世田谷から震災時の避難所運営を考える(後編~皆で守る避難所)
災害が発生した時に、私たちの最後の拠り所となる指定避難所。
心の拠り所にもなる場所だからこそ、混乱なく運営できるよう、地域で守っていくことが大切です。避難所の収容人数から運営状況、また現状の課題などを大まかに共有できればと思い、後編~皆で守る避難所を記しました。
長編になりますが、よろしくお願いします。
1. 指定避難所って?
① 避難場所は「避難所」以外にも
「避難所」といわれるのは主に「指定避難所」を指し、避難する場所はこの「指定避難所」以外にもいくつかあります。まずは「一時集合所」と「広域避難場所」があり、また福祉避難所といった特定の避難所、そして指定避難所の中には医療救護所のあるところとないところがあります。また災害でも水害による避難所はまた別に指定がされています。
これらについては、前編(https://note.com/kamishima/n/n62b6910303ed)でも触れていますので、省略します。
大事なことは、一時集合所と広域避難場所はあくまでも「一時的な滞在」を目的とする施設で、基本的に長期滞在(避難生活)を保障する場ではないので、いわゆる避難生活者を受け入れる場所ではないということです。
以下、前編で余り触れなかった「福祉避難所(高齢・障害・母子)」と「医療救護所」、さらに「水害時・土砂災害時の避難所」についてそれぞれリンクを貼りましたので、ご興味ある方はそれぞれご覧になって下さい。
○福祉避難所:自宅や指定避難所等での生活に支障をきたすため、特別な配慮を必要とする要配慮者のうち高齢者や障害者、母子等を一時的に受け入れ、保護するための施設です。
小中学校など一般の指定避難所での生活が困難であると区が判断した方になります。原則として、施設に直接避難することはできませんので、まずは、最寄りの小中学校など一般の指定避難所に避難してください。
以下はR5.4.7現在の指定避難所一覧です。
○医療救護所:区は、医師会、歯科医師会、薬剤師会及び柔道整復師会に、医療救護班(医師・看護師等)、歯科医療救護班(歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士)、薬剤師班(薬剤師)及び柔道整復師班(柔道整復師)の協力を仰ぎ、医療救護所において応急措置を行います。その中でも重傷者は、後方医療機関に搬送して治療を行います。
また、医療救護所は以下の指定避難所(区内小中学校)に付設されます。
○水害時・土砂災害時の避難について
水害時・土砂災害時避難所について | 世田谷区ホームページ (setagaya.lg.jp)
② 「指定避難所」は地域で運営
ここが非常に重要です。
世田谷区の場合、指定避難所の開設、運営は、町会・自治会、PTA等の地域の方々で組織されている避難所運営委員会が中心となって進めていきます。
もちろん、避難所には区の職員や、防災関連の事業者なども来られますが常時という設定ではなく、あくまで地域の方々主体です。
区で決められた基本的ルールに則り、各指定避難所で独自の運営がなされていきます。
その運営については、これまでも、訓練や会議を重ねて練り上げられたもので、その指定避難所での行動については、命に関わるようなことでない限り、ご協力頂きたいと思います。
ということで、皆さんと同じ地域の方が地域の皆さんのために運営していることを忘れないでご留意いただきたいと思います。
区の職員ではありませんし(区の職員だったとしてもですが)、また報酬をもらって従事しているのではないので、文句を言い続けたり、無理を言ったり、こき使うようなことがあってはなりません。
ご協力いただき一緒に避難所を守っていただきたいと思います。
もし、懸念する事情がある場合は、平時からの参加協力を重ねていく中で、ご意見を事前に入れていただくことが肝要です。
③ 「在宅避難」が原則です
大規模な自然災害が発生した場合、「指定避難所」に避難をするイメージをお持ちの方が多いと思います。
ただ、先に申し上げたとおり、「指定避難所」は地域の方々が運営しているので、過度な負担がのしかかれば、避難所自体が混乱し、災害時に大切な安心感や助け合いの関係が崩壊することは非常に危険なことです。
負担を少なくすることは、避難所への避難者をできるだけ少なくすることに尽き、すなわち、地域の多くの方が在宅避難をされることがとても重要になります。
④ 「指定避難所」の収容能力
1995年に発生した阪神・淡路大震災の例から推測すると、世田谷区では、約13万人が避難所で生活されることになります。またそれらの方々が区の指定避難所94カ所に均等に避難したと仮定した場合、1400人強の区民が1つの避難所に身を寄せるという推計になります。
しかしこの間、幸か不幸かコロナ禍を経験し、保健衛生管理の重要性が認識されました。
確かに、感染症が避難所で発生したら、それこそ大変なことになりますから、その受け入れ方法には細心の注意を払わざる得ません。その事で、これまで各指定避難所の避難者受入数(各所概数:500人~1500人)も1/2~1/3程に見直されていると聞いています。
そういった意味でも、多くの方々に避難所生活をせずに在宅避難や縁故避難ができますよう適切な準備をしていただきたいと願います。
2. 指定避難所の課題
① 救援物資の支給について
発災後、1日~2日後、避難所には食料・飲料水等の救援物資が届けられることとなります。
ただ、これまで被災した地域の課題の一つには、救援物資の偏りがあることが指摘されています。
また救援物資を置いておくスペースが十分に確保できないなどの問題も避難所によっては生じる可能性があります。
そのことから、初動期において各地域から要請がなくとも最低限必要と思われる物資を供給側から避難所にタイムリーに送り届けられるプッシュ型の仕組みができるように工夫を重ねていく必要があります。
また、避難所における「食物アレルギー」「介護食」等、配慮が必要な者に対応した食料品等の特別ニーズへの対応は、被災者の命と健康を守るために必要不可欠ですが、そういった点でもまだまだ準備が十分整っているとは言えません。
さらに、在宅避難を推奨している以上、在宅避難者にも救援物資を提供していく必要がでて参りますが、どのようにそれを行うかも、これからの検討となります。
② 収容人数オーバーによる混乱
指定避難所の課題としては、避難する必要のある人でない方も、集まってくることで、避難所が混乱する可能性が大きくあることです。
指定避難所に来られる方は、
A.自宅が損壊し、避難所での生活が必要な方
B.医療等の特別な支援が必要で在宅避難が継続できない方
C.帰宅困難者
D.自宅の損壊は大きくないが不安で在宅避難ができない方
E.在宅避難はできるが情報を求めている方
F.在宅避難はできるが物資を求めている方
などが考えられます。
AとBは指定避難所に避難して頂く必要があります。
またCは滞在が一時的なものと想定されます。
Dは特に高齢者のみ世帯などに多いと言われ、避難所の収容に問題が無ければ、精神的な支援として受け入れていくと思います。
EとFに関しては、やはり在宅避難に戻って頂く必要があります。
ただ、耐震化や不燃化など防災まちづくりを進めている世田谷区では、地震の規模が想定以内なら、在宅避難できる率が高いと思われるので、今後は防災まちづくりを更に進めつつ、EとFへの対策、つまり「避難所に行かなくても情報と物資が十分に得られる仕組みを作る」ことさえできれば、避難所に来る人をより抑制でき、避難所の混乱を防ぐことができると考えます。
③ 避難所を運営するスタッフの確保
先にご説明しました通り、世田谷区では地域の方々が主体となって避難所を運営していきます。ただ、そのメンバーもそう多くいるわけではありません。
さらには、町会自治会の関係者は皆高齢であり、比較的若い方も含め、発災後に避難所運営そのものに携わることができるかどうかも分かりません。
つまり、24時間体制の避難所の運営を継続する上で、運営に携わっていただける方の確保が非常に重要になります。
そこで、まずは地域の有志の方々誰もが避難所運営に携われることができるような仕組みを作っていく必要があり、その点では、「初めての方でも避難所の開設や運営に協力できるアプリの開発」を区に要請しています。
また、避難生活を支援するために必要となる医療関係者や社会福祉の施設に従事する者などの専門的人材も、医療救護所であるなしに関わらず、確保できていなければ安心安全な避難所とはなりません。
今後は既に災害時の協力協定を結んでいる団体や事業所と避難所への支援に関する内容を詳細に詰めると共に、避難所が適切に運営されていくために必要な専門職を特定し、更にこの災害時協力協定の締結を広げていくことが肝要です。
④ ペット同伴での避難
世田谷は犬の登録数NO.1。犬以外のペットでも全国一の数を有しています。自然災害時には、多くの人がペット同伴での避難を希望されるでしょう。
そこで、世田谷区では、やむを得ずペットを同行して指定避難所へ避難する場合を想定して、ルールを定めています。
しかし、その状況はペットを飼っていない私から見ても、まだまだ課題が多いです。
大前提として、運営は地域の方々であり、ペットを預かるサービス事業者ではなく、あくまで被災者の安全を確保することを第一にしていることです。
また、世田谷区では、同行避難を受け入れ、ペットを受け入れるスペースを設けていく方向ですが、ペットと一言で言っても犬や猫以外にも様々な動物がいますが、それらの所在が把握できていない中で、受け入れ準備をどうするかも検討が難しいということ。
さらには、避難所は多くの被災者が身を休めている場所であり、鳴き声をはじめ様々な課題が予想されますが、その対策は難しいということ。
また中には、要支援の避難者でペットを飼われている方も出てくることが考えられますが、同伴避難(一緒に寝泊まりする)ことが求められる場合も考えられることから、福祉避難所のように特別な対応をすべきではないかということも区に要請しています。
ペットの避難に関しては、細かくもたくさん課題がありますが、検討が難しいことも事実です。
そこで、やはり飼い主としての責任として、日頃からの取り組みをお願いしたいと思います。
A. まずはペットを飼われている方は特に在宅避難ができる準備をしっかり進めていただく
B. 在宅避難が難しくなった場合、縁故避難や分散避難(※1)などの次善の策を用意していただく。
C. また避難所にペットと同行避難される場合は、パニックになって吠えるなど、周囲に迷惑がかからぬよう躾をしていただく
D. 避難所において、ペットたちにとってよりよい環境を維持できるよう他のペット飼い主と連携して管理をしていただく
E. できるだけ避難所運営訓練に積極的に参加し、避難所運営の内容を理解いただきながら、運営委員会と意見交換を重ねて、より適切な受け入れ体制を作っていただく
主に以上5つのことをしていただくことが大切であると考えます。
本当はまだまだ細かく課題はあり、ペットの避難だけをテーマに掲載をしたいくらい内容は濃いです。私もかつて犬も猫も飼っていましたので、愛おしい気持ちは非常によく分かります。ペットを心から大切思う飼い主の皆さんには、今から主体者として積極的に関わっていただきたいと思います。
現状については世田谷区のホームページをご覧ください。
「災害時のペットの避難について」
※1)縁故避難:災害時でも安全な場所にある親戚・友人宅、または職場などに避難をすること
分散避難:ここでいう「分散避難」は飼い主とペットを指し、例えば「飼い主は避難所へ、ペットは友人宅へ」など、さまざまな避難先に家族が分散して避難すること
以上、後編を記しましたが、他にも災害時の対応や準備に関し、お伝えしたいことはたくさんあります。また機会を見て、世田谷区における情報を適宜お伝えしていきたいと思います。