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文化芸術復興創造基金 活動報告

かもめマシーンでは、YPAMフリンジ参加作品として『もしもし、シモーヌさん』を上演しました。この公演は、芸術文化振興基金の「文化芸術復興創造基金」に採択されて、100万円の助成金を得て行われた活動です。

この助成金の概要は以下の通り。

このたびの「文化芸術復興創造基金」による助成事業は、新型コロナウイルス感染症の影響により、長期にわたる公演等の中止など、財政的に非常に厳しい状況にある文化芸術団体に対し、東京海上ホールディングス株式会社様のご寄付を原資として、我が国の文化芸術の振興・普及を図るため、文化芸術活動を継続するための支援を行うものです

https://www.ntj.jac.go.jp/kikin/shienn/reconstruction/tmh.html

本記事では、この助成金に採択された活動報告として、「もしもし、シモーヌさん」に至るまでの経緯、そして成果を記します。

電話演劇とは?

「もしもし、わたしじゃないし」演劇博物館特別バージョン
(撮影:荻原楽太郎)

かもめマシーンでは、2020年より「電話演劇」という形態の作品を上演しています。これは、電話回線を通じて、俳優と観客とが1対1で上演される演劇作品。20年に初演した『もしもし、わたしじゃないし』は、サミュエル・ベケットの名作『わたしじゃないし』を原作に、これを電話回線上で展開することによって、「口」と「聞き手」が登場する作品に仕立て上げました。

そうして、次のような評価を得ています。

「電話というメディアがもともと持っている、ある種の暴力性を顕在化させることで、まるで声がそこにはない身体を連れてくるような感覚が生まれます」(早稲田大学演劇博物館館長・岡室美奈子)

https://www.cinra.net/article/interview-202103-okamurominako_myhrt

「わたしは、アガンベンも参照しながら、演劇と公共について、つまりは、演劇という形式の本来的暴力性と他者の問題について、「もしもし」という呼びかけ/呼び出しを契機として、コロナ禍であろうがなかろうが萩原(外にもきっといるはずだ)とともに考える準備が整ったと思えるようになった」(学習院女子大学教授・内野儀)

https://kyoto-ex.jp/magazine/2021a_moshimoshi-2-2/

また、2021年6月には、早稲田大学演劇博物館で実施された、コロナ禍の演劇を特集する展示「ロストインパンデミック」展においても取り上げられました。

私たちは、「パンデミックでも可能な作品」という消極的な形ではなく、「パンデミックだからこそ達成する作品」を目指しています。私たちが取り組んでいる電話演劇という形式は、後者の意味において私たちにとって、あるいは他の演劇人にとって非常に重要な取り組みであると自負しています。

もしもし、シモーヌさんについて

『もしもし、シモーヌさん』は、この電話演劇の第二弾として企画されました。2つの大戦が勃発し、ナチス・ドイツが台頭していっった20世紀前半を、ユダヤ人として生きたフランスの思想家・シモーヌ・ヴェイユ。今作は、彼女の『重力と恩寵』を中心にテキストを構成しました。出版を前提に書かれたものではなく、彼女が自身のノートに書き付けていた密やかでパーソナルな言葉たちは、電話回線を介し、ひとりだけに語りかけることによって、その輝きを増していきます。

撮影:加藤甫

本作は、2021年9月に開催予定であった「豊岡演劇祭2021フリンジ」に参加予定でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、演劇祭は中止となり、急遽、我々は「もしもし、シモーヌさん<公衆電話バージョン>」として、作品を上演。しかし、パンデミックを機に作られたこの作品は、なるべく早いタイミングで初演を迎えたいと考え、急遽12月に開催された「YPAM」フリンジに参加しました。

急遽決定した公演であり、1対1という構造上、チケット収入を得にくい作品であることから、本公演は、この助成金なしでは実現しないものであったと考えています。

(付言すれば、『もしもし、わたしじゃないし』および『もしもし、シモーヌさん』の電話演劇プロジェクトは、文化庁が実施する助成事業「ARTS for the future!」において、「オンライン演劇」と見做され、不採択となりました)

形式について

「もしもし、わたしじゃないし」においては、俳優のスマートフォンから観客のスマートフォンへと直接語りかけていましたが、『もしもし、シモーヌさん』の上演では、関内・泰生ビルの屋上に設置した特設の「電話ボックス」に観客が入る形へとその形式を変更。観客は、電話ボックス内に設置された黒電話から電話をかけることによって、俳優と繋がり、上演がスタートします。

また、今回より「録音バージョン」の上演も実施。独自に開発した黒電話から、指定の番号にかけると、観客は録音された音声を聞くことができます。電話ボックスの中で、黒電話を通じて聞く音声は、決して「いま・ここ」にこだわったライブ上演の「代替品」ではなく、「いつか・どこか」という過去の時点と、電話ボックス内に流れる「いま・ここ」とが混ざり合い、観客の身体感覚に不思議な体験を与える作品となりました。

本作では、演出上の理由からアンケートは取らず、その代わり、電話ボックス内に「伝言ノート」と名付けたノートを設置し、観客が、感想やメモなどを自由に記述できる形を取りました。その結果、ノートにはそれぞれの観客が受け取った感想だけでなく、印象深かった単語の羅列、電話しながら見た風景などが記されました。


感染症対策について

各回1名限定で行われる今回の作品において、観客が接触する人間は受付スタッフのみ。終演後には念入りに消毒作業が行われたために、感染リスクが通常の演劇公演と比較して、極めて低い状態を生み出しました。

最後に

本作の上演を通じて、私たちは、これまで推し進めてきた「電話演劇」という形式の新たな可能性を発見できたのみならず、ビルの屋上に電話ボックスを設置することによって、街と演劇との関わりについても、新たな発見を得ることができました。

今後、電話演劇としては、2022年に『もしもし、あわいゆくころ(仮)』を上演予定です。今回の上演で得た知見を踏まえ、「東日本大震災」という大きなテーマを、1対1という極小の関係で語ることで、発災から11年を経た日本における「公共」のあり方を描いていきます。

文責・萩原雄太


CREDIT
テキスト|シモーヌ・ヴェイユ
訳|田辺保(「重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄」 (ちくま学芸文庫)、「ロンドン論集とさいごの手紙」(勁草書房))
冨原眞弓(「ヴェイユの言葉」、「シモーヌ・ヴェイユ選集 II―― 中期論集:労働・革命 単行本」(ともにみすず書房))
構成・演出|萩原雄太
出演|清水穂奈美
舞台監督|伊藤新(ダミアン)
美術|白鳥大樹
記録写真|加藤甫
記録映像|坂本麻人
制作|清水聡美
製作|合同会社かもめマシーン
助成|文化芸術復興創造基金


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