やりたいことが成就しづらい今こそ共感!LGBTドラマの“好き”を貫く気持ち


2018年の4月、“性的指向も、性自認も、服装の嗜好も、自由であるということが、こんなにもドラマで描かれる時代がやってきた”とLGBTをテーマにしたドラマが増えたという記事を書いた。

そのときのまとめは、こういうふうに特別なことのように記事にならず、当たり前にそういうドラマが放送されることが理想と結んだのだが、あれから一年、一過性のブームに収束することなく、LGBTが主人公のドラマはますます一般化している。

■LGBTのドラマが多さがネットニュースを賑わす

2019年の4月期は、ゲイのカップル(西島秀俊、内野聖陽)の日常を描く「きのう何食べた?」(テレビ東京)や、ゲイで女装家の教師(古田新太)が生徒たちに喝を入れる「俺のスカート、どこ行った?」(日本テレビ)、女装の家政夫(松岡昌宏)が事件を暴く「家政夫のミタゾノ 第3シーズン」(テレビ朝日)、ゲイの少年(金子大地)と「腐女子」と呼ばれるボーイズラブ(BL)にハマる少女(藤野涼子)の交流を描くよるドラ「腐女子、うっかりゲイに告る」(NHK)、女性同士(大政絢、篠田麻里子)の恋愛を描いた「ミストレス~女たちの秘密~」(NHK)とLGBTのドラマが多いことに注目した記事がネットニュースを賑わしている。

■各局のドラマが真摯に向き合う姿勢

この現象には予兆はあった。2018年の1月、「広辞苑」が第七版ではじめて「LGBT」(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)について掲載したのだ。さらに、その記述に誤りがあると指摘を受け、修正されたことでも、さらに注目されることとなった。

2017年、WOWOWは連続ドラマW 東野圭吾「片想い」を制作。中谷美紀がトランスジェンダーの役に挑んだ。

明けて2018年1月、NHKは、男性ではあるが女装をし、好きになるのは女性というトランスジェンダーが主人公(志尊淳)の日常を描いた「女子的生活」、3月に、亡くなった弟(佐藤隆太)が同性婚していた相手(把瑠都)と同居する日々の中で主人公(佐藤二役)が認識を新たにしていく「弟の夫」を放送。真摯にLGBTに向き合っていると注目された。

NHKはほかに、大河ドラマ「西郷どん」でも主人公の吉之助(鈴木亮平)と僧侶・月照(尾上菊之助)との同性同士の愛情を描き(あくまで精神的なものだが心中しようとする)、4月~9月の朝ドラ「半分、青い。」では、ヒロインの職場の同僚としてゲイの青年が登場した(「女子的生活」に続いて志尊淳が演じた)。

「半分、青い。」ではあえて「僕、ゲイだから」とことあるごとに言わせ、なぜわざわざ言わせるのかという意見もあったが、当たり前にゲイだと公言できる状況を描いているという見方もあった。

フジテレビでは、1月、主人公(松山ケンイチ、深田恭子)の隣人にゲイのパートナー(眞島秀和、北村匠海)がいる「隣の家族は青く見える」、4月、性的指向も、性自認も男性のものであるが、わけあって女装している人物(瀬戸康史)――トランスジェンダーのひとつトランスヴェスタイト(異性装者)を描いた「海月姫」を放送した。

■いまに至るLGBTドラマの道を開拓した「おっさんずラブ」

いずれも、社会の多様性、ダイバーシティが謳われるようになってきた社会情勢を鑑みての企画であると思われるが、それが一躍注目され、いまに至るLGBTドラマの道を開拓したのは、テレビ朝日の「おっさんずラブ」だ。

主人公(田中圭)が思いがけず、上司(吉田鋼太郎)と後輩(林遣都)に好かれ、取り合われるという三角関係のコメディ。

4月に放送されると視聴率はさほどでもないながら、SNSでの反響が回を増すごとにアップ、終了後も映像ソフトや書籍など関連商品の売れ行きが良く、映画化(今夏公開)もされ、テレビ朝日の18年度の売上に大幅に貢献するほどのヒットとなった。

このドラマの成功に関して、以前、“男同士の恋でも、それを特別なことに見せない、当たり前の感覚であることを感じさせられるからなのではないか”と書いたことがある。

多くのドラマは、LGBTとしての悩みに向き合う姿を描いている。

「腐女子、うっかりゲイに告る」などは自分のほんとうの気持ちを隠さざるを得ない少年の悩み、精神的にとても好ましい女性とこのままつきあっていけたらという複雑な思いなどが痛いほど真面目に描かれている。

「おっさんずラブ」ではもちろん悩みも出てくるが、あくまでメインとなるのは人を好きになったときの心模様である。

田中圭、吉田鋼太郎、林遣都が、相手が男性でも女性でも関係なく、ただただ人を愛する心――喜びも悩みもすべてヴィヴィッドに表現したことが見る者の胸を高鳴らせた。

真の多様化とは、誰もがなんの障害もなく人を好きになれることだから(好きな人と両思いになれないとかはまた別の話)、それがナチュラルに描かれていたのだ。

■ど真ん中にあるのは“とても好きな人がいる”という気持ち

19年4月から放送されている「きのう何食べた?」もゲイのカップルの日常で、恋人を思って美味しいものをつくり、作ってくれたものをものすごく美味しく食べるという心の交流が、食べ物の美味しさと合わせて見ている心をあたためる。

内野聖陽も西島秀俊もとにかく目の前の人が好き、一緒に食べる料理が美味しいというポジティブな感情を溢れさせている。

彼らの設定がLGBTであることがなんらかの効果になっているとするならば、自分の思いを貫き、幸福を獲得した者のこのうえもない喜びではないだろうか。

だからこそこの人との時間を大切にしたい。とても好きな人がいるという気持ち、それが「おっさんずラブ」にも「きのう何食べた?」にもど真ん中にある。「腐女子、うっかりゲイに告る」にも。

■自分が好きなものを好きといい、やりたいことを自由にやる

「俺のスカート、どこ行った?」は恋愛ものではないが、男性がスカートをはいて化粧をする自由を描いている。

第3シーズンまで続く人気シリーズとなった「家政婦のミタゾノ」と合わせて、女装家が主役で世の中のおかしなことを正していくドラマは、女装家のマツコ・デラックスの番組が高視聴率をとり、唯一無二の個性を大事にし、言いたいことをなんでもはっきり言うことが支持されている状況も後押ししているといえるだろう。

対象が人間であれ、ファッションであれ、自分が好きなものを好きといい、やりたいことを自由にやる、それはLGBTに限らない望みである。

今、日本は経済的に元気がなくて、やりたいことを諦めがちな人も多い。そんななかで“好き”を貫く気持ちを目覚めさせる起爆剤がLGBTドラマなのだ。

dmenuTV 2019年5月11日公開

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