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【SAMPLE】クビライの軛(くびき)

♯テーマ

元の襲撃により両親を殺され復讐を誓った小平太が、復讐よりも生きる糧を優先した仲間に裏切られる話。

♯人物表

小平太(8)(23)
権助(3)(18)
耕之介(6)(21)
子供1
ハツ(24)
松浦 答(こたう)(18)(33)

♯シナリオ

〇海
   一羽の鳶(とび)が晴れた空を旋回している。
   陽の光で輝く海の上に、数百の軍船。
T「1274年10月5日」
   海岸には漁師たちの姿。
   漁師1、水平線をジッと見て、
漁師1「なんかおるぞ!」

〇山(早朝)
   獣道を必死に駆け上がる子供たち。
   小平太(8)、権助(3)を背負い、道なき道を必死に登る。

〇対馬・小茂田浜海岸(早朝)
   陸近くで停船した数百の軍船。
   海岸沿いでは甲冑を纏った武士たちが臨戦態勢で様子を伺っている。
   軍船から一斉に矢が放たれる。
   男たちの雄叫びが海岸に響き渡る。

〇山の上(早朝)
   海岸を見下ろせる山の高地。
   木々に隠れて、子供たちが様子を伺う。

〇対馬・小茂田浜海岸(早朝)
   入り乱れ戦う武士の足元に、打ち寄せる波が水しぶきを上げる。
   額に矢を受けた日本兵が、その足元に倒れ込む。

〇山の上(早朝)
   木々の隙間で身を屈めている子供たち。
   耕之介(6)、小平太を後ろからつつき、
耕之介「なぁ、なにが起きとるん?」
小平太「(小声で)シッ!バレんようにせなあかん。元や。元が攻めて来よ
 ったん」
耕之介「げん?あの、変な帽子の奴らか?」
小平太「せや。元は野蛮人やって、トトヤンが言うっておった」
   遠くの怒号が止み、歓声が上がる。
   小平太と耕之介、自分より太い木にしがみつき眼下を見下ろす。

〇対馬・小茂田浜海岸(朝)
   浜辺に横たわる無数の日本兵の姿。
   その横を刀や弓を掲げて闊歩する元軍。

〇山の上(朝)
   目を凝らす小平太、母を見つけて、
小平太「ウソや!タタヤン!タタヤン‼」
   周囲の子供たちに口を押え込まれる。
   
〇対馬・小茂田浜海岸(朝)
   捕らえられた女性達が列をなしている。
   先頭に並ぶハツ(24)、無理やり屈まされると、台の上に両手を乗
   せさせられ、両の掌に杭を打ち込まれる。
ハツ「ッアーーー」
   蒙古人、ハツの手の穴に縄を通すと、ハツを船に乗せる。

〇山の上(朝)
   自分の二の腕を嚙み締める小平太。
   涙で顔がドロドロに崩れている。
小平太「タタヤン。タタヤン。タタヤン…」
   キョトン顔の権助を抱きしめる小平太。
   それぞれに、声を殺して泣く子供たち。
小平太「殺したる。いつか、オンドンが殺したる。そんで、タタヤンを助け
 に行く」
   子供たち、鋭い顔つきで頷く。

〇日本海
   5隻の船団が海を航海している。
T「15年後」

〇船の上
   先頭を進む船の船首に勇ましく立つ、髭ずらの男。小平太(23)で
   ある。
   小平太、目を瞑り鼻で風を感じている。
   小平太、大きな目をギョロっと見開くと、右手を振り上げる。
   小平太の後ろに控えていた耕之介、
耕之介「面舵一杯!」
船乗り一同「えいっ!おー」
   小平太、船首から降り、振り向いて、
小平太「良い風じゃ。明日には高麗に着くぞ」

〇高麗・小さな港町(夜)
   町中、至る所で火災が起きている。
   燃え上がる炎の中、白い服を着た高麗人達が逃げ惑う。
   逃げ遅れ、後ずさりしながら命乞いをする高麗人の男。
   小平太、無表情で刀を振り上げる。
   鈍い風切り音と共に血しぶきが飛ぶ。   
   燃え盛る業火の前に立つ小平太、大量の返り血で顔を赤く染めてい
   る。

〇高麗・海岸沿い(朝)
   奪い取った食料を船に積み込む船員達。
   小平太、船の下で船員達を指揮する。
小平太「ここも、しけとんな~」
   縄で縛り上げられた老人が、怯えた様子で引きずられ歩く。
権助「頭領、こいつ隠れておった」
   老人を小突き、突き出す権助。
小平太「(大声で)耕!おるか?」
   耕之介が船から降り、老人に尋問する。
耕之介「ここにはおらん。立ち寄ってもすぐに内陸に連れていかれるそう 
 だ」
小平太「内陸か…」
耕之介「あかんで。頭領、オンドンらは海でしか生きていけへん」
   権助、老人の首を掻き切りながら小平太と耕之介のやり取りを見つめ
   ている。

〇海岸(夕)
T「備前国・松浦」  
   一艘の船が海岸に着く。

〇松浦家・屋敷全景(夜)
   聳え立つ山の上にある屋敷。
   門前には松明が掲げられ、見張り番が立っている。

〇松浦家・謁見の間(夜)
   行燈の薄明りの中、板の間に座る耕之介の姿。
松浦答(こたう)(33)が来て、上座に座り、
松浦「対馬の小童か。派手にやってるそうだな」
耕之介「はぁっ」
松浦「それで、小童の大将は?」
耕之介「……その」
松浦「あれはまだ憑き物が取れんか」
耕之介「…はい」
松浦「で、お前さんは一人で何をしに来た?」
   眼光鋭く睨む松浦に、耕之介はまっすぐな視線を返す。

〇対馬・小茂田浜海岸・全景

〇小平太の家・外観
   板で作られた竪穴式住居。

〇小平太の家・中
   床に敷いた筵(むしろ)に座る小平太と耕之介。
小平太「次は遠征する」
耕之介「オンドンらは海賊だ。陸には上がれん」
小平太「助けに行くって決めただろ」
耕之介「どこにおるかも生きてるかも分からへんのに、どうやって助けにい
 くつもりや」
小平太「…それでも、行かな」
耕之介「生きてるか分からん者より、生きてる者を食わすのが先じゃろ。い
 いかげんにせぇ!このままなら、皆、飢えてまう」
小平太「…せやかて!これ以上、待てへん!」
耕之介「頭張ってるなら、先を見ぃや。いつまでもタタヤンタタヤン言うて
 んなや」
小平太「なんやと!」
   小平太、耕之介の胸倉を掴むと、きちっと着流した耕之介の小袖が乱
   れる。
   
〇日本海
   航海している5隻の船。

〇船の上
   船首にいる小平太、右手を上げる。
   後ろに控えて立つ耕之介、大きな声で
耕之介「取舵一杯!」
   船が左に旋回する。
小平太「何をしとる!面舵や‼」
耕之介「高麗へは行かん」
小平太「何やと」
耕之介「…もう、ついて行けへんのや。小さな街襲うても足しにもならん。
 それなのに遠征て、死にに行くようなもんや」
小平太「なにを!」
耕之介「備前の松浦海軍に話はつけてある。オンドンらは傘下に入ることに
 なった。嫌なら降りろ!」
小平太「いつからお前が頭になったんや?誰も認めへんぞ!」
   小平太、船員を見る・
   船員は、みんな顔を背ける。
小平太「な、なぁ権助」
権助「オンドンはトトヤンもタタヤンも知らん。飯が食えればいい。松浦は
 交易もやっとるからな」
小平太「…な、」
   耕之介、船に積まれた小舟を見て、小平太の肩を叩き、
耕之介「(ボソッと)どっちでもええで」
   小平太、握りしめた拳が震える。
   耕之介、船首に立ち、大声で、
耕之介「帆を上げろ!行く手は備前じゃ‼」

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