★東京弾丸旅行②〜ポケモン工芸が見たくて〜
この日の最低ノルマは青春18切符を使って横浜から神戸に帰り、そして18切符を使い切ること。
心苦しかったが、時間的に厳しいので学校も休ませてもらった。
祖父母家の最寄り駅から入場。駅員の人から、
「今日が最後ですね(この日の翌日が期間終了であった)。行ってらっしゃい!」
という激励のお言葉をいただいた。
神戸から横浜は18切符だと8時間くらいかかるが、流石に朝からすぐ電車に乗って帰るのはもったいない感じがしたので熱海で途中下車。
目的は、ポケモン×工芸展だ。
私はポケモンがかなり好きである。
カバンにはドオー、チョンチー、ガブリアスがくっついている。
以前はアニメやゲームに熱中する友達に対して、
「推しとかそういうの理解できない」
というような心無いことを言っていたが、最近は自分こそポケモン推しであるということに気づき、他人の好きなものを尊重したいという気分になっている。
ポケモンのキャラクターそれぞれも好きだが、ポケモンという架空の生き物が人と共生する世界観、生態系やポケモン同士の関係に至るまでの作り込みも好きな理由であると思う。
これはポケモンセンターの一部商品半額キャンペーンを利用して買ったドオーの大きいぬいぐるみ。
ドオーは背中の6つの円の模様が十分にかわいいに関わらず、あえて攻撃する態勢をぬいぐるみにした企画者は天才である。
ちなみに、ポケモンは結構モデルの生物や植物などがあります。
ドオーはスペインがモデルの地域「パルデア地方」で初登場。実際のスペインにあるイベリア半島に生息する、イベリアトゲイモリがモデルだそうだ。
威嚇するときに肋骨が背中から飛び出すという意味不明な生態を持っている。これがドオーの背中の6本の角のような形状の由来である。
両生類つながりとはいえ、ここまで似ても似つかないところからモデルを引っ張ってこれるのはすごい。
7月末の東京旅行の時は石川のほうで開催していた。
しかし、この日(9/9)は運の良いことに熱海のMOA美術館での開催。そしてこの日が最終日。
これは行くしかない。
駅を出て、バスを待つ。
近頃電車に乗りすぎてバスは乗り換えとか運賃システムとか待ち時間とか、とにかくめんどくさいという印象がついてきてしまっている。
しかし熱海はそこまで大規模な駅というわけでもなく、すぐにバス乗り場に着いた。
バスがあと5分で来るというときに、通常高校生1100円のところ770円で入場できる前売り券の存在を知る。
見送るか東海バスの案内所まで買いに行くかのチキンレースを強いられた。
悩んだが、今回の旅は好きなものを見たり買ったりしすぎで出費がかさんでいたので前売り券を買うことに。
平日の昼間だから混んでないだろうと油断していたが、バスはめちゃくちゃ混んでた。
本当に乗り残しが出るレベル。やばい。
土日とかどうなっちゃうんだろう…
この人たちはなんでここに来れてるの??
30分に1本のバスを最初からほぼフルで待ったのでなんとか座れた。
臨時便とかちょっと出してほしい。
MOA美術館は熱海の結構山の上の方にあり、駅との間の直線距離が700m程度しかないのにも関わらず200m近くの標高差があるので坂は急勾配。
バスはスリルいっぱいで、「揺れます」や「傾きます」と言ったアナウンスもされていた(楽しい)。
バスに10分ほど揺られて美術館に到着。元気な人は熱海の海を眺めながら坂道を登っても楽しいだろう。
予約制故に予約優先の入場規制とかあったら嫌だな〜と思っていたが、意外とすんなり入場できた。
入口と展示エリアの間もかなり標高差があった。
とはいえ建物自体が言わば展示物なので飽きることはないが、とにかく広くて高低差がある。
展示室前からはこの景色。
熱海の海と空が眺められるだけでもかなり満足感がある。雲の峰最高。
よく考えたらこの美術館、入口周辺の見通しが悪すぎる。おそらく一気にこの景色を見せつけるための構造的工夫なのだろう。すごい。
ついにポケモン工芸の展示室に到着(入口からここまで約10分)。
入口感があまりないからちょっとびびる。
入って進んでいくと、光が反射して輝く三匹が畳の上に鎮座していた。
この作品たちはキャプションによると表面が銅でできているらしい。
同じ銅という素材も加工や化学変化でこんなにも多彩になるのか。
イーブイの茶色はそのままの銅、シャワーズの青は青銅、サンダースは金銀メッキらしい。
サンダースには真鍮(銅と亜鉛の合金)を使うと「銅の多彩な変化をイーブイの進化に重ねる」というコンセプトにより沿った気もするが…
真鍮はメンテナンスなどが大変なので致し方ない。
どうやら江戸時代頃に生まれた日本の伝統技法「緋銅」が使われているらしい。名前がかっこよすぎる。
純銅を融点ギリギリ(約1000℃)まで熱してからホウ砂水溶液で急冷することでこのような色味が出る。しかし、未だに明確な生産法が確立されているわけではないようだ。
見たところ、指輪やアクセサリーのような比較的小型で厚みのある造形に使われることが多そうだ。
それを毛のような質感でこんな贅沢に使うとは…
色は違っても同じ銅だから造形の方法にはそこまで違いはないはずなのに、ブースターとサンダースでは表面の質感にかなり違いがあった。
工芸技術はすごい。
四角みを帯びた模様は雷や電気を表現しているのだと思うが、首のところは神社の紙垂(みなさん知ってましたか!?私はこの記事を書いてる途中に調べて知りました。)のようにも見えて日本の伝統工芸らしさも感じる。
かっこいい(これしか言ってない)。
照明の配置は結構まばらであった。
私はそんなに照明に詳しくないのでシャワーズは寝そべっていて横長だからライトも多いのかな〜ぐらいのことしかわからないが、どうやって決めているのだろう。
感覚なのか?それともある程度理論があるのか?
作者が決めてるの?
というように色々と疑問が浮かぶ。
展示の仕方は美術館に行かないと見れないものなので、作品の前に立ちってこういうことを考えるのも楽しい。
この展覧会の特徴の一つは、展示物が低めに配置されていることだ。
身長がギリギリ170cmない私でもしゃがまなければ見にくい作品がいくつかあった。
気になっていたが、スタッフの人が親子で来場している人に「子供向けの配慮なんですよ〜」と説明していた。多分そういうことだろう。
ポケモン工芸のスタッフの人はガラスをこまめに拭いてくれたりで丁寧な印象だった。
ポケモン工芸の服を着て、バッジまでつけていた。親近感がある。
それはそうと、私は「ポケモン工芸はどんな人が見に来るのか」ということに興味があった。
ポケモンは言わずとしれた人気コンテンツ。子どもからの人気が特に強い。
工芸も日本の伝統文化として重要なもので、引き継いでいかなければならない。
しかし、さきほどのブイズ(イーブイの進化系)の作品からもわかるように、表現の都合上リアルになったり単純な理解がしにくくなったりする。
故にポケモン工芸はポケモンセンターのような場所とは別の方向性にある。
もちろんかわいい作品もあるにはあるが。
私が行ったのは平日だったため、土日とは来館者の層もかなり変わるだろうが、思っていたよりも高齢の人が多かったと思う。
もちろんいかにもポケモン好きという人などもいたけど。
会場にいる、様々な人達が口々に「ポケモン、ポケモン!!」と言っていて、新鮮だった。
ポケモンと工芸という少し刺さる人のグループが異なる2分野を結びつけたこの展覧会は、違う集団を芸術で結びつける力がある。
年齢や趣味によって分断されつつある現代社会に対する一つのテーゼがここにあるのではないだろうか。
立体作品だけでなく、布などの平面作品もあった。下は江戸小紋×ニョロゾ。
実は既存の江戸小紋の模様にもポケモンが見えてくるのでは…と想像を膨らませることができた。
SVの御三家の陶器が並ぶ部屋の中心に気になる場所があった。
この展覧会で唯一、ポケモンに全くもって関係ない展示物。
キャプションを見てもこれがここにある意味が全くわからない。なぜ?
なんとなく見ながら思いついたのは、配色が赤と青と緑の三色が中心になっていて御三家らしいことぐらい…
気になって電車の中と布団でしか寝れなくなってしまったので(最近不眠症気味です…)、「色絵藤花紋茶壺」で検索。
どうやら鬼滅の刃の玉壺が入ってる壺のモデルではないかと言われているらしい。
言われてみればそう見えないこともないが…
調べていくと、MOA美術館のHPに
「より多くの人に見てもらうために特別展示室で常設展示しています」
と書いてあった。
どうやらMOA美術館(Mokichi Okada Association)の創設者岡田茂吉が長年欲しており、亡くなる2日前にやっと届いたという。
美術館にとって大きな意味を持つ作品だそうだ。
納得したが、謎を失った喪失感もある。
キャプションに!そう!書いてよ!(野暮)
日本のありとあらゆる工芸がポケモンを媒体に大集合ということで、螺鈿(らでん)が用いられた作品も見つけた。
この角度から見るとわからないが、各面を正面から見るとヒトカゲは赤色、というようにポケモンと色が一致する。
螺鈿はランダムに偏光するイメージだったが、ここまで意図的に操作し、用いることができる素材なのかと驚かされた。
螺鈿と聞いてYouTube/文房具中毒になっていた頃のこの動画を思い出した。
調べてみると案の定同じ作家であった。
螺鈿のような日本伝統のもので電子世界を表現するという発想もそうだが、周りに同じことをやっている人がいないニッチを見つけた目もすごいと思う。
おそらく今展覧会のラスボスがこれ。来場者ほぼ全員が困惑したであろう(たぶん)作品だ。
「かげうち」は主にゴーストあるいは悪タイプのポケモンが使う技だ。ダメージが小さい代わりに必ず先制することができる。
漆を使ってるようなので工芸ではある。
形状や色もかげうちっぽくはある…あるにはあるが…言ってしまえばただのダークマターである。
この作品が展覧会会場の出口のそばにあるのだ。
意味不明。
それより前に配置されている作品(=全部)はポケモンのキャラクター自体だったり、ポケモンボールのようなわかりやすいモチーフが入っている。
私も、急に視界に入ってきたこの異質な存在をどう見れば良いのか…という感じだった。
だが、とりあえず周りを何回も回ってみることにした。
漆で光沢についた表面がうねっていることによって、作品に反射して見える自分の体が急に止まったかと思えば動き出す。細くなったりもとに戻ったり。不思議な感覚で楽しい。
まるで対岸が異次元の空間となった鏡のようである。かげうちは時間と空間を歪ませる技なのかもしれない。
正しい見方なのか(そもそも正しい見方なんてあるのか)はわからないが、一つの見方として提案する。
MOA美術館自体も色々見どころのある施設だったので、帰りに館内を探索。
芸術に年齢とか時間はそこまで関係ないような気はするが、小6でこれは信じられない。
ダイナミックなナマズと細かい街と人の描写の対比にハッとさせられる。こういう絵が文部科学大臣賞をとるのか。
写真は撮ってないが、能の舞台(私が行った日の前日にはピカチュウの着ぐるみが来ていたらしい。)や大阪城の秀吉金茶室などもあった。
秀吉の金の茶室は小学生の頃歴史の漫画で読んで印象に残っていたので嬉しかった。
にしてもなんで熱海にあるんだよ!!
行きは速くポケモン工芸が見たくてスルーしたが、帰りは巨大なプロジェクションマッピングもゆっくり観た。
万華鏡に野菜の薄片をちらしたような模様が天井一面に広がる。
そエスカレーターも照明を暗くしてあるので空間全体に統一感があり、先程いた展示エリアとは一転した雰囲気が楽しめる。
淵からはみ出たり、重なってムラができたりということのないプロジェクションマッピングの技術はすごい。
MOA美術館の建物は、どちらかといえば洋風。しかしその中の展示や施設には和の伝統工芸への愛が溢れていた。一見相反する2つの要素が見事に調和している。
また関東の方に来ることがあったら訪れたい。
ついに美術館を出て帰路につく。
風邪気味で横浜の家を出るのが遅れた上にMOA美術館に思ってたより長い間いたため、18切符を使い切って神戸の家についたのは23:50。
ほぼ終電の緊張感のために電車の中では寝れなかった(コーヒーで耐えた)。
18切符、ご利用は計画的に!!