【SAMPLE】恋は、月曜日に始まる。
♯テーマ
若手人気女優が板前見習いに恋するお話。
♯人物表
潮浜瀬奈(19)女優
佐野巧(20)板前見習い
苅野真也(32)瀬奈のマネージャー
釣り堀の店主(73)女性
野島遥人(27)美容師
♯シナリオ
〇オフィス街の道
走る足音とハァハァと息の上がった女性の声。
〇テレビ局・外観
ビルの前に「エフテレビ」の看板。
〇同・中・男子トイレ前
ジャーっとトイレを流す音。
苅野真也(32)がハンカチで手を拭きながら出てくる。
〇同・控室・外
苅野がドアをノックする。
〇同・控室・中
苅野が入ってくる。
苅野「準備できたか?次、行くぞ」
控室には誰もいない。
テーブルの上には「ごめん。後はヨロシク」と悪戯な顔文字付きのメモ。
苅野「あんのクソガキ‼」
〇釣り堀
佐野巧(20)が釣り針に餌を付けている。
佐野「それで、お姉さんは悪者から逃げてるって?」
佐野、餌を付けた竿を女性に渡す。
マスクで顔を隠した潮浜瀬奈(19)である。
瀬奈「そう。追われてるの」
佐野、興味なさそうに自分の竿を持って釣りを始める。
佐野「大変っすね」
瀬奈「ここなら、絶対にバレないでしょ」
佐野「そうなんですか?」
瀬奈「だって、ここって若い女の子が来るような所じゃないし」
佐野「まぁ、そっすね」
佐野、興味がなさそう。
瀬奈、気づいて貰えないことに少しムッとしマスクを小さくずらす。
瀬奈「お兄さんって、テレビとか見るの?」
佐野「見ないっすね」
瀬奈「あ…そう」
瀬奈の竿は微塵も動かない。
瀬奈「好きなタレントとか、アイドルとか、女優とか?いないの?」
佐野「まぁ、そんなの見てる暇ないんで」
瀬奈、苛立ち佐野から顔を背けて、
瀬奈「そんなの。ムッカー」
瀬奈と佐野、黙って釣りをする。
〇釣り堀・事務所・中(夕)
会計をしている瀬奈。
その後ろで、道具を片している佐野。
瀬奈「支払いペイペイでお願いします」
店主「うちは現金のみ」
瀬奈「へ?現金?持ってない」
店主「金も持たずに、タダ釣りかい」
瀬奈「いえ、お金はペイペイに…」
店主「ペイペイだかパイパイだか知らないけど、払って貰えないなら警察呼ぶよ」
瀬奈「え…警察…」
佐野、瀬奈の後ろからお金を差し出し、
佐野「おばちゃん、これ二人分」
店主「見習いが、いっちょ前にカッコつけるねぇ」
佐野「うるせぇよ」
店主、レジにお金をしまい、
店主「まいどぉ~」
スタスタと店を出ていく佐野。
佐野の後ろ姿をボーっと見つめる瀬奈。
瀬奈、ハッとして佐野を追いかけ店を出る。
〇釣り堀前の道(夕)
佐野、スタスタと歩いている。
その後ろを瀬奈が追いかける。
瀬奈「あの…あ、あの!」
佐野、びっくりして振り返る。
瀬奈「あの…お金」
佐野「あ、あぁ。いいですよ。別に大した金額じゃないし」
瀬奈「そういうわけにも」
佐野「でも、お金ないんでしょ」
瀬奈「あ…」
佐野「いいよ」
瀬奈「あ、ペイペイで」
佐野「やってない」
瀬奈「あ…」
佐野「いいよ。気にしないで」
瀬奈「そんなわけには。あ!今度、持ってきます。ここ、いつもいますか?」
佐野「えぇ…いつもってわけじゃないけど、月曜日はわりといるけど」
瀬奈「あ、私不定休なんですけど、月曜日にお休み取れたらお金、持ってきます。月曜日・同じ時間で」
佐野「あぁ、じゃぁまぁ。次に会えたら」
瀬奈「次に会えたら」
〇kプロダクション・外観(夜)
都内の雑居ビル。
苅野の声「バッキャロー」
〇同・事務所・中(夜)
苅野、怒り心頭で瀬奈を怒鳴りつける。
苅野「今日、お前がバックレたインタビューは、企業タイアップだったんだよ。これで先方に気に入ってもらえればCMに繋がる大事な仕事だ」
瀬奈、黙って俯いている。
苅野「それを、お前は。お前のワガママ身勝手で、百万パーだ。分かってんのか」
瀬奈「(小さな声で)だって、全然休みないじゃん」
苅野「なんだ?」
瀬奈「(大きな声で)全然、休みくれないじゃん!」
苅野「今が大事な時期だろ!休んでる間があるか⁉」
瀬奈「でも休みたい!」
苅野「休めば、すぐに売れなくなるぞ!」
瀬奈「…でも」
苅野「でもじゃない」
瀬奈「…だって」
苅野「だってじゃない」
瀬奈「でも、次の月曜日は、休みたい」
苅野「まだ分からないのかバカヤロー。休めるか!」
瀬奈、しょぼんとうなだれる。
〇料亭「橘(きっ)花(か)」・外観(朝)
厳かな日本家屋の料亭。
〇同・裏口(朝)・外
自転車で乗り付ける佐野。
脇に自転車を止め、中に入っていく。
〇同・厨房(朝)
誰もいない厨房に朝陽が差し込む。
佐野の声「おはようございます!」
白衣を着た佐野、厨房に入って来る。
×××
ジャガイモの皮をむく佐野の姿。
×××
昆布の表面を乾拭きする佐野の姿。
×××
人参の飾り切りをする佐野の姿。
〇テレビ局・外観
ビルの前に「エフテレビ」の看板。
〇同・メイク室
部屋の隅にテレビが置かれている。
野島遥人(27)にヘアメイクをしてもらう瀬奈。ため息。
野島「なぁに?元気ないじゃない」
瀬奈「そんなことないけどさ」
野島「ないけど?」
瀬奈「別に!」
野島「ふふふ。恋ね」
瀬奈「何言ってるの?そんな時間もないって」
テレビを眺める瀬奈。
テレビに佐野が映る。
瀬奈「え⁉」
野島「ちょっと動かないで!」
瀬奈「ごめん」
野島「あぁ、未来人ね」
瀬奈「未来人?」
野島「夢を追いかける若者を紹介する番組」
瀬奈「へ~」
野島「なに?この板前の子、瀬奈のタイプ?いいじゃない。橘花なんて高級料亭の板前」
瀬奈「違うって」
瀬奈、テレビを見つめる。
瀬奈「次に会えたら…か」
〇同・スタジオ
セットの中で演技をしている瀬奈。
〇ワゴン車・中(深夜)
運転席の時計は24時過ぎ。
後部座席でぐったりしている瀬奈。
手前の席で手帳を確認している苅野。
苅野「この調子だと1時には家に着くと思うけど、5時に出発だから。今、仮眠取っちゃって」
窓の外を見つめる瀬奈の姿。
車が料亭「橘花」の前を通る。その先の道を自転車で走る佐野の姿。
瀬奈、佐野に気付きハッと目が覚める。
瀬奈「止めて!車。車止めて‼」
苅野「止められるはずないだろ」
瀬奈「でも!」
苅野「でもじゃない。だってじゃない。寝ろ」
佐野の姿が小さくなっていく。
瀬奈、佐野の姿をじっと見つめる。