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戦闘糧食 せんとうりょうしょく

 腹が減っては戦はできぬ。古来より軍事行動と食事は密接な関係でした。戦国時代で言えば陣中食、干し飯や梅干しなどですね。缶詰の原型はナポレオンの時代に考案されました。

 自衛隊で支給されるコンバット・レーションのことです。いわゆるミリメシというやつですね。軍隊では戦闘行動が始まると通常と同じように食事を取れないので、前もって日数分の携行できる食事を用意します。
 カロリーやら、味やら(士気に関わります)、耐久性やら、暑くとも寒くとも長期保存が可能やら、などなど大変厳しい規格が求められます。

 自衛隊の場合、演習や災害派遣などの時に湯煎してから配られます。近場の演習など余裕がある時には駐屯地から食事を運んだり、その場で野外炊具を使って調理をしたりもします。

『小説すばる』の2015年6月号に「特別料理」というコラムを書いています。その時の日々雑記はこちら。読んでみてください。

 満足に調理する時間がない時には戦闘糧食の出番です。災害派遣などでも被災者の方に優先して温かい食事――温食を提供するために、自衛官は戦闘糧食を食べたりもします。

 自衛隊では長らくカンメシと呼ばれる戦闘糧食Ⅰ型が主流でした。私が自衛隊にいた頃はこれが中心でした。缶切りをなくすと大変なことになります。銃剣(私が現役の頃は古いタイプ――64式銃剣)で開けるなんて無理でした。現在の銃剣――89式銃剣では鞘の部分が栓抜きや缶切りになるようですが。
 その後、パックメシと呼ばれるレトルトパウチ包装の戦闘糧食Ⅱ型が導入されました。

 1989年にハワイの米軍と北海道で合同演習(ヤマサクラ)をした時に中隊通訳の任に就いたのですが、米軍のレーションはレトルトパウチ型でした。食後のコーヒーやお菓子まで付いていて、さすが米軍だなと思いました。交換して食べましたが、まあ味は……。アイダホ出身の向こうの通訳には、赤飯と牛肉味付の評判がよかったです。

 まあ、味うんぬんよりもカロリーが大切なのです。戦闘中なので、1食で1000キロカロリー以上もあります。普通に食べると間違いなく太ります。
 食事は士気に関わるので、随時改良され今では大分よくなったようです。もっとも若い自衛官は味などより量でしょうが。

 そしてついにカンメシ型のものはなくなることが決定したようです(2016年2月のニュース)。
 まあ、重いしかさばるからレトルトパウチに移行するのは時代の流れとも思いますが、カンメシで育った自分にとっては寂しいものがあります。

 父は施設科の自衛官でしたので、演習や部外工事に駆り出されることも多く、月の半分近く不在の時もありました。今思えば、父の不在中、母は大変だったはずです。当時、家族が住んでいた官舎は木造平屋でした(まだトイレは汲み取り式でした)。防犯も簡素な物でした。また男三人兄弟なので(私は自分が一番次男です)喧嘩も絶えず、内に外に大変だったと思います。
 父はいつも大量のカンメシとともに帰ってきました(本当は駄目だったらしいですが)。カンメシを喜び勇んで頬張りながら、ふと顔を上げると、母の安心した笑顔が見える――カンメシにはそんな想い出があります。

  大好きな赤飯(もち米なので腹持ちがいいのです)を始め、とり飯、有名なたくあん漬、牛肉味付、ソーセージ缶、はたまた、乾パンやそれに附属している金平糖やオレンジスプレッド(これがうまいんです)などなど。
 私一押しの赤飯は、東日本大震災の時に批判を受けて既に消えてしまいましたが……。
 自衛官になる前から、カンメシで育ってきたようなものでした。だから官品なのです。

※官品の説明はこちらです。

 思い出深いカンメシです。当然、『深山の桜』にも出てきます。晩飯を食べ損ねた主人公たちが食べる場面があります。
 またショートショートでそのものずばり『戦闘糧食』(『5分で読める! ひと駅ストーリー 食の話』に収録)という題名で一本書きました。

 これからも当然出てくるでしょう。問題なのは私が古い時代の自衛官なのでレトルトパウチ型の物をあまり食べたことがないということです。これは取材が必要ですな(腹が鳴る)。

 画像出典:自衛隊神奈川地方協力本部ウェブサイトより(一部加工)
http://www.mod.go.jp/pco/kanagawa/

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神家正成 (ミステリー作家、小説家)
第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して自衛隊ミステリー『深山の桜』で作家デビューしました。 プロフィールはウェブサイトにてご確認ください。 https://kamiya-masanari.com/Profile.html 皆様のご声援が何よりも励みになります!