はデザートを並べながら「ピーチコブラーに、クッキー、パウンドケーキとパンプキンパイ」といった。その瞬間、その場にいた全員が私を凝視した。

「え……パンプキンパイ……？！」（絶句）（ドン引き）

そして続く大爆笑。ドラマとかの合いの手的にでてくるあのHAHAHAHAHAHAHAである。

え、何がそんなにおかしいのか？てかなにかしでかした？と慌てる私に、その場にいたみんなが「そんな！白人じゃないんだから、パンプキンパイとか。あはははは、あははははは。まじか！」ひぃひぃと腹を抱え、涙まで浮かべて笑う大爆笑する人までいる始末。

え、別に面白くもないし、失礼じゃね？こっちは頑張って作ったのに！と、当時、人種における食文化の違いを理解していなかった私はムッとした。なんせパイ生地から作ったのだ。水曜どうでしょうの大泉シェフのように！奥さん、🥧食わねぇかぁぁぁって言いながら捏ねたのに！

だが、問題はパイ生地ではなかった。ちなみに日本の層が重なるサクサクパイ生地と、米国のパイ生地は異なる。アメリカ式パイ生地には層がない。

意味も分からず、ひたすら笑われ私は泣きそうになっていた。

当時はまだ20代と若く、家族の一員として扱われていることがただ、ただうれしい時期であり、流石なのだわ！とほめられたい時期であったため、大層、落ち込んだ。私が急激にしょげたために、笑いすぎたことをみんなが謝り、そしてこう教えてくれた。

「ブラックはね、パンプキンパイじゃないのよ。スイートポテトパイなの。それがデザートなの。パンプキンパイは白人の食べ物なのよ」

えええええ。意味がわからない。私が甘いものを好まないせいもあるが、そもそもアメリカのスイートポテトパイに使う芋はヤム。日本のサツマイモと違って甘味は少ない。だから、イモでもカボチャでもパイにしたらそんなに味は変わらない。大量のバター、砂糖、スパイスのフィリング。しかも上記の料理リストでも挙げたが、キャンディヤムといって、このヤム芋を恐ろしく、のどが焼ける程の甘さのシロップで煮たサイドディッシュがあるのだ。芋ディッシュに芋デザート？芋三昧にもほどがある。そのうえ、御覧いただきたい。↓↓

パイ　A

パイ　B

これ！！このパイAとパイB,どっちがカボチャで、どっちが芋かわかる人いる？！見た目もそうだけど、味だって、なんかもったり・ねっとりしてる甘いパイじゃんか。似たようなもんじゃん！（叫）

以上のようなことを主張した私であったが、黒人はスイートポテトパイなのである。理由は知らん！だが芋なのだ！（断言）と言われ、その年のディナーは終了した。

私に気を使った数人の人がパンプキンパイを食べてくれたが、大量に残されるという結果であった。ちなみに米国人の多くはこの喉が焼けるほどに甘いパイにアイスクリームや生クリームを添えて食す。やりすぎである。

近々、また暑苦しいMovie Reviewを書こうと思っている作品がある。NetflixにあるColin in Black & Whiteという作品。白人家庭で養子として育った黒人のフットボール選手・コリン・キャパニック氏の自伝ドラマなのであるが。このドラマの中でも、白人家庭で育ったキャパニック氏が、初めて黒人の家でのディナーへと招待された折、パンプキンパイとスイートポテトパイのネタで笑われていた。白人家庭で育ったキャパニック氏も私と同じで、このブラック家庭における反パンプキンパイ情勢を知らなかったわけである。

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その事件の後、私は二度とパンプキンパイを作らないことにしたのだが、なぜ芋なのか？ドラマでも人種的なネタとして扱われているが果たして真実なのであるか？という疑問が残る。なのでこの記事を書くにあたり調べてみた。

まずこちら。手元にAfirican American Heritage Cook Bookがある。私は買った覚えがないのでおそらくアルゴの蔵書であろう。アフリカンアメリカン伝統料理本である。

様々なレシピがなぜこれが伝統料理になあったのか的逸話と共に綴られており、読み物をとしてもおもしろい料理本である。

この本には様々なソウルフードの作り方が記されているのであるが、デザートのページ。

芋パイの作り方その１

芋パイの作り方その２、その３．芋三昧。

お分かりいただけるであろうか。なんと4ページにわたり、3種類ものスイートポテトパイのレシピ。芋を甘くして、スパイスを入れ、パイにするだけなのに何という情熱であろうか。しかも、この芋パイ3種を除くパイレシピが9つも載っているというのに、パンプキンパイはないのである。

そして我らがGoogle先生にも訪ねてみた。
Why do black people prefer sweet potato pie over pumpkin?

なぜ黒人はパンプキンパイよりも、スイートポテトパイを好むのか？ちなみにこれは自動検索的なもので、Black, Sweet  potato pie, pumpkin pieと打ったらコレが出てきたのでおそらく結構な数の人が調べているのであろう。そこで出てきた事実。

Why do black people prefer sweet potato pie over pumpkin?
Southern cooks, black and white, turned more often to recipes for sweet potatoes because, in the South, they were easier to grow than edible pumpkins. Using the same logic, Northern cooks preferred the easy-growing gourds for their pies. 　　　　　　　　　　　Nov 24, 2015

黒人がカボチャよりもスイートポテトパイを好むのはなぜですか？
南部では、食用のカボチャよりも栽培が容易だったため、南部の料理人は黒人も白人も、ヤム芋のレシピを好む傾向がありました。 同じ論理を使用して、北部の料理人はパイに成長しやすいひょうたんを好みました。 

https://www.shondaland.com/live/a14428751/pumpkin-pie-sweet-potato-debate/

なんということでしょう。アルゴファミリーには、理由は知らん！と一蹴されたものの、きちんと歴史的な理由があったのです。ちなみに、gourdsをひょうたんと訳したものの、ウリ科の植物を指す。あれ、でもじゃぁ、南部の人は白人でもカボチャより芋なのか？（謎）今度、南部出身の白人に出会うことがあれば聞いてみようと思う。

たかがパイ、されどパイ。

ここには、アメリカにおける南北、奴隷の歴史を背景としたずっしりとした重みがあるのである。ワシントンポストのこちらの記事にはさらに詳しく背景や歴史が書いてある。芋とカボチャにこんなにも深い歴史的理由があるなぞ、私はちっとも知らなかったし、考えたこともなかった。やはり食生活というものは重要なのである。

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蛇足的ではあるが。私はここでアルゴのこと、アルゴの家族のことをブラック、ブラック・ファミリーと書く。違和感を覚える方もおられるかもしれないので明記しておくことにする。

正しくはAfrican Americanなのだろうけれど、どうにもしっくりとしない。DNAを調べてみたところ、アルゴの中にはアフリカの血の他にもそれ以上の割合でヨーロッパ諸国の血が混じっており、その上、彼は自分の父親を知らないから、推測でしかないけど、見た目はヒスパニック・プエルトリコ系にも見える。ゆえに、アフリカン・アメリカンというにはちょっと違う気がするのだ。

これはまたおっそろしくディープな話になってしまうのでここでは簡単に書くけれど、ブラックの人同士でも肌の色や出身地・国によって差別が存在するのである。アメリカ生まれのブラックと他国からやってきたブラックはまた違う。と、いうわけで、私はあえてブラックアメリカン、とアルゴを称している。

そして最後に。パイAの写真は、パンプキン。パイBの写真がスイートポテトパイなのでした。

【終】

ちなみに2020年のサンクスギビングとその3年前に引き起こされた私が可哀そうなサンクスギビングの話はこちら。