<ハンガリーの少子化対策①>評価する前に知って欲しいこと
「ハンガリーの少子化対策がすごい!」というニュースを見たことはありませんか?
政府が「異次元の少子化対策」を打ち出したこともあり、比較対象として、ハンガリーの政策が注目されています。
たしかに、ハンガリー政府は少子化対策に力を入れています。
「所得税免除!」「奨学金返済免除!」「住宅購入補助!」などの大看板を見ると、羨ましく思えてきます。
「その分、税金が高いんでしょ。施策だけ切り抜いても…」「所得が違うのに比べても…」「効果は出ているの?」と、疑問を持つ方もいるでしょう。
ハンガリーに暮らす私も、「晩婚化・非婚化が問題になっている」「経済的に結婚できない/子供を持てない」という現地のニュースを見かけ、同じような疑問が湧いてきました。
そこで、今回は「ハンガリーの少子化対策について、もっと全体像を知りたい」という方に向けて、ハンガリーの制度に関して調べたことを、整理してみました。
構成について
全3~4回に分けて、ハンガリーの制度や、それに対する私見を紹介します。
第1回の今回は、ハンガリーの経済や政治に関する制度と、少子化対策の内容を、客観的に整理します。
情報が多くなりますが、ハンガリーと日本では、税金や社会保障等の制度が大きく異なります。
少子化対策だけを切り抜くのではなく、「暮らし全体の中で、少子化対策がどうなっているか」を知ってもらいたいため、あえて幅広く紹介します。
注目点・特徴をまとめた第2回はこちら↓
注意:筆者について
なるべく客観的な紹介に努めますが、情報探索の方法や取捨選択において、一定のバイアスは避けられないこと、ご了承ください。
各図表は記載のない限り筆者作成。出典は末尾を参照してください。
また、今後の投稿では私見も書くため、筆者の自己紹介も記載します。
以下を踏まえたうえで、お読みいただけると幸いです。
【自己紹介】
大卒、20代後半の男。既婚・子なし。
妻の海外駐在に帯同し、現在フリーランス。帰国後は経済的・制度的な面から企業への再就職を志向中。
将来的に子供を持ちたいという気持ちはあるが、経済的・生活的なリスクも踏まえて、現時点では未定。
政治に関しては関心が薄く、無党派だが、保守寄りの自認。
社会保障や子育て関連の専門的な知識や、学習経験はなし。
ハンガリーの基礎情報・少子化対策
人口動態
<人口> 969万人(2022年1月)
<出生率>1.52(2022年)
<初婚年齢 (中央値) > 男性 32.9歳 女性 30.2歳
<婚姻数> 64,100(2022年)
<第一子出産年齢(中央値)> 29.08歳(2021年)
<婚外子割合> 26.7%(2021年)
労働
<平均月収(総額) *フルタイム労働従事者>
全体平均 438,834HUF(約15万8000円、1HUF=0.36円)
うち、20代平均 375,118HUF(約13万5000円)
30代平均 467,774HUF(約16万8000円)
大卒者平均 556,828HUF(約20万円)
<経済活動人口・失業率>
<パートタイム労働者の割合> 4.6%(*日本 25.6%)
経済
<GDP(名目/2021年)> 184.6(10億$) (*日本 4,937.4(10億$) )
<GDP per capita((名目/2021年)> 18,968$ (*日本 39,340$)
<GDP成長率の推移>
<主要産業>自動車関連産業、化学・製薬工業、農業、畜産業
<経常収支> △5,191(100万ドル)
<貿易収支> △4,399(100万ドル)
<金融収支> △10,722(100万ドル)
<インフレ率>
<近年の動向>
EU加盟以降、EU補助金の助けもあり高い成長を記録している。
外資製造業誘致による再工業化を推進する一方、R&D分野を中心に自国企業の育成・強化に取り組む。外資を誘致する一方、特定産業ではハンガリー資本を過半にすることを重視しており、外資をターゲットとした各種業界税も導入している。
EU依存度は高く、輸出入の割合は7~8割。特に自動車産業のドイツへの輸出が多い。
エネルギーの輸入依存率は56.6%(石油は87.1%、天然ガスは75.6%)と高く、輸入量のうち、石油の44.6%、天然ガスの95%をロシア産が占めている(2020年)。
2022年はエネルギー価格高騰等の影響を受け、食料品・エネルギーを中心に欧州の中でも高いインフレ率を記録した。
政治
<議会制度> 共和制、一院制
<与党> ハンガリー市民同盟(フィデス)、キリスト教民主国民党
<首相> オルバーン・ビクトル(ORBÁN Viktor)
<近年の動向>
2010年以来、現在の与党及び首相による政権運営が続いている。2010年以降、新憲法の制定・選挙制度改革・報道への監督強化などを実施。
特徴として、移民への厳しい姿勢、家族主義及び欧州におけるキリスト民主主義国家の保護、実利主義、経済のための外交がある。強権政治・自国第一主義とされるが、経済・治安の安定から、支持率は高い。
EUとの関係性は芳しくなく、「法の支配」の原則に違反したとして22年12月にEUからの資金(75億€)を凍結されている。
ロシアのウクライナ侵略については、軍事支援を行わない一方、積極的に人道支援を実施し、数万人以上の避難民を受け入れている。
財政
<国家財政> 2021年 約△3兆9380億 HUF(約1兆4177億円)、GDP比△7.1%
<支出の内訳>
主な税制
<所得税>
一律15%、累進課税制度なし
(*日本は累進課税のため、最小5%から最大45%)
<消費税>
標準税率は27%。軽減税率として18%と5%がある。
18%:穀物や小麦などを使用した製品、乳製品など。
5%:牛乳、卵、鶏肉、豚肉、魚などの食品、医療品、本、セントラル・ヒーティング、商業宿泊施設、飲食店での食事、インターネット
<法人税>
標準税率は一律9%
(*日本 23.2%、ただし資本金1億円以下の普通法人等は15%)
その他、地方税等細かい税制あり。
また、日本の社会保険料に相当する負担額もあり。
社会保障
<教育>
・義務教育(6歳~18歳)は基本的に無料、公立が大半
・大学以上の高等教育は有料(学費は学部により、60万~300万円/年程度)
<医療保険制度>
・国民全員への賦課を原資とする、国民健康保険制度
・公的医療サービスは原則無料
・サービス水準が高いとされる私的医療は、原則自己負担(民間保険あり)
<年金制度>
・自営業者、被用者に加入義務のある年金制度あり
受給開始は65歳
少子化対策
①税金
・25歳以下の若者は、平均収入(約15万6000円)までにかかる個人所得税を免除される(平均収入以上の収入や、不動産収入は免除対象外)
・30歳になる前に子供を産んだ女性は、30歳になるまで平均賃金にかかる税額を上限として、個人所得税を免除
・4人以上の子供を養育した母親は、生涯所得税を免除される
・子供の人数に応じて、課税ベースが減額される(約2万円~40万円)
②学生ローン
・高等教育の在学中、または高等教育終了後2年以内に出産した30歳以下の母親は、学生ローンの残債の返済免除(養子の場合でも可)
③休暇
<産後休暇>
母親の休暇前の平均賃金の100%相当額を、産後休暇の168日分支給。所得税(15%)の対象となる。
<育児休暇>
出産休暇以降から幼児が2歳になるまで、育児手当金が国から受給できる。その金額は申告者の平均賃金の70%だが、最高額は法律によって定めた最低賃金の2倍の額の70%と制限されている(2023年は約11万7000円)。
所得税(15%)・年金保険料(10%)の対象となる。
なお、休暇からの復帰時においては、使用者は産前の労働条件で労働者を復帰させる義務を負う。
<その他休暇>
1人の子供につき年間2日間(3人の場合は7日間)の休暇が両親に付与される
④補助金
<子どもローン>
妻が18~41歳の既婚夫婦は、1000万フォリント(360万円)を上限に国からローンを受けることができる。
申請から5年以内に第1子が生まれた場合、3年間元本の返済が猶予され、ローンの利子が免除される。第2子が生まれた場合、ローンは3割減免。第3子が生まれた場合、ローン返済は免除。
<車関連>
・3人以上の子供がいる家庭は、7人乗り以上の車の購入費用について、50%(上限約90万円)の補助金を受領出来る
・高校生及び大学生に対する免許取得費用の補助
<住宅関連>
・購入、建築補助
子供のいる家庭は、子どもの人数に応じて補助金を受給できる(約21万円~360万円)。さらに、2人以上の子供がいる場合は、利子率3%を上限とした低利子ローンを組むことが可能(約360万円~540万円)
また、住居購入関連の消費税は、軽減税率適用により5%。
・リノベーション補助
1人以上の子供がいる家庭は、リノベーションの際に約215万円を上限に、低利子ローンを組むことができる
<その他>
・子供手当:子供の数に応じて、子ども1人当たり月額約4000円~5000円ほどの手当を受給できる
・雇用者側の社会貢献税免除:3人以上の子供がいる母親を雇用した場合、社会貢献税の雇用主負担が減免される
⑤医療
体外受精費用の全額補助(保険適用)
*2023年1月末時点の主な施策です、細かい規則は度々変わります。
おわりに
情報の多さに負けず、最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ハンガリーの社会制度全般について、大分知っていただけたのではないでしょうか。
ハンガリーの少子化対策は、大看板を切り抜いて称賛されがちです。
しかし、データを見たことで「社会の仕組みが日本と違うな、単純比較できないな」と感じたのではないでしょうか。
そのギャップを認識した上で、「ここは真似できるのでは?」「ここはダメだな」等々、思考の助けにしていただければ幸いです。
とはいえ、情報が多すぎて訳が分からないという方もいると思います。
私も全体像を追ううちに、どこに注目すればいいのか、混乱しています(笑)
そこで次回は、現地在住者として感じたことも交えて、ハンガリーの制度の注目点についてまとめたいと思います。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
出典
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