MOS モス Military Occupational Speciality
自衛隊における資格(特技)の区分のこと。
自衛隊員が必ず保有するMOSは、靴磨き、整理整頓、早寝早飯早糞、ポリッシャーなどです。これを持ってている自衛隊員はモスバーガーで全品を半額で購入することができます。
MOSの正式名称は「特技」と言います。自衛隊は自己完結型組織であり、各種多様にわたる装備品を扱います。
それぞれ無条件に扱えるわけではなく、一定の教育を受けて問題ないと認定された場合、このMOSというものが与えられます。国家資格などではなく、純粋に自衛隊内部のみでしか通用しない資格です(娑婆じゃ、役に立たねえ! というやつですね)。
例えば、ほとんどの自衛官が取り扱う小銃(下の写真は89式5.56mm小銃です)ですが、これは「軽火器」というMOSが必要です。
MOSは通常5桁の番号で管理されています。例えば、私の持っていた中級機甲は12105です。
機甲部隊であれば、戦車を操縦するための機甲MOSが必要です。74式戦車(ナナヨン)の乗員は4名です。戦車の砲弾などを装填する装填手、運転をする操縦手、射撃をする砲手、指揮を執る車長。
偉さはそのままの順番です。それぞれにMOSが必要です。上位のMOSを持っている車長は、砲手や操縦手の役割を代行することが可能ですが、操縦手のMOSしか持っていない隊員は砲手や車長を行うことは不可能です。
具体的なMOS名は、基本機甲、初級機甲、中級機甲、上級機甲などとなっています。また、90式戦車(キュウマル)と10式戦車(ヒトマル)の戦車の乗員は3人です。自動装填機能が付き、装填手がいなくなっています。
それとは別に戦車は道路交通法でいえば、大型特殊自動車ですので、国の定める免許、大型特殊自動車免許が必要です。ただ装軌車両限定で、免許証には「大特車はカタピラ車に限る」と記載されます。戦車は移動で一般道路を走行することがあるので一般免許も必要になるのです。
北海道、特に戦車部隊が集まっている恵庭市や千歳市ですと、運が良ければ、戦車が一般道を走っているのを目撃することができます。
その場合、履帯は道路を傷つけないため通常の鉄製の履帯ではなく、その上にゴムを付けたゴム履帯という物に交換します。この履帯の交換作業が、また一苦労なのです……。
ちなみに戦車にはウインカーも付いています。方向指示器のスイッチも操縦席にあります。まあ演習場では使わないですが。一般道を走行する場合には、サイドミラーも取り付けて一般車両と同じように走行します。ゆっくり走るので、よく一般車両に追い越されます。これは海外の戦車も同じです。
私の場合、少年工科学校で3年間、前期教育と呼ばれる一般科目などの教育(一般高校とほぼ一緒の授業内容です。時々、射撃訓練や演習があります)を受けた後、中期教育として9か月間、富士山の裾野にある富士学校(下記写真)という学校で戦車のMOSを取るための教育を受けました。中級機甲と中級機甲整備というMOSを習得しました。
訓練では戦車に乗れないと話にならないので、まずは大型特殊自動車免許を取ります。学科は通常の運転免許と同じです。試験も同じように受けます。ただ、実技は富士学校の側にある駒門駐屯地の第一機甲教育隊で、実際の戦車に乗って行います。
――そう、私が初めて乗った車は――戦車なのです。
戦車で通常の運転教育を受けました。当然、S字やクランク、車庫入れなども戦車で行います。操縦席の上に教官が乗り、駄目な場合は手に持った竹刀で、ばかすか、頭を叩かれます。まあ戦車に乗るときは戦車帽という特殊なヘルメットを被るので、あまり痛くはないのですが。
上記の写真は74式戦車(ナナヨン)での訓練風景です。上の写真はトレーラーに戦車を載せる訓練。下は坂道訓練です。戦車で操縦訓練をするときは、通常は砲身を後ろに向けて固定します。砲身固定用の装具があります。顔を出して操縦するので、砲身が回ると非常に危険なのです。
自衛隊を依願退職後、自動車教習所に行き、普通自動車免許を取りましたが、一般自動車は何て小さいのだと思いました。戦車は横幅が74式戦車(ナナヨン)では、3.2メートル、車体の長さは6.7メートルもあるのです。
ちなみに自衛隊の戦車は左ハンドル――操縦席は左側です。
退役した61式戦車(ロクイチ)では右側にありました。砲手席と車長席は通常、砲塔の右側に位置しています。戦車右部に砲弾を受けた場合、一度に多くの乗員が損失しないようにと、74式戦車(ナナヨン)から操縦席は左側になりました。常に兵器は戦場での運用を想定されているのです。
私が免許を取ったときには、まだ61式戦車(ロクイチ)は現役でした。この戦後初めて国内で開発された国産戦車は、ゴジラと数多くの死闘を繰り返し、ウルトラマンと一緒に戦い、戦国時代にタイムスリップして武田軍と戦い、はたまた中学生とともに反旗を翻したり、最近では田口が制服を着て乗り込み、リヴァイアサンを牽引したりしていますが、実は変な称号を持っていました。
――世界一操縦が難しい戦車。
そう、私はこの世界一操縦の難しい戦車で免許を取ったのです。実は74式戦車(ナナヨン)からはセミオートマ(AT)で、ハンドルも自転車のような物です。そんなに操縦は難しくありません。ただこの61式戦車(ロクイチ)はマニュアル(MT)で、操縦は2本のレバーで操作します。
変速のタイミングが非常に難しく、少しでも回転数のタイミングが合わないと、マニュアルレバーがはじき飛ばされます。
左手に腕時計を付けていると壊れるので、61式戦車(ロクイチ)を運転するときは腕時計は右手にはめました。このエピソードは各所で紹介されていますが本当です。無理やりギアを入れようとするのでギアが震えるんですよね。中間ガスなどを使ってうまく回転数を同調させないと、ガガガ、と震えた後、パシーンと弾かれます(思いっきり擬音語ですみません)。教習当初は、左手はあざだらけで、常に筋肉痛でした。
マニュアルですからクラッチもあり、ギアは前進5速、後進1速なのですが、それぞれに高低があり、併せて12段の変速操作です。
何度も、こんなん操縦できるかーッと叫びましたが、頭がぼこぼこになった頃には、あら不思議、何とか運転できるようになっていました。時々、MT車に乗りますが、変速のたびに61式戦車(ロクイチ)を思い出します。
思い出の多い61式戦車(ロクイチ)ですが、2000年に全車、実戦を経験することなく退役しました。今は駐屯地の隅にひっそりと展示されています。その横で郷愁の憂いで立っている初老の男性がいたら、右手を見てください。恐らく右手に腕時計をはめていることでしょう……。
MOSの話がいつの間にか戦車の操縦の話になりました。ちなみに、最初のセンテンスは冗談です。MOSを持っていようがモスバーガーは半額にはなりません。
※写真は陸上自衛隊HPよりの引用と、私の古い写真です。