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【SAMPLE】今朝も袈裟着てケセラセラ

♯テーマ

幽霊が見える和尚が、幽霊に葬式を邪魔される話

♯人物表

川口洞舟(38)和尚
利田信二(41)葬儀場の支配人
沖田優馬(28)幽霊
洞善(55)幽霊
近藤玲菜(27)葬儀場の社員
沖田吾郎(56)優馬の父
沖田千鶴子(53)優馬の母

♯シナリオ

〇葬儀場「メモリー楓」・外観(夜)
   真新しい洋風の建物。
   入口付近に1台の原付バイクが止まる。
   半ヘルにゴーグル。袈裟を着た川口洞舟(38)である。
 
〇同・事務所・中(夜)
   利田信二(41)と近藤玲菜(27)、他数名が事務仕事をしてい 
   る。
   入口から洞舟の顔がひょっこり現れる。
洞舟「利田さん」
利田「あ、洞舟和尚」
洞舟「お待たせしました」
利田「遅くにありがとうございます」
   利田、洞舟をオフィスの一角にある応接スペースへ案内する。
   洞舟、袈裟をふわりとさせ椅子に座る。
   向かいに座る利田。テーブルに資料を広げ、
利田「故人様の情報になります。明日の午前中にご遺族様との打ち合わせ。
 夕方から通夜の予定となっております」
   資料を覗き込む洞舟。
   その横に座る沖田優馬(28)の霊、一緒に書類を覗き込む。
   優馬、洞舟に、
優馬「なぁ、これ俺?俺の話?」
   利田、悠馬の姿は見えず、書類に目を通す洞舟を見守る。
洞舟「…」
優馬「バイク好きで、よくツーリングしてただって。原付でウーバーしてた
 だけだぜ」
   洞舟、吹き出しそうになるのを堪え、
洞舟「戒名は?」
利田「ご希望されているので、明日打合せをお願いします」
洞舟「わかりました」
   玲菜、洞舟と利田にお茶を差し出す。
玲菜「ひゃっ!」
   玲菜、首の後ろを押さえて恐る恐る頭上を見上げる。
   玲菜の視線の先に、玲菜を覗き込むように浮かぶ優馬の姿。玲菜には 
   見えていない。
   玲菜、天井に何かを見つける。
   洞舟、見つめ合う優馬と玲菜を心配そうに見る。
   こわばった表情で天井を仰ぎ見る玲菜。
   天井エアコンの吹き出し口から、水滴がポタっと落ちる。
   玲菜のおでこに水滴が落ちる。
玲菜「冷たっ!」
   おでこをさする玲菜。
   安堵した洞舟、天井エアコンを見る。
   エアコンの吹き出し口から、風と共に吹き出されて遊ぶ優馬の姿。
   洞舟、口を開けて呆然とする。
利田「和尚、どうかなさいましたか?」
洞舟「あ、いえ。エアコンの季節になったんだなと思いまして」
利田「いつの間にか、夏ですね」

〇道(夜)
   半ヘルとゴーグル・袈裟をまとった姿で原付バイクに跨る洞舟、颯爽
   と夜道を走る。
   洞舟の肩に両手をかけた優馬、マントのようになびいている。

〇祥(しょう)川寺(せんじ)・外観(夜)
   重厚な門に「祥川寺」の文字。

〇同・洞舟の書斎(夜)
   畳に置かれた机の上に習字道具。
   洞舟、筆を執り「フリーター」と書く。
   優馬、洞舟の背中から覗き込み、
優馬「フリーランスのライダーな」
   洞舟、後ろをチラリと見て無視をする。
   洞舟、精神統一をして筆を持ち上げる。
   優馬、洞舟の耳元でささやく。
優馬「ウーバーイーツ」
   筆が机の上に置かれ、半紙が洞舟に持ち上げられる。「フリーター」「ウーバーイーツ」の文字。
洞舟「戒名…」
優馬「ウーバーイーツって入れて」
洞舟「いれない」
優馬「いいじゃん。面白いし。入れてよ」
洞舟「いれない。いいから、戻りなさい」

〇葬儀場「メモリー楓」・中(深夜)
   玄関ホールの自動ドアをすり抜けて入ってくる優馬。館内は真っ暗で
 ある。
優馬「こえ~。なんか幽霊でそー」
   優馬、恐れながら館内を浮遊する。
   まん丸い大きな顔が優馬の顔に迫る。
   まん丸い顔の男、洞善(55)の霊。
洞善「それはお前だ!」
優馬「ギャー!で、でたーーー!」
   優馬、走って逃げだす。追う、洞善。
   優馬、近くの扉をすり抜ける。

〇同・遺体安置室(深夜)
   優馬、ソワソワした様子。
   逆さになった洞善の顔が優馬の目の間に合わられる。
   洞善、天井をすり抜けするりと降りて、
洞善「わかるか?」
優馬「あぁ。ここに俺がいるんでしょ」
洞善「そうだ」
優馬「死んだんだね。俺」
洞善「あぁ。死んだ」
優馬「あなたは?死んだの?」
洞善「あぁ。死んだ」
優馬「いつ?」
洞善「覚えとらんな。わしが生きていた頃はまだ通りを馬が掛けてたわい」
優馬「馬。…なんでここにずっといるの?」
洞善「後身指導ってやつだな」
優馬「後身指導?」
洞善「この洞善和尚がお前みたいな、無知者に死んだ後の流れを教えてやっ
 てるんだ」

〇道(朝)
   半ヘル・ゴーグル袈裟をまとった洞舟が原付バイクで道を走る。

〇同・応接室(朝)
   沖田吾郎(56)と沖田千鶴子(53)が神妙な面持ちでテーブルに
   つく。
   利田、応接室に入り、
利田「この度はご愁傷様です。お辛いことと思いますが、ご葬儀の流れにつ
 いてご説明いたします」
   利田の横に座り、その説明を一緒に聞いている優馬。その後ろに洞善
   が立っている。利田・五郎・千鶴子には見えていない。
   洞舟が入室する。洞舟、頭を下げて
洞舟「この度は…」
利田「洞舟和尚、戒名の方は…」
洞舟「あ、えぇえぇ。故人様を偲んだものを」
   洞舟、筆で書いた戒名を差し出す。
   厚地紙に「誠自院(せいじいん)宇馬居津(うばいつ)信士(しんじ)」の
   字。
   洞舟の後ろからひょっこり顔をのぞかせる洞善と優馬。
洞善「良い戒名だ。洞舟も腕を上げたな」
五郎「宇馬居津…」
洞舟「故人のお名前から馬をお取りしました」
優馬「ただの当て字じゃん」
   優馬、洞舟の頬を指でツンツンする。
   洞舟、居心地悪そうに我慢している。
優馬「洞善和尚の後身って、洞舟和尚?」
洞善「そうだな。そいつもわしの後身だな」
優馬「なら、後身指導をいたしましょうぞ」
   優馬、不敵に笑い、洞善の耳元で囁く。
   洞舟、洞善と優馬を怪訝そうに見る。
利田「和尚、そちらに何か?」
洞舟「いえ、なにも」

〇同・ホール(夜)
   入口には「沖田家通夜」の看板。
   祭壇横にすすり泣く遺族が座っている。
   洞舟、祭壇に向かいお経を唱えている。
   優馬と洞善は、洞舟の左右に座る。
洞舟「願我身浄如香炉 願我心如智慧火…」
   洞善、洞舟から1テンポ遅れるように、
洞善「願我身浄如香炉 願我心如智慧火…」
   優馬、洞善のお経に合わせて、ボイスパーカッションを始める。
   洞舟、リズムが崩れ眉間に皺を寄せる。
洞舟「念念焚焼戒定香 供養十方三世仏…」
   洞舟に1テンポ遅れて、
洞善「念念焚焼戒定香 供養十方三世仏…」
   優馬がボイスパーカッションで続く。
   洞舟、イライラを押えられず、
洞舟「(大声で)ぅっさーーーーい‼」
   会場、騒然とする。
   洞舟、数珠を振り回し、祈祷のふり。
洞舟「えぇい!や!」
   洞舟、再び座り直し読経する。

〇祥川寺(しょうせんじ)・外観(夜)
   重厚な門に「祥川寺」の文字。

〇同・洞舟の書斎(夜)
   畳の上で正座している優馬と洞善。
   その前に仁王立ちする洞舟。
洞舟「なんですか?あれは?」
優馬「後身指導…集中力強化…的な?」
洞善「あの程度で集中が途切れるは未熟!」
   洞善と優馬、目を合わせてしたり顔。
   洞舟、ため息をつく。

〇道(朝)
   半ヘルにゴーグル・袈裟を纏った洞舟、原付バイクで走行している。
   その後ろに摑まり座る洞善。
   優馬、洞善の両肩にしがみつき、マントのように風になびいている。

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