見出し画像

2.エミリー・ブロンテ『嵐が丘』(河島弘美訳)

今日は『嵐が丘』のなかのエレン・ディーンに宛てて、お手紙をしたためました。

エレン・ディーンさんへ

私はあなたに怒っています。確かにあなたは誰に対しても(目の前にいる相手、ということですが)公平に、不当な憎しみを持つことなく接していました。家政婦らしく主人とその家族の幸せを願い、行動し、時に助言を与えてきました。
でも私には、目の前の相手の感情に動かされすぎているように見えました。その結果、余計にみなが混乱していくように見えました。
あなたは一体、一番誰に幸せになって欲しかったのですか。誰かの幸せを願うとき、その誰かを守り抜きたい時、人はほんの少しのものしか選び取ることができません。とても、とても、弱いのです。
たった一人を選び取る必要があったのではないか、そう感じました。あなたを見ていて。だってあなたはその都度、目の前にいる、その人を手助けしたり、突き放したりしてしまうのですから。
そして、もうひとつ。
私には家政婦という立場がどのようなものかわかりませんが、あなた自身の幸せは、どのようなかたちとしてあったのでしょう。それがわかりませんでした。先に言ったことも、ここに関わっているように思います。
あなたがあなた自身の幸せをもう少し真剣に考えていれば、もしくは、あなたが誰の幸せを願い、誰に奉公したいのかをより明確に打ち出していれば、あの教会に佇む3つの墓石は、こんなに早く建てられることはなかったのかもしれない。そんなふうに思えるんです。
それでもあなたの、誰を恨むことも憎むこともなく、それでいて部外者でも傍観者でもないその振る舞いには、なにか、すっと1本の大きな木を思い起こさせられ、そこでどんな悲惨なことが持ち上がろうと、ひとつの物語に変えてしまう、そんな不思議な力を感じました。
時に自分自身のこともそうやって省みれば、心に爽やかな風を送ることができそうです。
いつか、ディーンさん自身の喜びについても、同じような言葉で語って聞かせてください。


Kamoi


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?