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金利が僕らにもたらす世界
金利は残酷だ。
「ねえ、金利が上がるかもしれないってニュース、見た?」
仕事を終えて帰宅した夕方、リビングに入ると妻の声が飛んできた。テレビでは経済番組が流れていて、「政策金利が引き上げられる見通し」という言葉が字幕に映っている。ほんの一週間前までは意識していなかった情報なのに、どうやら妻の耳にはしっかり届いたらしい。
「うん、一応チェックしたけど、まだ決定じゃないし…どうしたの、そんなに心配そうな顔して」
僕はソファにカバンを置きながら返事をする。すると妻は台所からさっと近づいてきて、
「だって金利が上がると、家のローンに響くんじゃない? うち、35年ローンで5,000万円も借りてるのよ。返済額が増えたりしたら、家計が破綻しちゃうかも」
ちょっと大げさだけど、その気持ちも分かる。現状は金利が低いからこそ返済プランが成り立っているようなものなのに、もしそこが揺らぐとなると不安になるのも無理はない。そんな妻の表情を見ていると、小学生の息子・蓮が「金利が上がる? それって何?」と無邪気な声をあげた。彼はYouTubeなどネット動画ばかり見ているので、テレビの経済ニュースなんてそもそも馴染みがない。
「金利っていうのはね、お金の“値段”みたいなものだよ。たとえば僕らが銀行からお金を借りると、借りた期間分のお礼みたいなのを払わなきゃいけない。それが金利なんだ」
僕は蓮にそう言いながら、まだご飯の支度ができていないテーブルに少し腰を下ろす。妻は「今まで全然気にしてなかったけど、金利上がると月々の支払いってどのくらい増えるんだろう…」とつぶやく。彼女の顔からは「今さらどうしよう」という焦りがうっすら読み取れる。
「大丈夫だよ、まだそんなに急に上がるわけじゃないし。ちゃんと対策すれば怖くないって」
とりあえず、僕は妻をなだめるように笑ってみせる。だが、住宅ローンに加え、僕にはある秘密があった。それは、僕自身が“投資用不動産”を保有しているという事実だ。妻はうすうす勘づいているかもしれないが、今までこのローン金利や政策金利について真剣に話したことはなかった。そろそろ説明しないといけない気がする――そんな予感が胸をよぎる。
夕飯を食べ始めると、自然と話題は「金利って上がると嫌なことばかりなの?」という方向へ進んだ。妻の疑問に答えながら、僕は蓮にも分かるようにかみ砕く。
「金利が上がると借金してる人は大変だよね。返すお金が増えるんだから。でも預金をしてる人にとっては、銀行利息が上がるし、国債の利回りも上がるから得をする面もあるんだ」
「ふうん…うちはローンを抱えてるから、デメリットの方が大きそう」
妻は静かにため息をつきながら言う。たしかに、住宅ローンを変動金利で抱えている家庭が金利上昇に喜べるわけがない。でも僕は笑みを浮かべながら、
「実はね、うちって今住んでる家以外に、投資用のマンションもいくつか持ってたんだよね」
「持ってた? もしかして過去形?」
妻が箸を止めて驚いたように聞き返す。蓮も「マンション買ってたの? すごい! いつの間に?」と食いつく。僕は「うん、実は最近売却したんだ」と続ける。じつは政策金利が上がる“初期段階”のタイミングで、投資用不動産を売ってしまったのだ。
「どうして売ったの? 家賃収入があれば、むしろプラスになりそうじゃない?」
妻のもっともな疑問に答えるように、僕は持論を展開する。
「金利が上がると融資が厳しくなって、不動産を買おうとする人が減るんだ。だから価格は上がりづらくなるし、早めに売れば高値で手放せる確率が高いって考えた。今は株に運用資金を移して、しばらく金利上昇の様子を見てるんだ」
蓮は「マンションって高そうだよね。はじめしゃちょーも4億って言ってた。金利が上がると買う人がいなくなるの?」と首をかしげる。僕はうなずきながら、
「融資が受けにくいと、買える人は減るからね。」
そしてもう一つ、僕が秘かに考えている戦略を打ち明ける。
「金利がピークに達して落ち着いたころ、投げ売りされた不動産を安く買い直すっていう手もあると思ってる。ローンの負担に耐えられなくなった人が手放した物件が市場に出回るかもしれないからね」
妻はしばし無言で考え込んでから、納得したようにうなずく。
「なるほど…。でもそれって、他の人がローンに苦しむのを狙って安く買うってこと? ちょっと複雑だわ」
「そうだよね。でも資本主義ってそういうものなんだ。もちろん無理につられて売ってしまうより、各家庭でできる対策をしっかり考えた方がいいのは言うまでもないよね」
そう言って、僕は家族でも実践できる「金利上昇への対策」をいくつか述べてみる。
1. 住宅ローンの借り換え: 先々の急上昇を見据えて金利の低いローンに切り替え検討。借り換えには諸費用がかかるが、長期的に得か試算する。
2. 預貯金や国債・定期預金の活用: 金利が上がれば、預金の利率や国債利回りが魅力的になる場合もある。
3. 繰り上げ返済: 金利負担が大きくなる前に、貯蓄で一部返済して元本を減らせば、将来の負担も抑えられる。
4. 家計のキャッシュフローの見直し: 毎月の無駄を省いて、多少の金利上昇でも破綻しない仕組みを作る。小さな固定費カットや保険の見直しなどで緩衝材を持つ。
「そういう地道な対策があれば、たとえ金利が0.5%や1%くらい上がっても、なんとか吸収できるかもしれないね」
妻はホッとしたように息をつき、蓮は「へえー。ぼくもお小遣いを貯金しようかな」なんて言い出す。まぁ、それはそれで可愛い考え方だけど、金利が上がると利息がつくというメリットだけでなく、家のローン負担も増すというのが、まさに表裏一体の現実だ。
夕飯後、食器を片づけ終わったころ、妻が急に真顔になって言い放つ。
「ところで、うちの35年ローン5,000万円は変動金利で借りてるよね。もし金利が0.1%上がるごとに、月々の支払いはどれくらい増えるの?」
彼女がこういう具体的な質問をするのは珍しい。僕はスマホの電卓でざっくり試算し、「月2,000円くらいは増えるかもね」と告げる。
「ってことは、0.3%上がったら6,000円、0.5%で1万円…結構な負担になるわね」
妻が小さくうなずきながら呟く。蓮が「わあ、1万円あったらスイッチのソフト買えるじゃん」と無邪気に興奮している。ここで不意に、僕は冗談めかして言ってみた。
「じゃあ、0.1%上がるたびに、俺のお小遣いを2,000円減らすってのはどう? そうすれば家計には影響なし」
思わず口にしたその提案に、妻は目を輝かせて乗ってくる。
「あら、いいじゃない。金利が0.25%上がったら5,000円減額って感じね。月々のやりくりが苦しくなる代わりに、わたるのお小遣いがそれをカバーするって仕組み」
「ちょ、ちょっと待て」と思わず笑いがこぼれる。僕としては冗談半分だったのだが、妻は案外乗り気だし、蓮まで「パパ、頑張って! おこづかい減るって大変だね」と面白がっている。ここで打ち止めにしないと、知らぬ間に本決まりになりそうだ。
「いやいや、無理だから。0.25%上がって5,000円減らされたら、僕、ランチ代カツカツじゃないか…」
困り果てた僕を見て、妻は「そりゃそうよね」とケラケラ笑う。蓮も「パパ、嘘つかない方がいいよ」と呆れ顔だ。リビングにクスッとした空気が漂う。
だけど、この冗談をきっかけに、僕たち家族は「金利が0.1%上がると、具体的に毎月いくら負担が増えるのか」を実感することができた。ニュースの数字上では大したことなく見えても、実際の生活では冗談にならない額になる。それを身を以て学ぶだけでも、十分な教訓だろう。
こうしてわが家では、金利上昇のニュースをきっかけに、僕の投資用不動産の売却話や、金利上昇時にどう立ち回るか――さらには一般家庭が取り得る金利対策――という話まで一気に盛り上がった。蓮はまだ小学生とはいえ、「借金をすると金利を払う」仕組みは何となく理解したようで、また一つ大人の世界に近づいたようにも感じる。
結局、どれほど金利が上がるかはまだ誰にも分からないけれど、金利という“お金の値段”が上がるだけで景気や家計、そして僕のおこづかいにまで影響を及ぼすのだ。だからこそ、「金利なんて難しい」と敬遠せず、早めに対策を知っておくに越したことはない。
しかし、金利が上がるからといって、すべてが悪いわけでもありません。預金や国債の利回りが上がれば、その恩恵を享受できる局面も出てきます。重要なのは「いまの自分の家計や資産状況」に合わせた、最適な金利対策を把握することです。住宅ローンの借り換えを検討したり、繰り上げ返済で利息を抑えたり、投資でリスクを取るのか、あるいは安全資産を増やすのか。考え方は人それぞれでしょう。
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「何もせず、不安だけ抱えている」より、「少しだけ行動してみる」ほうが、家計にも精神的にもずっと健全だと僕は思います。せっかく学んだ金利の仕組みを、家計プランに活かしてもらえると嬉しいです。
いざとなれば、僕と同じようにローン支払いの増額分をお小遣いで賄う覚悟も…まぁ、冗談抜きで、このままではヤバいかも? と感じたら、ぜひ踏み出してみてください。
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