拡散、炎上……ドラマが描くネット時代「デジタル・タトゥー」

このところ、NHKのインターネットをテーマにした番組が面白い。5月22 日に放送された、水増しインフルエンサーやフォロワーの売買の実態を追った『クローズアップ現代+』の「追跡!ネット広告の闇 水増しインフルエンサー」や、5月20日に放送された、匿名のネットユーザーから激しい嫌がらせにあった人物がその素性を暴き対峙するドキュメンタリー『逆転人生』「炎上弁護士 唐澤貴洋 元加害者に会う」。

いずれも、NHKの取材力を駆使し、ネットの今を活写したすばらしい番組で、ネットでも盛り上がっていた。

今年のお正月には「平成ネット史(仮)」というタイトルどおり平成のネット史を俯瞰する企画も、ネットユーザーに好意的に迎えられ、ラジオ版はイベントも行われた。

■アナログ人間がネットの闇に挑む!その相棒は……

これらの報道系の番組とはまた別に、5月18日から土曜ドラマ「デジタル・タトゥー」(脚本:浅野妙子)がはじまっている(連続5回)。アナログ人間のおじさん(50代)弁護士・岩井(高橋克実)とネット時代の申し子的な人気ユーチューバーの20代の若者タイガ(瀬戸康史)がバディを組んでネットに関する事件を暴いていく。


ネット社会で問題になっている、ネットにあがった誹謗中傷や個人情報が真偽問わず消えずに無限に拡散されてしまうことをいわゆる肌に彫り込んだタトゥーが一生消えないことに例えた事態に向き合う一話完結の連ドラで、第1話は人気ユーチューバーだったタイガが誰かに悪意をもたれ殺されかかり岩井に救いを求める。犯人を追っていくと、タイガの父親が大物政治家であり、しかも岩井がかつての仕事で失脚させられたことと関わりがあるらしい……。

この大きな謎が全体の主軸になりつつ、各話、様々なネット事件を岩井とタイガが解決していく。第1話には、今、注目のVチューバーまで出てきた。かわいい女の子・ともちんがイチゴ大福体操している、その実体は冴えない男性(近藤公園)であることが描かれた。

NHKはVチューバーによる「バーチャルのど自慢」という番組もやっているだけにVチューバー画像にも力が入っていた。

■SNSの影響力、悪意の拡散

さて、「デジタル・タトゥー」以前もNHKは土曜ドラマ枠でネットをテーマにしたドラマを作っている。2018年は「炎上弁護人」と「フェイクニュース」を制作、放送。どちらも秀作だった。

12月に放送された「炎上弁護人」(脚本:井上由美子)はネットで炎上したSNSユーザーを弁護する話。

フォロワー数の多さを誇るカリスマSNSユーザーである主婦(仲里依紗)があるとき、マンションのモデルルームの火災の様子をSNSで発信したところ、自作自演の放火疑惑が持ち上がり炎上、たちまち人気者から悪者に失墜してしまう。その事件解決に主人公の一匹狼の弁護士(真木よう子)が立ち上がる。ネット記者(岩田剛典)も交えたクライマックスのネット生中継が熱かった。

10月に放送された「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」は、「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」(TBS)でブレイクした人気脚本家の野木亜紀子がはじめてNHKのドラマの脚本を手がけたことでも注目された。

ツイッターのフォロワー数も多く、積極的に発信も行っている野木が描いたのは、嘘のニュースがまことしやかに発信され世界中に拡散され、世論を支配していく、その止められない恐怖。

新聞記者だったがネットメディアに出向することになった主人公(北川景子)は、紙媒体とは違うネットニュース独特の方法論に戸惑う日々。あるとき、食品に異物が混入されていたとSNSの投稿が大事件となり、その真偽を追うことになる。大手ネットメディア「ハフポスト」がネットメディア考証をしていることでも話題になった。

■ドラマが描くネットの舞台裏

「フェイクニュース」「炎上弁護人」「デジタル・タトゥー」、いずれもネットの匿名性と一度火がつくと激しく広がって取り返しがつかないことが描かれている。声なき声、無名の者と呼ばれてきた市井の人間の言動が、ネットによって大きく影響力をもたらしていくこともあれば、巨大な権力が意図的にネットを利用して民衆を操作しようと企んでいることもある。それら、ネットにはびこるきな臭い問題が描かれどのドラマも見応えがある。


ネットが題材になった番組が多く作られるようになったわけは、それだけネットが生活に欠かせないものになっているからで、それこそ、番組の宣伝にもネットは欠かせない。

ネットの評判が番組の評価を左右することだってあって、視聴率に代わる視聴熱を測るときの指標のひとつにSNSのトレンドワードに入ることなどもある。と同時に、フェイクニュースやネット犯罪はいつなんどき誰もにふりかかる危険性を秘めている。どう防ぐか問題提議することはテレビの使命でもあるだろう。

また、若者がテレビを観なくなってネットを見ることが増えている。となるとテレビ局的には困るわけで、ネットが好きな人たちにもなんとかテレビ番組を観てもらおうという気持ちも当然あるだろう。彼らが好むような番組を増やすことは課題であろう。

5月29日にNHKがすべての番組を放送と同時にネット配信できる改正放送法が成立したと報道されたところ。ネットで番組を見る人達もますます増えそうだ。

「デジタル・タトゥー」で、ネットに関する知識がまるでなかった中年の岩井が、タイガと出会って、ネットの世界に足を踏み入れていくように、テレビ世代の人間が急速に知らずには済まされなくなっているネット社会の知識を番組で知ることもできるわけで、ネットという題材は、老若男女にアピールする企画といえる。

■ネットとどうつきあっていくのか?

目下、ネットをテーマにしたドラマは、未知なる価値観のなかで人間の心の動きがどうなっていくか鋭く見つめた秀作ぞろい。報道番組も含めクオリティーの高い番組を観せてもらえるのはうれしい限りだ。今のところ、ネットの悪意ばかりが注目されている印象もあるが、悪意の可視化及び巨大化の恐怖とどう戦うか、人類は今、過渡期に来ているのも確か。


テレビとネットの関わりという物理的な課題と、次第にネットが生活の主となっていく人間をどう描いていくか、作家にとっても大きな挑戦が待ち受けている。くれぐれも、ネット受けを狙い過ぎただけのものを書くのではなく、人間や社会をより深く掘り下げていくものとしてネットとつきあっていく挟持に期待する。それは我々、ネット記事を書くマスコミにも言えそうだ。


2019 年5月27日 dmenuTV で公開 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?