福祉サービスに関する法人税課税問題研究報告書
(約六千字)
課税事業をされている法人さんへ。
3月決算のところは5月末が締め切りでしたね。
申告お疲れさまでした。
ところで、その事業、ほんまに課税事業ですか?
「はい、税務署に確認して、課税事業って言われました」
「顧問税理士が、課税事業って言ってます」
そうですか。
そうですよね。
でも、納得されてますか?
ちょっと気になる報告書が、発表されていますよ。
来年の申告に向けて考えてみるのはどうでしょうか、っていうご案内です。
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1、公権力の発動の仕方としてどうなのかな??
私は税の専門家ではないですし、答えを持っているわけでもありません。
けれども、現段階における、福祉サービスに関する解釈の仕方は、公権力の発動の仕方としてどうなんかなって思っています。
「難しい問題だし、税理士さんや会計士さんにお任せしとけばいいのでは?」
はい、おっしゃるとおりです。
ですので、専門家の先生方に、「こういう考え方もあるみたいですけど、先生、うちの法人はどうするのがいいんでしょうね」と投げかけてみてください。
もしかしたら、「あれ?今の状態で大丈夫なんかな?」ということになるかもしれませんよ。
検討が必要かもしれないね、と言われた場合は、ぜひこちらを(^^)
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https://npoatpro.org/topics/20210223.html
日本国憲法 第八十四条
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=321CONSTITUTION
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2、「この報告書をお読みになる皆様へ」(抜粋)
岩永 清滋 委員長のコメントより一部抜粋
(太字強調部分は引用者による)
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「議論を尽くしたといっても、すべての部分について委員全員の意見の完全な一致をみたわけではありません。また福祉サービス事業に課税するべきだとか,課税するべきではないとかいった価値判断は行っておりません。そのようないわゆる立法論は、当然一人一人異なってしかるべきですし、18 名の委員の考え方も異なります。 」
「平成 29 年に示された質疑応答事例の、「基本的には医療保健業だけれども、医療的要素の少ないものは請負業である」といった解釈の仕方は、税を課すと言った公権力の発動の仕方としてはあってはならないと思います。その行う事業が課税対象なのかそうではないのかといった納税者の予測可能性を相当困難にするからです。もっと明確であるべきです。委員全員の一致を見たというのは、この点です。現行法令を前提とすれば課税対象外であるというのがこの報告書の大きい結論です。」
「課税庁の方はもちろんのこと、税の争訟問題が生じたときに関与される裁判官や国税不服審判官などの方にもぜひ読んでいただきたいと念願します。もちろん税法学者の方に読んでいただいてご意見などをいただければ幸いに思います。繰返しになりますが、税法のことはわかっているが、社会福祉や実態のことはよくわからないという方に、福祉サービス事業に関する可能な限りの情報を提供 するというのがこの報告書の主眼だからです。 」
「数が多くなればなるほど、何が収益事業であり、何が収益事業ではないのかといった基本的なことをめぐって、納税者と課税庁の意見がぶつかる場面が多くなるでしょう。 もちろんそのような場合、最終的には税理士としては税の専門家としてお一人お一人の判断にゆだねられることは当然です。ただその判断をするに際して、この報告書を最大限有効 に活用していただくことを望みます。」
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認定NPO法人 NPO会計税務専門家ネットワーク(略称:NPO@PRO)
https://npoatpro.org/index.html
専用ページ開設。報告書全ダウンロードもこちらから。
https://npoatpro.org/topics/20210223.html
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3、報告書専用ページの目次とリンク(要約版有)
福祉サービスに関する法人税課税問題検討委員会|NPO会計税務専門家ネットワーク
https://npoatpro.org/commission.html#point1
(目次)
1. 福祉サービスに関する法人税課税問題検討委員会の概要
2.委員会の開催実績
3.委員会のメンバー
4.この報告書をお読みになる皆様へ
https://npoatpro.org/user/media/npoatpro/page/approach/commission/houkokusyo_4_00.pdf
5.報告書の要約版のダウンロード
https://npoatpro.org/user/media/npoatpro/page/approach/commission/houkokusyo_5_00.pdf
6.報告書の全体ダウンロード
https://npoatpro.org/topics/20210223.html
【7/20追記】↓↓
報告書の論理構成について。
〈A〉福祉活動事業(訓練等給付部分)と生産活動事業(生産活動部分)の二つの事業に分けて、それぞれ、課税の要否を検討すべきである。
〈B〉福祉活動事業(訓練等給付部分)は、請負業にも、その他の収益事業にも該当しないので課税対象外。
〈C〉生産活動事業(生産活動部分)は、実施している事業によって収益事業に該当するかどうかが分かれるが、
C-1 収益事業に該当しない事業であれば課税対象外
C-2 製造業などの収益事業に該当すれば特定従事者の特例で非課税かどうかを検討
以上の論理構成は、広島 H30-03-29 裁決の納税者の主張であり、この裁決が、今回の報告書の調査研究の発端であるとの説明(公式発表ではないけれど)がありました。
↑↑【追記ここまで】
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4、「この報告書をお読みになる皆様へ」(全文)
--------引用ここから--------
4.この報告書をお読みになる皆様へ
特定非営利活動法人 NPO 会計税務専門家ネットワーク
福祉サービスに関する法人税課税問題検討委員会
委員長 岩永 清滋
この研究報告書は、巻末に掲げている 18 名の委員の共同による成果物です。もちろん研究分野や執筆などの分担は行いましたが、幾度となく議論を重ねた結果のものですので、全 体として一つの報告書とお考え下さい。また特定非営利活動法人 NPO 会計税務専門家ネッ トワークの理事会の承認を得たものですので、最終的な報告書の内容等に関する責任は当法人にあります。
この報告書の作成には概ね2年の歳月を要しました。これは委員全員が自身の仕事を有しており、ボランティアベースでの活動であったということもありますが、上に書きましたように議論に多くの時間を割いたためです。委員の事務所所在地は全国にまたがっていますので、議論の多くはメーリングリストや WEB 会議などの手法によりました。
もちろん議論を尽くしたといっても、すべての部分について委員全員の意見の完全な一致をみたわけではありません。また福祉サービス事業に課税するべきだとか,課税するべきではないとかいった価値判断は行っておりません。そのようないわゆる立法論は、当然一人一人異なってしかるべきですし、18 名の委員の考え方も異なります。
ただ唯一委員全員で共有した考え方があります。ご存知のように非営利法人に対する法人税は、継続して事業場を設けて、法人税法施行令に掲げられている 34 の事業に該当する 場合にのみ課税されます。収益事業課税の基本です。現行の法令の下ではこれ以外の考え方はありません。例えば、何らかの財やサービスを提供して対価を得たら収益事業であるとかいった考え方は採用できません。ですから新しい事業に対して課税するためには、施行令の 改正が必要になります。
それにもかかわらず福祉サービス事業に関しては、明確な取り扱いは長い間示されませんでした。そしてわずかに示されたものとしては、文書回答事例や質疑応答事例などにより 「医療保健業として課税対象だ」、「いや、仮に医療的要素が少ない場合は請負業として課税対象だ」のように、相当にあやふやな根拠による解釈でした。特に、平成 29 年に示された質疑応答事例の、「基本的には医療保健業だけれども、医療的要素の少ないものは請負業である」といった解釈の仕方は、税を課すと言った公権力の発動の仕方としてはあってはならないと思います。その行う事業が課税対象なのかそうではないのかといった納税者の予測可能性を相当困難にするからです。もっと明確であるべきです。委員全員の一致を見たというのは、この点です。現行法令を前提とすれば課税対象外であるというのがこの報告書の大きい結論です。
私たちは、児童、高齢者、障害者の福祉サービス事業に対する課税の考え方が、なぜこれ だけ不統一なのかについて考えました。そしてその理由は、福祉サービス事業、ひいては社会福祉事業に関する理解不足や誤解が大きな原因であると考えました。税は国等の財政を担うために必要なものですから、当然個人の私権を制限して納税義務を課する必要があります。ただそのためには税法という法律に別段の定めをする必要があります。税が税法以外の他の法律等による法的関係を直接否定することはできません。できることは、他の法的関係ではこのようになっているが、税法としては徴税目的から別段の定めを設けて、このように取り扱うということだけができることです。
福祉サービス事業は社会福祉の一環ですから、社会福祉に関する多くの法令の制約を受けます。まずもってこのことを尊重する必要があります。尊重までしなくても、まず正しく理解する必要があります。その上で、今度は税という場面でどう考えるのかという態度でなければなりません。それにもかかわらず、いわゆる「税の論理」だけですべてを解釈しようとすることが多くあった気がします。
このことは、ある意味仕方のなかったことであったという見方もできます。それは、社会福祉分野は範囲が広く、部外者がそれらを調べ、理解することが困難であるということです。 多くの税理士が理解しようとしても、いったいどこで、何から調べたらよいのか見当もつかずに困っていました。理解できなかったので、そこにはふれずに従来からの税法の分野だけで解釈するという方法をとった訳です。しかし、それは誤った態度です。
ということで私たちは、社会福祉の制度や歴史を正面から研究しようということになりました。委員全員が税理士ですから、いわば門外漢です。困難でしたが、これをやらないといつまでたっても,表面だけをなぞらえるような上っ面な議論しかできないからです。ただ私たちにはこのことを可能にする有利な条件がありました。つまり福祉サービス事業が、法令に定めのある法定事業であるということです。この事業を行う個別の法人を全部調べな くても、法令の規定を調べれば理解可能ということです。福祉サービス事業は、北海道で行っても、九州で行っても、基本的には同じ仕組みで行われます。社会福祉の法令により守るべき最低基準が法定されているからです。そしてその仕組みを理解すれば、今度は税法の上でどう解釈するのかということが可能になります。その意味でこの報告書では、社会福祉の理解のために多くの紙幅を費やしています。
もう一つ力を入れた部分があります。それは実態調査です。この実態調査というのは、個別の法人の個別の特色を見つけ出そうとする趣旨ではありません。上にも書いたように、その個別事情が入り込む余地の少ない分野だからです。例えば文書回答事例などには必ず「この文書回答は、ご照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答ですので、個々の納税者が 行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあります。」というような断り書きがあります。一般的にはそうなのですが、福祉サービス事業に限って言うと、法定事業ですのでその個別事情が入り込む余地は極めて少ないものになります。 したがって私たちが行った実態調査というのは,外部のものが入手可能な統計情報などにより、福祉サービス事業を行う NPO 法人の、規模や申告水準などを客観的に把握しようとするものです。まず実際はどうなっているのかということです。今までこのような調査は 行われていませんでした。しかも東京、愛知、福岡という3つの地域で行ったために、その 結果はすこぶる大量のものとなりました。報告書の多くの部分を占めています。
本報告書は 330 ページにも及ぶ膨大なものになっています。執筆した者からすれば、すべてを読んでいただくことを念願しております。そうしていただければ、今まで税法以外の、 苦手であった社会福祉分野の全体像がおぼろげながらご理解いただけるものと信じております。
しかしながら読者の皆様のご関心のあるところから先に読んでいただくことも可能です。 そのため目次は詳細なものにいたしました。また条文や参考文献等は可能な限り掲載いたしました。またこの報告書の他の個所を参照していただきたい場合は、参考にするべき個所も明示いたしました。そのような条文や参考文献等は、ぜひ原文を確認していただくことを希望いたします。
先にも書きましたように、執筆者全員が税理士です。ですから税理士という税の専門家から見た福祉サービス事業の研究という形になっています。したがって読者も、基本的には税の専門家を念頭に置いています。税のことをよく知らない一般の方が読まれても難解かもしれません。税の専門家ならば当然知っているような法人税の基本的な解説などは一切書いていないからです。仮に NPO 法人など実際に福祉サービス事業を営んでおられる方が読まれる場合には、顧問や相談相手となる税理士さんなどにお渡ししてご一緒に理解していただくような方法をとられることを望みます。
税の専門家というのは税理士だけにとどまりません。課税庁の方はもちろんのこと、税の争訟問題が生じたときに関与される裁判官や国税不服審判官などの方にもぜひ読んでいただきたいと念願します。もちろん税法学者の方に読んでいただいてご意見などをいただければ幸いに思います。繰返しになりますが、税法のことはわかっているが、社会福祉や実態のことはよくわからないという方に、福祉サービス事業に関する可能な限りの情報を提供 するというのがこの報告書の主眼だからです。
福祉サービス事業を行う非営利法人は非常に多くあり、今後も増加することが予想されています。数が多くなればなるほど、何が収益事業であり、何が収益事業ではないのかといった基本的なことをめぐって、納税者と課税庁の意見がぶつかる場面が多くなるでしょう。 もちろんそのような場合、最終的には税理士としては税の専門家としてお一人お一人の判断にゆだねられることは当然です。ただその判断をするに際して、この報告書を最大限有効 に活用していただくことを望みます。皆様の業務に少しでもお役に立てられれば幸いです。
--------引用ここまで--------
https://npoatpro.org/topics/20210223.html
以上です(^^)