ジュニアトレランチームのコーチをして思うこと
2021年にMountain Addicts(マウンテンアディクツ)というトレランのジュニアチームを始めて2年半が経った。少しずつ人数も増えてきて10〜15人くらいの人数で月に2度、平尾富士山(長野県佐久市)での練習と毎週木曜にオンライントレーニングをしている。さすが成長期って感じで練習すれば見る見る速くなっていくのが羨ましい笑。と思うと同時になんでも純粋に吸収してしまうので正しい知識やコーチングで接してあげないと勿体ないというか、危険だなと思うことも。大人でもトレーニング理論が確立されてないこの競技でどこまで、どうやって子供にやらせるのが良いのか、そもそもコーチとはどんな存在なのか。自分なりに考えていることをまとめた。
コーチの意味
そもそもコーチングの目的はなんだろうか。一概にコーチと言ってもオリンピック選手を指導する立場から中学高校の部活動の監督、地域のスポーツ少年団のコーチなど立場は様々。求められる役割ももちろん違うが、大きなくくりで共通している目的は①競技力の向上と②人間力の向上だと思う。
指導する対象や年代によってこの2つの比重は変わってくる。例えばプロアスリートへのコーチングの目的はほぼ100% 競技力の向上。勝つ事が全ての世界だから当たり前。ただ、トップ選手は結果が全てだから人間力はどうでもいいというわけではない。トップに上り詰めるには育成段階で人間力をすでに磨いてきているはず。というかそうでないとトップ選手にはなれないだろう。
一方、小学生へのコーチングの目的はほぼ②人間力の向上にあると思う。プロアスリートと違って子供達がスポーツをする意味は競技そのものにあるわけではなく真剣に取り組む過程で得られる成長にある(もちろん本人達は人間として成長しようとやっているわけはなくただ楽しくてやっているのだが)。なぜならほとんどの子供にとって将来、足がどれだけ速いかなんて無価値になるからだ。全てのスポーツで当てはまることでプロで食べていける人間なんてほんとにごくわずかしかいない。もしスポーツに取り組む理由が競技力の向上、つまりは勝つことだけだとしたらプロの世界に行けなかったら何も残らないことになってしまう。
ここで誤解を生まないように補足しておく。本人がプロを目指してその夢に120%人生をかけて頑張るのは大賛成。自分としてもそういう若い選手を指導することに何よりもやりがいを感じる。たとえその夢が叶わなかったとしてもそれは決して失敗にはならない。サッカー少年だった自分がそうだったように今はプロサッカー選手でもなんでもないが、努力した日々を後悔したことはない。ただ、周りの大人が本人にそれを強制するのはNGという話。世界で活躍してるいろんなスポーツ選手を見ても大人がスパルタ式で引っ張ってやらせてきたというケースは見たことがない。本人の意思がないところに道は生まれない。
なので「プロになりたい」とか「日本代表になりたい」と言って頑張るジュニアを指導するのはとても嬉しいし全力でサポートするが、全員がとにかく勝つために!みたいな指導はしないように意識している。
好きこそものの上手なれ
では何を大事に指導しているのかというと「好き」という感情である。
好きこそものの上手なれ。といつことわざがあるように何かに夢中になってる状態がいちばん上達する。山岳スポーツのレジェンド、キリアンもこんな事を言っている「If you don't have pleasure when you train, you will never improve.」訳「トレーニングに楽しさがないと成長はしない。」彼の本を読んでも小さい時からきついトレーニングを顔をしかめながら耐えてきたという感じはしない。時には超人的な山行やトレーニングをしているがむしろ常に冒険心というかワクワクがある。
好きだから何時間でも練習できるし、より上手く速くなるために考えるようになる。コーチにも自ら質問してどんどん吸収していく。最高のフロー状態だ。
この「好き」という感情を自然と生み出させるのがジュニアのコーチとして大事だと感じている。山を走る爽快感。山頂の景色。空腹からのご飯のおいしさ。こんなに早く、長く、高いとこまで走れたんだっていう感覚。ただ、楽しいが楽(ラク)にならないように時にはちょっと頑張らせることも。楽しみつつ気づいたら速くなってて大会で勝ったりもしてより速くなろうと目標を自分で持つようになる。こんなサイクルを作りたい!
具体的にどんな練習をしているのか
アディクツでの練習は3時間程度。山頂まで日によってルートやペースを変えながら登りの練習をまず一本。その後、周回できる700mくらいのトレイルコースでチームを分けてリレーを何本か行う。本数やペース、練習ボリュームは子供の様子を見ながら調整している。たとえばリレーを3本くらいやろうかなと思って計画していても思ったより最初の登りの練習で疲れていたら無理やり当初のメニューをやらせることはしない。(サボろうとしてるのか本当に疲れているのか見極めるのが超むずい笑)
逆に、こっちが想定してたよりも元気が余ってる時は本数を追加する時も。
目先のキッズレースで勝つことを目的にするなら登りのインターバルをもっとガンガンやらせたらいいのかもしれない。でも上でも述べたように楽しさがない状態でトレーニングを強制しても一時的に結果が出ても長続きしない。そのうち心も体も疲弊して右肩下がりになっていく。その点、最近よく取り入れているリレーはかなり良いメニューだと感じている。2分~3分くらいで登りも下りも全力だからかなり強度的には高いのだがチーム対抗戦というワクワクのおかげでみんな自然と頑張って走る。同じ効果を狙ったトレーニングでも工夫が大事なんだなと。
ゆっくり長く根を張るトレーニング
あとは長い時間たくさん身体を動かすこともとても大事。レースのことを考えるとどうしてもレーススピードでの練習をたくさんやりたくなってしまうが、全ては有酸素能力の土台がしっかりしていないと成り立たない。スピード練習はやればすぐ結果が出るので効果的に思いがちだが、何ヶ月、何年もかけてどれだけじわじわ有酸素能力のキャパシティを広げたのかが将来大きな差をつける。この有酸素能力とスピードの関係はクリスマスツリーみたいな感じかな。木の大きさが有酸素能力、飾り付けがスピード能力。今年のクリスマスでよく見せるには飾り付けを頑張ったらいいが、10年後に大舞台で輝くことを考えたら今は飾り付けなんか気にせず木にしっかり栄養をやってじっくり大木を育てた方がいい。
選手としてもコーチとしてもまだまだ分からないことだらけ。引き続き勉強あるのみ。