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【SAMPLE】あなたに檸檬

♯テーマ

夫が乗った飛行機が墜落したと聞いて、動揺する主婦の一幕。

♯人物表

玉置(たまき)はな(28)主婦
玉置征二(たまきせいじ)(34)はなの夫
小林(39)玉置の上司
空港係員
航空会社職員
男(56)

♯シナリオ

〇ビジネスホテルの部屋・中(夜)
   小奇麗なシングルルーム。
   窓辺に立ち、ビジネス街の夜景を眺めながら電話をしている玉置征二(たまきせいじ)(34)。
玉置(たまき)「もしもし?はな?」

〇玉置家・リビング(夜)
   ローテーブルにノートPCを広げ、ネットショッピングをしながら、玉置はな(28)は電話をする。
はな「もしもし、征(せい)二(じ)さん。お疲れ様。お仕事終わったの?」
玉置(たまき)の声「あぁ、ひと段落ついて、荷造り中」
はな「明日、何時にこっち着くの?」

〇ビジネスホテルの部屋・中(夜)
   鞄からフライトチケットを出す玉置。
   チケットの時間を見て、
玉置(たまき)「12時発だから、19時…家に着くのは20時すぎかな」
はなの声「分かった。明日の夜ご飯は?」
玉置(たまき)「適当でいいけど、はなのご飯たべたい」
はなの声「おっけ。じゃぁ、何か作っとくね」
玉置(たまき)「ありがとう」

〇玉置(たまき)家・リビング(夜)
   はな、電話をしながらPCで検索を始める。「美味しい煮物のレシピ」の文字。
はな「今日は?何か食べた?」
玉置(たまき)の声「これからオイスターバー行く」
はな「いいな~ずるい!」
玉置(たまき)の声「だろ!ご褒美がなきゃ出張なんて
やってらんないからな」
はな「確かにね。食べ過ぎないでね」
玉置(たまき)の声「あぁ。明日、日本着いたら連絡するから」
はな「うん。気を付けてね。おやすみ」
玉置(たまき)の声「おやすみ」
   電話を切るはな。
   煮物のレシピを凝視する。
〇ビジネスホテルのフロント(朝)
   カウンターでチェックアウトする玉置。
   ホテルから出ていく。

〇ジュエル・チャンギ空港・外観
   巨大なガラスドームの建物。

〇同・中・レインヴォルテックス前
   ガラス張りの建物の中は植物園。
   ジャングルのようである。その中央に高さ40mの巨大な噴水。
   玉置(たまき)、噴水を見上げて
玉置(たまき)「おぉ、すげー」
   玉置(たまき)、噴水の近くまで寄ると携帯を取り出し自撮り撮影を始める。
   隣で撮影していた観光客がはしゃいで玉置(たまき)にぶつかる。
   玉置、噴水に携帯を落とす。
   
〇同・中・レインヴォルテックス前
   玉置(たまき)の掌(てのひら)に濡れた携帯が置かれる。
   携帯を覗き込む、玉置(たまき)・観光客と係員。
   つかみ棒を持った係員、玉置(たまき)に
係員「Be careful」
   係員、立ち去る。
   観光客、母国語で一生懸命に話す。
   玉置(たまき)、困った様子で、
玉置(たまき)「オーケー。オーケー。ノープロブレム」
   玉置(たまき)、苦笑いしながらその場を離れる。

〇玉置(たまき)家・キッチン
   はな、鼻歌を歌いながら鶏肉にフォークを刺し下処理をしている。

〇ジュエル・チャンギ空港・搭乗ゲート前
   ベンチに腰かけ携帯を弄(いじ)る玉置(たまき)。
玉置(たまき)「まいったな。やっぱり電源入らない」
   玉置(たまき)、ため息をつくと同時にギュルルルルとお腹が下る音。
   玉置、慌ててトイレへ駆け込む。
〇同・トイレ内個室
   便器に座り安堵した表情の玉置。
   立ち上がろうとして、再びギュルルルルとお腹が下る音。玉置(たまき)、座り直して、
玉置(たまき)「まいったな」

〇同・搭乗ゲート前
   搭乗が開始し、長蛇の列が出来ている。
   玉置(たまき)、慌てて列の最後尾に並ぶ。
   再びギュルルルルとお腹が下る音。
玉置「うぅ~」

〇ジュエル・チャンギ空港・滑走路
   飛行機が飛び立っていく。

〇飛行機・中
   シートに座る玉置、顔が青白い。
   シートベルト着用サインが光る。
   乗務員が通路を歩き、慌てた様子でシートベルト着用を促す。
   飛行機がガタンと激しく揺れ、乗務員はよろけてシートにしがみつく。
   機内に騒(ざわ)めきが広がる。

〇玉置(たまき)家・キッチン
   鍋で煮物を作る、はな。スマホを片手にレシピを確認する。
はな「レモン小さじ一杯。へ~、レモンを入
れるんだぁ」
   はな、冷蔵庫からレモン果汁の瓶を取り出すと、小さじ1杯を軽量する。
携帯が鳴り、電話に出るはな。
はな「もしもし」
小林の声「玉置(たまき)さんの奥様でしょうか?」
はな「はい。そうですが」
小林の声「東仏(とうふつ)商事の小林です。ご主人の件でお電話いたしました」
はな「主人の件…ですか」
小林の声「はい。連絡があって…当社で手配した飛行機の便が…墜落したらしく」
   はなの手から、小さじが落ちる。
   小さじは床に落ち、跳ねて、落ちる。
はな「つ、墜落?主人は?無事ですか?」
小林の声「…まだ確認が取れません」
はな「確認って、えっと」
小林の声「玉置(たまき)さんの携帯に掛けましたがつながらず、航空会社も旅行代理店も混雑していて繋がらない状況です」
はな「え…え、あ、…え…」
小林の声「何かわかればすぐに連絡しますので、連絡がつくようにしておいてください」
はな「え…あ、…はい」
   はな、呆然(ぼうぜん)と立ち尽す。
   鍋がぐつぐつ煮たっている。
   はな、震える手で玉置(たまき)に電話を掛ける。
   繋がらない。
   鍋はぐつぐつ煮えている。

〇同・リビング
   はな、テレビを付けてザッピングするも、事故のニュースはやっていない。
   はな、玉置(たまき)に電話をするが繋がらない。
   はな、口元を手で押さえ、瞳をキョロキョロ動かし、激しく瞬きをする。

〇飛行機・中
   飛行機が上下に激しくガタガタ揺れる。
   玉置、両膝(りょうひざ)を力強くにぎる。眉間にはしわが寄っている。

〇道
   突っかけサンダルを履いたはな、大通りを走る。
   流しのタクシーを捕まえて乗り込み、
はな「空港まで。急いで!」
   タクシーが走り去る。

〇タクシー車内
   後部座席に座り、太ももを何度もさするはな。大きく深呼吸をする。
〇空港・中
   家族や取材陣が航空会社職員に詰め寄っている。
   はな、その集団に駆け寄る。
職員「現在、調査隊が現場に向かっています。情報は今しばらくお待ちください」
記者「乗客名簿は公表されないのですか?」
職員「個人情報ですから」
男「うちの子が、乗ってたかだけでも、教えてくれ!」
職員「…正確な情報が分かり次第、ご報告します」
   職員がその場を去ると、集まった人々は項垂(うなだ)れる。
   
〇空港・中(夜)
   集まった人々は疲れた様子で、ベンチに腰かけている。
   はな、隅のベンチに俯(うつむ)いて座る。
   到着口の自動ドアが開き、旅客が続々と楽し気な様子で出てくる。
   はな、その様子を唇を噛んで睨み見る。
   到着口から、玉置が出てくる。
   はな、驚き駆け寄り、玉置に抱き着き、
はな「よかった。よかった。無事だった」
玉置「え⁉はな!どうしたの?」
はな「どうしたのって。墜落したって。征二
さんの乗った飛行機。連絡あって。もしかして…って。こわかった」
   はな、涙を流して玉置にしがみつく。
玉置「え!そうだったの。うわ、こわ!」
はな「でも、え?飛行機。あれ?」
玉置「あぁ、情けない話。昨日の牡蠣で腹壊して。乗り遅れた」
はな「なにそれ!」
   はな、気が抜けた様子で笑う。
玉置「腹減ったな。帰ろう」
はな「うん。今日はね、鶏肉のさっぱりレモン煮だよ。あ!あれ?コンロの火、消したっけ⁉」

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