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かもがわ出版メルマガ2024年Vo.156

袴田巌さんの無罪確定が大きく報道され、福井女子中学生殺人事件でも再審が確定し、国民の死刑制度への関心が高まっています。
 
世界において死刑を廃止している国は108カ国あり、10年以上執行がないなど、事実上の廃止を加えると144カ国となります。いっぽう死刑存続・執行国は55カ国です。OECDの中で死刑制度を維持しているのは日本と米国だけです。その米国においても州ごとの刑法で死刑を廃止している州が約半数に上ります。国連は死刑制度を直ちに廃止すべしと表明しており、世界では死刑廃止の潮流が鮮明となっています。
 
では、なぜ日本ではいまだに死刑制度が存続しているのでしょうか?
政府は、世論調査において8割の国民が死刑制度に賛成しており、国民の多くが支持していることを存続の論拠の一つとしています。しかし政府は死刑に関する情報をほとんど開示していません。情報が公開されていなければ議論も低調になり是非の判断も困難になります。
 
12月末に刊行された『中高生から考える死刑制度』では、死刑制度について、写真や図表なども交え、日本の実態、国際社会の流れ、情報公開、冤罪、被害者感情など、あらゆる側面からわかりやすく解説します。
著者は死刑制度に否定的な意見をもってはいますが、本書ではそれを前面に出さず、問題意識と疑問をぶつける形で構成し「存続か」「廃止か」の前に、死刑制度の実態を知り、その是非についての議論を、と訴えます。
 
日本では、1945年から2023年までに718人が死刑により命を奪われており、まだ刑を執行されていない確定死刑囚は、現在107人います。そしてほぼ毎年死刑は執行され、死刑判決が下されています。
死刑は遠い国の話ではなく、私たちの社会のルールで定められ、執行が続けられている現実の制度なのです。本書は、その国に暮らす私たちが「死刑制度」を自分事として考えるための一冊です。

【新刊案内】

●なぜ日本では外交が語られないのか?
『戦争を回避する「新しい外交」を切り拓く』
新外交イニシアティブ(ND)・猿田 佐世・巖谷 陽次郎 本体価格1,800円
なぜ日本では外交が語られないのか?「台湾有事」など軍拡競争は戦争を招く。新外交イニシアティブ10年間の「新しい外交」に基づく、平和日本の指針と展望。

●「死刑制度」について考えると見えてくるものとは
『中高生から考える死刑制度』
佐藤 大介 本体価格1,800円
「死刑のある国」で暮らす私たちは「死刑制度」について、はたしてどのくらい知っているだろう? 私たちには関係のないことだろうか?

●住民は避難さえ不可能だ
『能登と原発』
丸山 啓史 本体価格2,200円
志賀原発計画時点から金沢に在住し原発の危険性と事故防止措置等を指摘してきた著者が震災で露わになった問題を解明し対策を提言する。

●共生について考える物語絵本
『キリムの魔法のティーカップ』
桐山 エツコ・ながわよしこ 本体価格1,900円
共生について考える物語絵本。インターナショナルスクールの生徒たちが各々のティーカップに書かれたキリム柄の意味に想いを馳せていく。

●小学生がはじめて地学にふれるきっかけづくりに
『どうやってできたの?日本の変な地形』
松本 穂高 本体価格3,000円
阿蘇カルデラ、北海道の野付半島、富山県の称名滝など、日本の「変」な地形を成り立ちとともに紹介。その土地の産業、文化もわかる!

●本の刊行を理由に共産党から除名され東京地裁に提訴した
『共産党除名撤回裁判の記録Ⅱ』
松竹 伸幸 本体価格1,800円
本の刊行を理由に共産党から除名され東京地裁に提訴した著者が、最高裁で勝利するまで毎週、記録として配信しているメルマガの第2集。

●特集・放課後世界の変容と現代の学童保育
『学童保育研究 第25号』
一般社団法人日本学童保育士協会 本体価格1,500円
ネット、ゲーム、塾や習い事など、変化する子どもの放課後世界。多様な支援の現場とともに学童保育と子どもの関係性を探ります。

●日本初!専門職として学童保育にかかわる人のためのダイアリー
『放課後児童支援員手帳2025』
学童保育ラボ 本体価格900円
日本の子育てに不可欠の存在となった学童保育(放課後児童クラブ)。15万人を超える職員の仕事に役立つ4月始まりのダイアリー。

●京都の山あいで家族とともに挑戦する
『山里の生活実験』
丸山 啓史 本体価格2,000円
電気やプラスチック製品を極力使わない暮らしとは。いち研究者が家族とともに挑む「本当のサステナビリティ」を追求する生活実験。

●安倍・菅・岸田内閣の問題点を、憲法の視点から解説
『改訂版 檻を壊すライオン』
楾 大樹 本体価格1,800円
憲法の制約を無視して暴走する政治を時事問題で解説し、憲法の役割を学ぶ。岸田政権下の事例を大幅加筆した改訂版。

●医療から診断する驚きの警世エッセイ集
『地域をつむぐ、いのちの連鎖』
色平 哲郎 本体価格1,800円
世界放浪後、農村医療一筋の異色の医師による、医療から診断する警世エッセイ集。生命と地球環境、人道と民主主義、戦争と平和まで。

●次世代へ手渡したい「本の楽しさ」について綴ります
『海外児童文学をめぐる冒険』
越高 綾乃 本体価格1,600円
英米文学研究者・吉田新一の横顔をご紹介するとともに、次世代へ手渡したい「本の楽しさ」について綴ります。エッセイ第3弾。

【総合ランキング】

保育・教育書 第1位
●特別支援教育のワーク教材
『SSTワークシート自己認知・コミュニケーションスキル編』
LD発達相談センターかながわ 本体価格1,500円
社会性の課題を抱える幼児から中学生くらいまでを対象にしたSSTワーク。子どもの相談からできたオリジナルな内容。コピーしてすぐ使える。

人文・社会 第1位
●安倍・菅・岸田内閣の問題点を、憲法の視点から解説
『改訂版 檻を壊すライオン』
楾 大樹 本体価格1,800円
憲法の制約を無視して暴走する政治を時事問題で解説し、憲法の役割を学ぶ。岸田政権下の事例を大幅加筆した改訂版。

【編集より】

30年の実践が生みだした『能登と原発』 児玉一八/著
 昨年の元旦の日の衝撃を忘れることはできない。昨日(12月26日)の報道によると、地震の前のもう1つの衝撃であった日本航空機の炎上も、海上保安庁の飛行機が震災支援のための離陸だから最優先で許可が下りたと誤認して滑走路に入ったことが原因だそうだ。それほどあの日、多くの人が混乱の最中にあった。
 その日を前にして、この本を刊行することができた。何よりもまず、この日に間に合わせようと真剣に執筆に取り組み、図表も含めてたんねんな作業をされた著者に感謝したい。
 本書は、タイトル自体の中立的とも見える印象とは異なり、能登半島に原発は不要だということをつよく主張するものである。それにもかかわらずこのようなタイトルを付けたのは、本書の叙述がきわめて客観的、実証的であり、原発問題での見解の違いにかかわらず、多くの人に中立的で納得的だと思われるだろうと確信するからである。
 そうした特徴を生みだしている秘密はサブタイトルにある。「1.1地震が実証した30年来の提言の意味」。これが物語ることも意味は重い。
 能登半島に所在する志賀原発は、第1号機の工事が1988年に着工された。その10年ほど前、筆者が金沢大学理学部に入学した頃、地元は賛成と反対で揺れ動いていた。筆者はそのなかで反対の立場を確立していくのだが、原発の計画段階からこれまでの30年の間、著者がイデオロギーとしての反対ではなく、科学的なアプローチを貫いてきたことが大事である。
 原発だから無条件に反対という立場も存在する。それはそれで貴重であるが、筆者は、志賀原発固有の危険がどこにあるかを科学的に立証してきた。それが活断層上に立地しているという問題であり、実際に原発事故が起きた際、果たして住民の避難は可能なのかという問題でもあった。
 だから、実際に原発事故が起きた際、避難施設の放射線防護はどうあるべきかという問題についても、危険性をあおって原発への不安をかき立てるのではなく、実際に自治体が講じている措置を検証しながら、住民の被曝が最小限のものとなるような措置を考える。そしてそれを自治体に具体的に提言する。避難のあり方など、あらゆる問題でその手法を貫徹する。だから、自治体の側もそれに納得すれば、筆者の手法を受け入れることがある。
 そうやって30年間、住民の安全優先の立場で活動してきた。だから、24年1月1日に地震が起きたとき、筆者は30年来の提言が実証されたと感じることができた。地震で道路が寸断し、集落から外に出ることができない多くの人が生み出された。同規模の地震が発生し、志賀原発で重大事故が起きれば、住民は避難さえ不可能だと実感することができた。
 現在、復興のかけ声は勇ましいが、例えば次の地震でもビクともしない道路をつくる計画など、政府の頭には存在しないようだ。原発事故で事故が起きても大丈夫な計画づくりどころか、それ以前に、現在の計画では住民はもとの生活さえ取り戻せないのである。
 こうして本書は、住民とともに歩んできた筆者の記録でもある。だから、原発への賛否がどうであれ、多くの読者は本書の結論を受け入れることができるだろう。
 筆者は理学ジャーナリストとして、これまで関連分野で多くの著作を上梓してきた。この機会にご覧あれ。
『活断層上の欠陥原子炉 志賀原発』(東洋書店)、『身近にあふれる「放射線」が3時間でわかる本』(明日香出版社)、『原発で大事故一その時、どのように命を守るか?』(あけび書房)。共著として『放射線被曝の理科・社会』(かもがわ出版)、『しあわせになるための「福島差別論」』(同)、『気候変動対策と原発・再エネ』(あけび書房)、『どうするALPS処理水?』(同)など。

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