【洋画】『パグ・アクチュアリー ダメな私のワンダフル・ライフ』2018の紹介!
◆どんなストーリー?
恋人と失恋したばかりの孤独な高校教師サラは、遺言で祖母の愛犬であるパグの世話を引き継ぐことになり、そのせいで波乱万丈な生活がはじまってしまう。
無邪気にふるまう奔放ぶりに悪戦苦闘を強いられるも、サラはパグとの絆をふかめ、恋と仕事と私生活を実らせるストーリー。
◆主要人物
サラ・フランシス……デーマン高校の教師
パトリック……祖母から引き継いだ飼い犬
セリア……アパートの住人
ウェンディ……セリアの愛犬
オリバー……獣医
ベン……女子生徒の父親
◆やんちゃなパトリック
ロンドンの集合住宅に住んでいる三十代前半くらいのブロンドのサラは、ベッドの上でハッピー・エンドがお決まりな恋愛ものの映画を見ている。さきほどコンビニで買ってきたチップスを頬張りながら、庶民的な容貌のサラは泣いている。
どうして自分はこんな素敵な恋愛ができないのか、と。
ついこのあいだ、同年代くらいの彼氏とケンカ別れをして以来、彼れとの連絡も途絶えてしまった。
きっと、すぐに戻って仲直りできるはず……そう願いながら、もう何週間もやすい家賃のせまい部屋のなかで憂鬱な日々を過ごしていた……。
そんな彼女の自宅に訃報の知らせがとどく。
なんと、八十歳をこえるサラの叔母が、愛犬のパグを散歩ちゅうに街ちの広場でたおれてしまい、心臓発作でそのまま帰らぬ人となってしまったようなのだ。
実家の母から連絡をもらっていたサラは、部屋から飛びだすかのように慌てて葬儀にでかけていった。きっと今ごろ、教会の墓地に遺族たちがあつまり、牧師のはなしを聞いているころだろう。
寝坊をしてしまった自分を憾みながら、サラは黒いワンピースにジャケットを羽織り、セダンに乗って車をはしらせた——。
すでに祖母の葬儀を終えてしまった遺族たちは、サラの両親と姉家族の暮らしている実家にあつまり、デザートのご馳走がふるまわれていた。一戸建ての家にしては敷地面積がかなり広く、赤いレンガ・タイルを貼った壁には、みどりの蔦が覆いかぶさるように乗っかっている。それはちょうど、よこに八列ならぶ長方形型の格子窓が顔をだすように整えられており、スクエア・タイプの屋根の両サイドからは煙突がつきでていた。
「遅かったじゃない」喪服姿のサラの母が、玄関入り口から入ってきた娘のところへ足をはこんだ。「葬儀は終わったわ」そして時間にルーズな娘をたしなめた。
サラは意にもかいさず居間へとすすみ、温厚そうな義兄とも挨拶を交わした。家には二十人ちかくの遺族たちがおり、そのほとんどが六十歳いじょうの——熟年層のかたたちだった。
「えっ! なにあれ?」眉間にしわをよせたサラ。
なんと、そこには犬用の喪服をまとった小型犬もいた。おでこのシワが畝のようになっているそのパグは、部屋の階段下から、ジ〜っとこちらをうかがっている。
「おばあちゃんの遺言なの」おしゃれなティー・ポットを持っている母親が、サラのとなりでボソッと言った。「葬儀にも出てたのよ」
おもわぬ意表をつかれたサラであったが、その後、キッチンでひとり食器を洗っていた父や、二階の子供部屋で『トイ・ストーリー』を観ていた小さな甥っ子たち、三児の母でありながら弁護士でもある姉とも、かるく言葉をかわしあった。
サラの父親はまた黒のジャケットをはおって、居間にあつまっている遺族たちのまえに立った。「えー、これから、母の残した遺言をのべていきたいと思います」
キッチンで母の手伝いを済ませたサラたちも、途中から居間にくわわった。すると、父のはなしのとちゅう、実家で飼われている白いペルシャ猫が——まるで電光石火のごとく——居間のあいだをとおり過ぎていった。そのうしろを、ヴゥ”〜っと唸りながらパグが追いかけていく。しかし、逃げられてしまったパグは追いかけるのをあきらめ、ソファの上にあるクッションと格闘する。
まわりが騒然とするなか、父は話しをすすめた。「“サラには私しが何より大切にしていた——”」
サラは母のよこで立ちならび、「あの高価なブローチをくれるのね♪」と高をくくっていたが……
「“——愛するパトリックを”」娘と妻に背を向けているじょうたいで父が言った。ニコッとしながら。
「……はぁ!?」真顔になったサラ。「たしかなの?」
「ああ。パグのパトリックをお前にと」ふりかえり、父が言った。「“相性ぴったり”と書いてある」
ムリよ、と嫌がるサラのよこで、なぜか母もニコニコしている。まるで、うちがめんどうをみなくて良かったと、安堵したような笑顔だ。
父はいちぶのすきもあたえず、そそくさとウィスキーを注ぎに行った。
「ちょっと、パパ——!」父の背にむかって叫んだサラ。居間のほうに目をやると、モコモコのクッションが引き裂かれおり、そのよこでポツンとおすわりをして、こちらをうかがっているパトリックと目があった。パトリックは頭をななめにかしげた。渋面顔でサラは、お盆に置かれていたチョコケーキをほおばった。
サラの住んでいるところは集合住宅であり、とうぜん、犬や猫などのペットを飼うこともゆるされてはいない。彼女は一人暮らしであり、転勤したばかりの教員という仕事だってあるのだ。が、そういう事情を説明したのにもかかわらず、実家の両親や姉家族たちからは、なんとかなるさの楽観的な一言で片づけられてしまい、しぶしぶ、パトリックをひきとることにしたのだった。
そんな娘が車でかえっていくうしろ姿を、両親たちは笑顔で見送っていた——家の玄関ポーチから手をふりながら——。
「どうしてジっと見てくるの? 気味わるい」助手席でおすわりをしているパトリックに、運転しながらサラが言った。「外を見たら? お城があるわよ」
車道を走っている右がわには、イギリスの公邸である——広大で大きなウィンザー城の石壁がみえている。
しかし、そのゴシック調の威容なふんいきや、かしこまってしまうような畏敬の念というものは、パトリックに湧いてはこなかったようだ。彼れは、あいかわらず不愉快そうなサラの顔を見つづけていた。
道中、ペット・ショップによったサラは、パトリックも一緒に同行させて、彼れのエサやトイレ・シーツなどを買いこみ、ようやく我が家にたどりつく。管理人に見つからないよう、まわりをキョロキョロ…うかがいながら、パトリックを抱えて部屋にはいっていった。
「もし吠えて飼っているのがバレたら、公園で生活することになるからね」パトリックを部屋に放したサラ。「楽しそうだとか思わないで」
新しいご主人はなにを言っているんだろう?——と思いながら、パトリックは頭をかしげた——。
翌朝、パトリックはテクテク…と歩きだし、玄関ドアをカチャカチャ…と前足でたたいた。「ワァン!」
すると、ベッドでだらしなく寝ているサラが、うつろげに起きだした。時計をみた彼女はうなるような声をあげ、「パトリック」と低いアルトで言った。「まだ六時よ」
サラはパトリックを大きめの買い物ぶくろにかくして、集合住宅の——雑草がおいしげっている——裏庭にやってきた。
「はい、ここでして」パトリックを地面に放してあげた。「見つかるから早くして」
パトリックはその場でおすわりをした。
すると、なんだかサラのほうがソワソワしはじめた。「あ〜……催してきた」すみっこの陰に移動した。だれも見ていないことを確認したあと、サラはかがんで下のパジャマを脱ぎだした。
ちょうどそのときだった……おなじ集合住宅でひそかに小型犬のパピヨンを飼っているお婆さんがやってきたのだ。
「「!? ハァァァ!」」二人がどうじに驚いた。
サラは急いで下のパジャマをもどした。
「そこで何をしてるの?」呆れたようすで白髪のお婆さんが訊いてきた。なんてはしたない人なの——と顔に書いているのが容易にみてとれる。
「すみません。人が来るとはおもわなくて」ばつがわるいといった感じでサラがこたえた。
お婆さんもトート・バッグから愛犬のパピヨンを地面にはなした。
「あなたも犬を?」表情がすこしゆるんだ。
「気をつけないとバレるわよ」花柄のパジャマ姿にブルゾンの上着をはおっているお婆さんは愛犬を撫でながら訊く。「名前えは?」
「サラ・フランシスです」
「犬のほうよ」
「おう! パトリックです」
パトリックとパピヨンは仲良くならび、サラたちを見つめている。パピヨンがパトリックの顔をペロッとなめた。
「亡くなった祖母の犬だったんです。飼い主を探さないと……」
「形見を人にゆずるなんて許されないわ」お婆さんはトート・バックからビニールをとりだし、サラに渡そうとする。「はい、これ」
「あ、わたしは大丈夫です」
「あなたのじゃないわよ! パトリックのフンよ」
「あ……そうですよね」苦い顔でビニールを受けとった。
お婆さんはパピヨンをバックにもどした。「私しはセリアで、この子はウェンディ。もう行かないと」
「では、また——」サラはキメ顔でいった。「——いや、内緒ですね!」
「…………」お婆さんは冷めきった視線の残像をのこし、戻っていった。
そのとき、サラは何か違和感をかんじた。足になにか温かいものをかんじる。ジョウロの先から流れおちてくるような……
「おう! パトリックっ!」サラはパトリックのおしっこからブーツをどけた。「なんてことを」
パトリックの顔には、朝陽がてった。
おしっこをかけられた片方のブーツを指先で持ちながら、サラはパトリックと一緒にかえってきた。先にパトリックが居間のほうへ走っていった。
「やっぱりムリだわ。どこが相性ぴったりよ」ぶつくつ…と一人、サラは愚痴をはいている。「つぎやったらシェルター行きだから」居間のほうへ歩いていく。
すると、なにかグチャッという音とどうじに、いや〜な感触が裸足につたわってきた……
「!? ……おー」いったん汚れたブーツを台においた。「なぜ残ってるの?」
サラはパトリックの残していた缶詰のエサを踏んでしまったのだ。ブーツを履いている片足でケンケン…しながら、彼女はバスタブのほうへむかった。「お腹空いてるなら食べなさいよぉ」
居間のところでお座りしていたパトリックは、サラの言葉を理解したのか、冷蔵庫のほうへテクテク…と歩いていった。サラがバスタブの水で足をあらっているあいだ、パトリックは器用に前足をつかって冷蔵庫のとびらをひらき、中途半端にのこっているパック入りのハムをくわえだした。そのままパトリックは、またテクテク…と歩きだす。
足を洗いおえたサラは、タオルで水気をふきとり、居間のほうへもどってくる。「パトリック!」冷蔵庫が開いてることに気づいた。でも、パトリックはいない。嫌な予感がしたサラは、とびらを閉めて、寝室のほうへ歩いていく。「パトリック?」すると、サラは目をおおきく剥きだして唖然と立ち止まる。
パトリックは白いもこもこの羽毛布団のうえで、むしゃむしゃとハムを食らっていた……
「パトリック——ッ‼︎‼︎」サラの怒号の声が部屋中にひびいた。
ん!? なに? と、なんの悪びれもなく、パトリックが見つめてきた。“食べなさいよ”って言ったでしょ? と、言っているかのように。
「シーツを替えたばかりなのにぃ……」なげくサラ。「ダメよ! やめなさい」パトリックからハムをとりあげた。彼れを片腕で抱きあげながら、ベッドから遠ざける。「おばあちゃんと違って、わたしは甘やかさないからね」ゴミ箱にハムを捨てて、パトリックを下ろした。「冷蔵庫はかってに開けないで、いい?」サラは寝室にもどっていった。
主人がみえなくなるとパトリックはゴミ箱のフタを開けだした。サラがペダルを踏んで開けていたのを、彼れはしっかりと見ていたのだ。パックのハムをくわえながら、彼れはアンティーク調のたかい自分のソファへと向かい、そのうえで優雅に召されていた——。
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——おわり。(約4,900文字)
◆見どころとは?
⒈ ロンドンの典雅な歴史的建造物
⒉ パトリックとサラとの滑稽ぶり
①ロンドンの典雅な歴史的建造物(例)
●ウィンザー城
●リッチモンド公園
●トラファルガー広場
●ハンプトン・コート宮殿
❶ウィンザー城
面積のひろさは約45,000平方メートル。イギリス王室の所有する、とんでもなく大きいお城の一部がちらりと映されている。壁はくすんだネズミ色の石造りが特徴で、外部の人たちを威圧するかのようなゴシック建築が、なんとも厳かな雰囲気をかもしだしている。よく見ると、城の最上部には凹凸の胸壁がしつらえられており、戦を想定していた造りになっているのが恐ろしい。
❷リンチモンド公園
ロンドンの王立公園で、なんとその広さは955ヘクタール(9,550,000平方メートル)。
緑りゆたかな雑木林と草原がとても壮観で、角を生やした野生のアカシカたちの群れも魅せてくれるのだ。
ちなみに映画ではサラの愛犬であるパトリッック(パグ)を公園に放してしまっていたが、リッチモンド公園は自然保護区にも認定されているため、かならずリードをつけるのがマナーとなっている。
❸トラファルガー広場(おそらく)
こちらは序盤のほうでチラッと映るウェストミンスターの広場。中央に噴水と美術館につながる階段があるのだが、文字通り、チラッとしか映っていない。が、それでも、背景に映るエキストラたちを見ると、なんとなく市民の生活ぶりがみえてくる。
❹ハンプトン・コート宮殿
サラ・フランシスがどこに住んでいるのかは謎だか、早朝のパトリックのトイレで——パジャマ姿で彼女が外出すると、ウェストミンスターから遠くはなれたハンプトン・コート宮殿が顔をだす。高さは三メートルもありそうな鉄柵の門扉をかまえ、すぐ目先には円形の通路、そして、左斜め・真ん中・右斜めの三本の道にわかれている。真ん中の道をすすむと、また、円形の通路が出現し、その内側にはサァサァ…と噴水が湧いているのだ。そして、さらに真ん中の道をすすと、ようやくたどり着く王室所有の大宮殿。
さすがに室内のようすまでは見せてもらえないが、左右対称に均一された荘園のようすは、なんとも雅やかである。
②パトリックとサラとの滑稽ぶり
部屋にある調度品や装飾アイテムなどから、なかなかの富裕っぷりをみせてくれるサラの祖母。そんな祖母に甘やかされて育ったせいか、愛犬のパトリックの自由奔放ぶりには何度も笑わせられる。
そんなパトリックに弄ばれる——祖母から世話を引き継いだ——孫のサラの様子がとても滑稽、滑稽。いいかんじのボケとツッコミが癖になる。
ということで、ちょっとラブ要素が雑だったところ以外は、なかなか笑えていいんでないでしょうか。パグ好きの方はぜひ見てみてください!
ではでは👋
「犬は私たちの生活の全てではないが、私たちの生活を完全なものにしてくれる」
米国の写真家、ロジャー・A・カラス