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ふるさと納税でまさかの大損。確定申告シーズンでハマる罠。

「ねえ、今年は医療費が結構かかったから、確定申告するんだけど……」
休日の朝、妻がキッチンからちらりと顔を出す。片手には黒っぽいファイル、もう片手にはレシートや領収書が束になったもの。さすがに今年は病院通いが重なっていて、医療費の合計が小さくない。心なしか年々病院へ通う回数が増えた気がする…
「医療費控除ね。じゃあ一緒にチェックしようか」と応じると、妻はファイルをパラパラめくり、申告書の下書きみたいな紙を僕に手渡した。

リビングのテーブルに腰を下ろして、ざっと目を通す。
「うん、うん。病院別の金額は大体まとまってるね。控除項目も……」と言いかけたところで、何かが引っかかる。
「あれ? ところで、ふるさと納税分はどこに書いた?」
「え? ふるさと納税? 今年、私ワンストップ特例っていうの申し込んだよ? 書類送ったから、それでオッケーなはずでしょ」
妻はスマホを軽くスワイプしながら、意外そうな顔。僕はその横顔を見つめて、そっと首をかしげる。

「いや、ワンストップ特例は“確定申告をしない人”用なんだよ。医療費控除をするなら、結局確定申告することになるから……ワンストップ分は取り消し扱いになっちゃうんだ」
妻の眉がピクリと動き、不安げに声を落とす。「え、そうなの……?」

こうして、何気ない医療費控除のはじまりが、ふるさと納税の控除漏れという落とし穴を照らし出すことになった.


「ワンストップ特例って、確定申告しない人がふるさと納税の控除を簡単に受けられる仕組みなんだけどね……」
僕は資料を指先でとんとんしながら説明する。
「医療費控除をするなら、確定申告するでしょ? そうなると、ふるさと納税も一緒に申告書に書き込まないとダメなんだ。そうしないと、寄付金控除にならない。つまり税金は安くならないんだ。」

「……えー、そんな。私、ちゃんと自治体ごとに郵送したのに。もう終わった気でいたわ」
妻は明らかに納得いかない顔をしている。確かに、あれだけ書類を出しておきながら「まだ続くの?」と思うのも無理はない。
でも放っておくと、もらった返礼品の実質負担がはね上がる可能性がある。そこが大問題だ。

「しかもさ、確定申告しないと返礼品って実質“3倍くらい高い”買い物になっちゃう場合もあるからね」
「え……? どういうこと?」
「本来ふるさと納税って、自己負担は2000円だけで済むはずだよね? でも、控除が認められないと、寄付した分がまるごと自腹になる。それって返礼品狙いで寄付したのに、結果的に3倍高価な買い物しちゃったってことになるんだ」

妻はぽかんと口を開け、「それ、かなりショック……。なんだか大損する気がしてきた」という。
「うん。このままだと大損だよ。でも大丈夫、今からでも確定申告のところに書けばちゃんと控除されるし、返礼品も実質2000円負担で収まるはずだよ」と僕はやわらかくほほえみ返す。
けれど妻の表情はまだ固い。「他にも申告しなきゃいけない例って何かあるのかな……?」と不安が抜けきらない。

「たとえば副業で年間20万円以上稼いでるとか、住宅ローン控除を受ける初年度とか、株やFXでの損益通算……いろいろあるよね。確定申告はなんだか損なイメージがあるけど、意外と『申告した方が得』なケースも多い」
妻は唸るように息をつく。「ほんと、知らないだけで損しそうなことが多いね……」


「でも、もし何か抜けてても5年間は還付申告できるからさ。『あ、あの年にふるさと納税分控除し忘れてた!』って後から気づいても、まだ取り返すチャンスはある」
こう言うと、妻はぱっと目を輝かせた。「え、そんなに余裕あるの? じゃあ、もし友達が同じミスしててもまだ間に合うかも……!」

「そう。だから今年の分は、医療費控除と一緒に、ちゃんとふるさと納税の寄付金受領証明書を添付して書こう。ワンストップ特例は取り消されるけど、そのぶん確定申告できちんと手続きすれば控除は受けられるから」
「わかった。なんかモヤモヤが消えてきた。書類集めは大変だけど、これでちゃんと返礼品分の控除が受けられるんだね」

妻は安心したようにほほ笑む。さっきまでの不安そうな顔が、少し穏やかになった気がする。
「うん、せっかくふるさと納税したんだから、控除を受けないと損だし。今後は“ワンストップ特例”か“確定申告”か、どっちを使うか迷わないようにしなきゃね」と僕も苦笑する。
「あとは住民税の決定通知が来たら、ちゃんとふるさと納税分が控除されてるか確認してね。僕も一度だけ控除されてなくて修正してもらった経験があるから」

リビングの窓から、春の陽射しが射し込む。テーブルの上には医療費レシートと、ふるさと納税の受領証明書が並べられている。
「よし、書類はあとでじっくり仕上げよう。5年分の過去申告も、思い当たる人がいないか周りに声掛けしてみようか?」と妻は小さく笑う。僕も「うん、それいいかもね」と相づちを打つ。

こうして、ちょっとした書類の見落としがきっかけで、“確定申告しないと損する可能性”が浮き彫りになった。でも正しい手続きを知れば怖くない。そんなささやかな学びを抱えながら、僕たちはまた穏やかな日常へ戻っていくのだった。


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