革のオチを利用した椅子の張替え
仕事で椅子の張替えをしています。
ボロボロになってしまった椅子やソファの張替え修理が主な業務です。
椅子のフレーム以外。布や革で覆われている表面部分と、内部のクッション部分が椅子張り屋の仕事になります。
布地・合成皮革・人工皮革・本革、のいずれかを使って、お客様の要望に沿って張替えます。
しっかりしたフレームを持った椅子は、張り替えることでなが〜く使い続けることができます。親子代々受け継ぐこともできます。購入から20年程経ってボロボロになった椅子も張替えることで蘇りますし、張替えを経ることで“私だけの椅子“という気持ちはより強くなるように思います。(これこそが愛着ですね!)
“張替え“には物を大切にすることの真価が詰まっていると思っていて、我ながらなかなか良い仕事をしていると思うのですが、ただ、気になることもあります。
材料のオチがどうしても出てしまうのです。
大量生産品ならば、大型のハイテク裁断機を使ってコンピューター制御によって生地のオチを限りなく少なくすることが可能ですが、張替え業ではそうはいきません。いろんな椅子をいろんな生地で張替えなくてはなりません。
そして出るオチなのです。
特に本革は、ほとんどの場合、牛半頭分(背中の正中線で割った半面)が1枚なので、必要な分(例えば、50cm×50cmとか)だけ購入することができません。実際使うのは少量であっても、1枚購入しなければならないのです。
さらに、深いシワや穴が空いている部分(虫刺されもあれば、首の周りは皺が多かったりする)は張り替えには使用しません、なるべく均一で綺麗な部分を見極めて使用します。そうしたムラのある部分はオチとして使い道がないままに溜まっていくのです。
しかし、革のことを勉強すればするほど、なんとも手間のかかった素材であるかがよくわかり、端っこの使いにくい部分とはいえ、捨てるには忍びない気持ちになります。革自体が食肉の副産物であり、なんと言っても、命を削って作られている以上、余すことなく使い切るのが使う責任ということではないかと思います。
また、個人的には、深く刻まれた皺や傷跡、加工段階で空いてしまった穴など、牛が生きていた時から、屠殺後の加工によって私の元に来るまでに経てきた痕跡というものはかなり本質的で、消し去るなんてもったいなすぎるし、私はこの均一ではない、質感と痕跡が好きだし、かっこいいと思っています。
この尊いオチたちをどうすれば最も輝く形で活かすことができるかが、私が取り組んでいきたいところです。
今回は、複数の皮をつなぎ合わせて椅子の張り替えをしました。
そして出会った革同士のコンビネーションを眺めながら、
どこの部位の革なのか?
この穴はどうして空いたのか?
何頭の牛の皮が混ざり合っているのか?
牛の肉はどうやって食べられたか?
そんなことが果てしなく想像できます。
こうして椅子になると、また4本脚になって、なんだか生前の牛の姿に戻ってきたようで可笑しくもあるなぁなんて思ったりして、厳ついつぎはぎが妙に可愛く感じられたりもして。
こんなことを作品作りとして、継続したり、また違う形を探したり、模索を続けていこうと思っています。
この椅子には[Samuel]という名前(タイトル)をつけました。
椅子に人名をつけるってどういうことだろう?Samuelさんの椅子っていう意味か、椅子そのものがSamuelなのか。椅子は、古くから権力を表す役割もあります。椅子に何を与えることができるか。たくさん考え、いろんなものを与えて「超椅子!」みたいなものができたらいいな〜と思います(笑)
KAMO