キング・セイコー復活に思う
色違い。
私は汗掻きでレザーベルトの時計は冬の寒い時にしか使えないため、この時計は必然的に今の季節しか使えない。手巻きのハイビート36000振動の45キャリバーを積んだキング・セイコー。キングセイコーというのは1960年代~1970年代に存在したセイコーのサブ・ブランドで、グランド・セイコーより僅かに安い価格帯で、でも品質は遜色なく、搭載されていたキャリバーも共通だった。亀戸にあった第二精工舎の工場製。クルマに例えれば高性能スポーツカー用のエンジンを積んだセダンのような時計。当時スイスの高級機械式時計との高精度競争で上位を独占してスイス勢がルールを変えてきたというスキージャンプやホンダF1で起こった日本勢が勝つとヨーロッパがルールを変えてしまうという出来事の先駆けのような事例を引き起こした歴史がある。キング・セイコーはそういう高性能ムーブメントをグランド・セイコーより買い易い価格で手に入れることが出来た、そういう存在だった。
しかし1970年代にセイコー自ら仕掛けたクオーツブームで機械式の腕時計の販売が世界的に低迷し、グランド・セイコーもキング・セイコーも打ち切りになった。その後スイス製高級機械式時計の復権に対抗するように1990年代に入ってグランド・セイコーが復活。そして近々キング・セイコーも復活するとつい最近公式発表があった。
「キングセイコー」復活、レギュラーモデルに
https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1383211.html
復活するキング・セイコーは写真で見る限りかつてのキング・セイコーに匹敵するクオリティーを再現しているかのように見える。価格は約20万円。しかし問題は搭載されるキャリバーである。数年前まで5万円程度の時計に搭載されていた21600振動の汎用キャリバーで交差も+25秒~-15秒とグランドセイコーには程遠い。かつてのキング・セイコーは世界最高レベルの高性能キャリバーを買い易い価格で手に入れられるというコンセプトだったのに、復活キング・セイコーは精度もそこそこの安いキャリバーに過去の高級時計にそっくりのデザインで割高で売ろうという魂胆の時計に成り下がってしまった。実に残念なことである。
写真の時計は、金張りが1973年製。ステンレスが1972年製。今でも復活キング・セイコーの交差より優秀な精度で動いている。ステンレスの個体は今朝時刻を合わせようとしたら日付調整が動かなくなっていたのだけど、午後になったら何故か自然治癒。機械って不思議です。