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オスヤギきびちゃんの一生

2015年8月7日。生まれてから2ヶ月。
可愛かったメイの息子きびちゃん(♂)が筋骨たくましい若者に成長しました。手足がシュッと伸びきって、タテガミも馬っぽい感じです。
ヤギの雄は4ヶ月で生殖能力があり、このままでは近親同士で交わってしまうので、きびだけ離して自然な形で育てるか、しかるべき手術を施すか、どちらか選択をしなければなりません。

子ヤギのきびちゃんの里親探し。母ヤギのメイちゃんを譲り受ける時に仲立ちになって下さった徳島・池田のUEDA菓子工房さんにお邪魔して、いろいろとアドバイスをいただきました。里親探しは難しいが、タイミングさえ合えばいずれは雄を必要とする人は必ず出てくるので、去勢手術は早計では?との事でした。ただ、いずれにしても親からは離さないといけないのでそれまできびちゃんをどこで飼うかが問題です。

きびちゃんは里親探しの事を何となく察しているのか、やたらとまとわりついて甘えてきます。きびは私の膝の上でしばらく眠りました。

長らく里親を探していた雄の子ヤギのきびちゃんは、徳島県立三好高校(現・池田高校)農業科の実習農場に種オスヤギとして引き取って頂く事になりました。

生まれてから3ヶ月、1日も欠かさず、ずっときびと一緒にいたので正直な所、里親が見つからなければいいという気持ちが心のどこかにありました。なので引き取っていただけるという連絡をもらった時、いろんな感情が混じり合って、涙が止まらなくなりました。


ヤギのメイ一家が全員一緒にいられる最後の日。
翌日は雄の子ヤギのきびちゃんが池田町の三好高校にもらわれていきます。なのでできうる限り、一日中、きびのそばにいてやりました。気がつくと、母親のメイが横に寄り添ってくれていました。

きびちゃんは池田町の徳島県立三好高校に向けて旅立ちました。5ヶ月前、池田の上田牧場さんから母親のメイちゃんを連れてきた時と同じように、今度は息子のきびちゃんをN-boxに乗せて、一時間半の長旅です。きびは普段は鳴かない子なのに、車に乗せる時と、最後の別れの時、今までに聞いたことのないような悲痛な声で鳴き続けました。

母親のメイと妹のたまちゃんは急に家族がいなくなって、私が出かけている間はすっと鳴いていたそうです。メイはN-boxに残ったきびのおしっこの匂いを嗅いで、きびはもう戻ってこないのだと悟ったようです。

徳島県立三好高校でお世話になっている雄の子ヤギのきびちゃんと一ヶ月半ぶりに再会してきました。会ってすぐはきょとんとしていましたが、母親のメイの匂いを感じ取ったのか、たちまち飛びついてまとわりついてきました。

体はすっかり大きくなり、タテガミも立派になりましたが、中身は甘えん坊のきびちゃんのままです。引き取られて初めの一週間はずっと泣きっぱなしだったそうですが、自分の居場所だと認識したらしく、広い農場の敷地内で自由に草を食べさせてもらって、先生や生徒さんからも可愛がられているようです。

2017年2月、きびちゃんに会いに徳島県立三好高校に行ってきました。離れて暮らすようになって1年半になるのに、きびはまだ私のことを覚えていてくれました。

普通オスヤギは気が荒く攻撃的ですが、彼はとても優しい性格で、声をかけると頭をこすりつけて甘えてきます。三好高校のすぐ近所の、菓子工房UEDAさんのヤギ牧場では5頭のメスヤギが飼われていますが、なんと全員きびちゃんの子供を孕んでいるそうです。今年の春は少なく見積もっても10頭のメイの孫が産まれることになります。

2017年12月4日、三好高校農業科でお世話になっていたメイの息子、きびちゃんが亡くなったとの連絡がありました。2歳7ヶ月でした。死因は家畜保健所で調べてもらっていますが、おそらく腰麻痺ではないかという事です。こんなに早く別れが来るとは思わなかったので気持ちの整理がつきませんが、池田高校さんにはとても自由な環境で育てていただき、昨年今年と種ヤギとして活躍して生き物としての本懐を遂げられたので、とても感謝しています。メイと妹のたまちゃんにきびちゃんが亡くなったことを伝えました。

メイの最初の息子、きびちゃんが亡くなってから一週間。ようやくアポイントが取れて池田高校農業科に行ってきました。学校の農場は神山から車で1時間半の山の上にあります。きびちゃんがいなくなった畜舎に、大好きだったビワの枝とメイのミルクを供えました。ヤギが死んだ場合、家畜保健所に報告する義務があります。きびの遺体は検査解剖のあと、焼却されるのでお墓を作ってやることはできません。詳しい死因はまだこれからですが、おそらく腰麻痺だろうとのこと。先週金曜に足がふらつき始め、その2日後に担当の先生が出勤した時には亡くなっていたそうです。予防はしてもらっていましたが、おそらく原因はそれだけではないのでしょう。最後に会った時に妙に痩せていたのは気になっていました。
きびちゃんは優しい性格で、人に対して頭突きすることもなく、手のかからないオスヤギでした。昨年は種ヤギとして何頭かのメスを妊娠させ、いつもきびに寄り沿っていたパートナーのゆきちゃんのお腹もふっくらしていたので、ひょっとしたら新しい命が宿っていたのかもしれません。

メイの息子、きびちゃんのお話の続きです。きびちゃんは農業高校での短い一生の間、種ヤギとして活躍しました。生まれた子ヤギたち(メイの孫たち)は農家さん等に買われていきましたが、今はそのほとんどが死んでしまったと聞いています。山野の除草に使われ、係留中の首吊り事故、野犬による捕食、腰麻痺などの病気、死因は様々です。

ヤギの除草についてはメディアに多く取り上げられ、癒しや除草剤を使わなくて済むなど良い部分しか紹介されませんが、実際にはどうでしょうか? しっかりした管理で成功している例ももちろんありますが、中には多頭飼育で山野に放置、多くのヤギを死なせているヤギの除草業者、リース業者も存在するようです。

上手く除草させるには普段から食べ物を与えず、ひもじい思いをさせておくのがコツだそうですが、これでは毒草を食べるリスクがあります。動物は自然の中が1番だと言って放置飼いして衰弱死させてしまう人もいます。自然と放置は違います。家畜は長い年月をかけて品種改良されているので人間の世話なしには生きていけません。飼育には正しい知識が必要です。

写真はメイの2回目の出産で生まれた3頭の子ヤギ。この子たちも譲渡先で首吊り事故、腰麻痺、原因不明の突然死で全員亡くなりました。

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