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【SAMPLE】黄泉売り
♯テーマ
瓦版屋となり連絡が途絶えた妹を探す男は、幕府の役人たちが裏で人身売買を行っていることを知り、打ち取る事を決意する。
♯人物表
虎郎(とらお)(25)瓦版屋
秋水(29)春画家・瓦版屋
佐一(27)瓦版屋
大和田 惣治(おおわだ そうじ)(48)
戸津(55)
町人1
町人2
家臣
侍
♯シナリオ
〇江戸のような町並み・全景
〇繁華街
馬に乗せられ、市中引き回しをされている少年の姿と野次馬。
町人1「なんだい?子供じゃねぇか」
町人2「放火だとよ」
町人1「こないだの西ノ町のか」
町人の会話を盗み聞きする怪しい男。
虎郎(とらお)(25)である。
〇秋水の家の前
路地を抜けた先にある長屋に虎郎が入っていく。
〇同・中
狭い板の間に春画が散らばっている。
奥の机に向かっている秋水(29)の後ろ姿。
虎郎「盛況だねぇ」
秋水「なんだ虎か」
虎郎「なんだってこたぁねぇだろう」
秋水「土産の一つもない客は歓迎しない主義でね」
虎郎「土産、話ならあるぜ」
秋水、筆を止めて振り向き虎郎を見る。
虎郎「さっき、引き回ししてたんだがな…」
〇(回想)繁華街
市中引き回しされる少年の姿。
虎郎の声「西ノ町の放火犯は子供だった」
〇住宅街・夜
屋敷に火をつけようとして取り押さえられる少年の姿。
虎郎の声「先月の捕り物も子供だった」
〇火刑場
磔にされた少女の姿。
虎郎の声「その前は女の子の火焙りだ」
〇秋水の家・中
板の間で向き合い座る虎郎と秋水。
虎郎「臭わないか?」
秋水「たまたまだろ」
虎郎「いんや~、」
引き戸の開く音。佐一(27)が入ってくる。
板の間には春画が散らばっている。
佐一「お、盛況だね~」
虎郎、春画を一枚手に取り眺めながら、
虎郎「どうだった?」
佐一「察しの通りだ」
秋水「何がだ?」
虎郎「飛脚問屋に行ってもらったのよ」
佐一「大物が掛かるぞ」
秋水「大物って?」
佐一「大和田(おおわだ)惣(そう)治(じ)」
秋水「隣の領主じゃないか」
佐一「あぁ。都が火事になるたびに莫大な利
益を得てるって話だ」
秋水「まぁ、あそこは木材の産地だからね。火事になりゃ、再建工事で儲かるだろうよ」
佐一「あぁ。だからだ」
秋水「だから?」
佐一「意図的に火事を起こして需要を操作してるってことだ」
秋水「なるほど。でも仮にも領主だぞ」
虎郎「その領主が、領民の、それも孤児に放火をさせていたとしたら?」
秋水「孤児?」
虎郎「放火した子供の出元を洗ったが、どれも大和田領の出だった」
秋水「つまり、領主が子供に放火をさせて…使い捨てってことか?」
虎郎「おそらくは」
秋水「捕まれば死罪だ。それを子供にさせるなんて」
佐一「どうする?」
秋水「相手は領主だぞ」
虎郎「あぁ。だから、徹底的に裏を取る」
佐一「そうこなくっちゃ!」
秋水「盛況なことで」
〇大和田城・外観
高くそびえる日本の城。
〇同・中の廊下
家臣に案内されて歩く秋水・虎郎・佐一。
秋水「(小声で)何で俺までこんなこと」
佐一「(小声で)有名な秋水先生のお力がなきゃ城になんて入れねぇだろ」
虎郎「(小声で)そういうこと。じゃぁ、俺はこっち」
虎郎、静かに列を離れていく。
家臣、部屋の前で立ち止まり振り向く。
家臣「あれ?もうお一方は?」
佐一「急用があって、帰りました」
家臣、訝しげに虎郎を見る。
秋水「今朝がた仕上げた貴人の姿絵がどうしても気になってしまって。気持
ちよく窓辺で描いたものの、その後窓を閉めたかどうか…」
家臣「そうでしたか」
秋水「えぇ」
佐一、よくやった言いたげに秋水を小突く。
〇同・謁見の間・中
大和田を前に平伏する秋水と佐一。
家臣「随一と称される絵師、秋水にございます」
大和田「面を上げよ」
顔を上げる秋水と佐一。
大和田「ふむ。随一というならば大層素晴らしい肖像画を期待しているぞ」
秋水「はっ」
〇同・食糧庫・中
誰もいない事を確認する虎郎。
棚をよじ登り、天井裏へ侵入する。
〇同・謁見の間
大和田の肖像画を描く秋水と、その手伝いをする佐一の姿。
〇川沿いの道(夕)
風呂敷包みを抱える秋水と佐一、並んで歩く。
秋水「虎は大丈夫かなぁ?」
佐一「あいつは虎で猿だから。大丈夫だろ」
〇大和田城・客間(夜)
大和田と身分の高そうな男が酒を酌み交わしている。
大和田「戸津様、まぁ一杯」
大和田、戸津に酒を注ぐ。
〇同・天井裏(夜)
天井裏に開けた小さな穴から大和田と戸津の様子を除く虎郎。
〇同・客間(夜)
酒を飲む大和田と戸津。
戸津「それで、此度は如何程に?」
大和田「えぇ、おかげ様で。木材に大工に諸々と。儲けさせて頂きました」
戸塚「不謹慎だろう。都の民が亡くなってるんだぞ」
大和田「はは。これは失礼を。しかし戸塚様。此度の件は戸津様の計らいあ
ってこそ。都の人口はどれほどになりましたか?」
戸津「西のひと町が焼失したくらい、大した減少ではない。まだまだだ」
大和田「では、次は南の方を焼きますか?」
戸津「いや、農村部が近いからダメだ。ただでさえ人口増で食糧が足りない
んだ。別の…東だな」
大和田「良いのですか?東は職人街ですが」
戸津「逃げた職人をそのままそっちで囲ってくれ」
大和田「では、お安く流通させましょう」
戸津「うむ。後は都の商人が上手くやるだろう」
大和田、グイッと一口酒を飲んだ後、漆の箱を戸津に差し出す。
戸津、箱を開ける。
大和田「金貨150両にございます」
戸津「は!随分と懐が潤ったようだな」
大和田「戸津様のご支援の賜物にございます」
戸津、金貨を数枚手にして。
戸津「次の東も上手く燃やせよ」
大和田「心得ております」
〇同・天井裏(夜)
大和田と戸津の様子を盗み見ていた虎郎、怒りで手が震えている。
虎郎、移動しようとして柱に手をぶつけてしまう。
〇同・客間(夜)
談笑する大和田と戸津。
天井からゴトっと物音がする。
大和田「くせ者か?(大声で)出あえー‼」
〇同・敷地内の庭(夜)
警備の侍が侵入者を探し回っている。
〇同・城の廊下(夜)
物陰に隠れて、庭を行き来する侍の様子を伺う虎郎。
虎郎、侍の隙をみて一目散に走り出す。
侍「いたぞ!くせ者だ‼追え!」
虎郎、斬りかかってくる侍を軽々と交わして、塀を飛び越えて行く。
〇神社・境内(夜)
秋水と佐一が立っている。
虎郎、走って来る。
虎郎「書くぞ!今度こそ悪人を葬ってやる」