見出し画像

粗食、飽食、ゆでたまご

 熱を出した。
 我が家にある古い体温計は36.7度と高くもなければ低くもない温度を表示した。だが、これは故障ではない。
 年に数回、特に風邪というわけでもなく、内にこもるような熱と怠さを感じることがある。これは家系(と一括りに言っていいものかわからないが)の体質のようなもので、母も、そして母の母もそうした体質だったそうだ。身体の内側に熱がこもり、空咳が出て、妙な空腹感がある。受け継がれてきた体質なので、もちろん受け継がれてきた対処法もある。内熱を冷まし、熱を発生させている大元にくべる燃料を減らす、ということ。前者については少々恥ずかしい内容なのでここでの詳細な記載は控えるが、後者については粗食をしろ、ということだ。
 幼少のころからアレルギー体質で、それは今も変わらない。年々花粉症がひどくなる。毎年一つかふたつ、アレルギーになる食品が増える。少し喉が痒いとか、唇が腫れるとか、軽度なものが多いが、魚卵やウニをはじめとした魚介類のモツ系などは症状が重い。新鮮であればあるほどダメ。もうとにかく体が拒否する。上から下から大変なことになり、胃からめくれあがって表と裏が逆さになってしまうのではないか、というほどになる。それでは動物性の肉やモツ、鶏卵などは大丈夫かというと、結論からいうと大丈夫ではない。一時期、健康のためとゆで卵を常食にしていたら、謎の高熱を出して数日寝込んだことがある。ゆで卵食を控えたら、ぱったりと治まった。魚介類ほど激烈ではないにせよ、遅れて拒否反応がやってくるので、いい気になって肉も食えない。
 こういった経験から鑑みるに、どうやら高エネルギーのもの(高カロリーに非ず)と相性が悪いようだ。一度に貝類をたんまり食べて、たんまり苦しんだ夜に、この啓示を得た。粗食くらいがちょうどいい身体をしているらしい。嗚呼、ローマもかくやというほどのこの飽食の時代において。父親譲りの食いしん坊の舌が泣いている。
 しかしながら、変えられないものは受け入れるほかない。今日も今日とて少しの雑穀を、ぱさぱさの鶏むね肉を、そしてクタクタに煮た野菜を食うのだった。えーん。とんかつが恋しい。

#エッセイ
#小説
#日常
#言葉
#雑記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?