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【クリミナル・マインド 9】記憶の稜線 – あらすじ
「被害者などいない。
征服者が人々を被害者だと信じ込ませるだけ」
作家 バーバラ・マーシニアック
5,200文字ほど。
【感情のトリガー↓】
【謎・悲】襟ぐりの穴・深夜の脱走
【解】手口の性格
【ー】
【ー】
【哀】真の共犯者
【謎・悲】襟ぐりの穴・深夜の脱走
ミーティング室には、行動分析課のメンバーが勢ぞろいしており、正面の大きな液晶モニターのまえに ガルシアが立っている。その液晶モニターには、殺害された被害者たちが映し出されていた。場所は、ニューヨーク州 北部の、ほぼ 公共にちかいようなところである。この一〇日間で、三体も発見された彼れらには、直接の関わりはみられなかった。
被害者たちは皆、三十代くらいの年齢で、女性ふたり、男性ひとり。ただ、その特徴的な手口から同一犯だということがうかがえ、F B I が担当することになったのだった。
その特殊な手口とは、遺体のからだに刺されていた “丸い穴” である。どの被害者も 洋服を身につけていたのだが、肌が露出されている胸のあたりに、まるで襟ぐりに沿ったかのように、細かく刺されていたのだ。それは、フォークのように 均等な間隔で……。
また、一人目、二人目の被害者たちは、人気のすくない路地や、袋小路に捨てられていたのだが、三人目の男性からは、みどりの豊かな丘陵にある牧草地に変わっていた。それも、ただ捨てるのではなく、案山子ようの木の板に——まるで、イエスの磔刑をおもわせるような形で——縛られていたのである。
この犯人は、遺体を罰しているつもりなのか?
それとも、作品に見立てた ショーのつもりなのか?
秩序的に刺された穴には、どんな意味があるのか?
犯行がよりエスカレートしていることから、三〇分後、行動分析課のメンバーは 現地へと 飛びたつのだった——。
————————。
街ちから離れていけば、アスファルトのない畦道が目立ってくるようなところ。そこは広々とした牧草地のなかで、昼間はみどりで生い茂った美しい大地の自然がみられることであろう——しかし、夜になればその景色もみられず、あたりは闇と化した居心地の悪さを与えてくるような癖もある。そんな場所に、ふるびたロッジの家と、そのとなりに、おんぼろな木造の納屋があった。こんな 田舎くさいところに、人は近づかない。とくに、陽がかくれたしまった深夜には……。
今夜もだれかの怨嗟が、吹いてくる。その元をたどってみようではないか。これが、怖いものみたさというもの……。さっそく、ぼろい木造ドアを通りぬけていくと、こぎたない納屋のなかに、二人の女性が閉じ込められているではないか。どちらも痩躯な形で、二、三十代といった感じの見た目である。ひとりはブロンド、もうひとりは黒人。ふたりとも、えらく憔悴しきっており、顔には痛々しいほどの 殴られた跡がみうけられる。が————
今夜、ふたりは脱走するつもりだ。
ブロンドのキャリーという女性が、納屋の鍵を盗んでいたらしく、黒人のダリアという女性に、「一緒に逃げましょう」と持ちかけていた。じゃないと、ジョーという悪い男に、いずれ殺されてしまう——と、つけ加えて。
ふたりは納屋のなかにある鎧窓のすきまから、向かいのロッジをのぞきつつ、そのチャンスをうかがっていた。
すると、部屋の明かりが消えだした。彼女たちは、すこし時間をおいて、深いねむりについたであろう時期を見はからい、実行にいざ うつす。
ブロンドのキャリーが木造ドアのガラスを割って——そのとき受けた、ガラス片の切り傷なんか気にすることもなく——鍵をあけたドアから全力で逃げはしる!——が、その《ガシャン》という大きな音で めざめた男——ジョーが、すぐに追いかけてやってくる! キャリーとダリアは、木でできた安っぽい門扉をとおって、ひろい牧草地から街ちにつづく道へと——
すると、全力で走ってるダリアの後ろで、ブロンドのキャリーが止まりだす。いや、動きたくても動くことができないのだ。この脚を撃たれたという、そのあまりの激痛で地面にたおれてしまい、先にすすむダリアを呼び止めていた。すると、助けを求めているキャリーにもとに、ダリアは引きかえす——が、自分のちかくに猟銃の弾丸がふってきたため、彼女はキャリーの救出をあきらめざるしかなかった。とうぜん、だれもが己れの命を大事にするもの。「助けてぇー! ダリアぁー! おねがい、戻ってきてぇ——!」という、恨みの混じいる叫声を背中にかんじつつ、ダリアは街ちの明かりを求めて邁進するのだった——。
その目に涙を浮かべ、
ただ、 あ や ま り な が ら……。
【解】手口の性格
時速八〇〇キロ以上の速さで進んでいる空のなか、行動分析課のメンバーは、犯人像をとらえようとしていた——。
被害者 三人のうち、性的暴行を受けていたのは 女性ふたりだけ、もし性的な欲求のために殺しているのなら、性別にかたよりがでるはず……なのに、今回は男性も殺されていた。しかも、わざと即死しないように、じわじわと先の尖ったようなもので拷問をしている……これは、サディストの傾向がみてとれる。そして、拷問をする理由として考えられるのが——
① 任務を抱える秩序型にみられるような情報収集。
② 怒りを本人、もしくは身代わりにぶつけよとする懲罰。
③ 無秩序型で、レイプの跡もよくみられる感情的なもの。
被害者どうしに接点はなかった……なら〈①)は除外——。もし、行き当たりばったりの犯行であれば、被害者たちに同じキズ跡をのこそうとするのは不自然……つまり、消去法から〈②〉だということが推測できる。
人を殺すほどだ……おそらく、幼少期のときに受けた、圧倒的な体験がストレス要因となり、抑えきれない怒りを溜めてしまったのだろう……。
さっそく、現地へたどり着いたモーガンとジェイジェイが、案山子のように縛られていた 三人目の発見場所を調査していく。すでに遺体は安置所へと運ばれているのだが、それ以外に関しては、なるべく、当時のままに保たれていた。その壮大なみどりの大地には、さみしくポツンと置かれた十字架の板が立っている。案山子はその地面にころがっていた。それも、整然とされた 置 き か た で ……ん!?——ここまで、道路から結構な距離があったぞ……だけど、タイヤの跡はみられない……男の体重は、だいたい八十キロくらい……それを一人でここまで運んだというのか??——いや、無理だ。おそらく、これは……複数犯によるもの——
この犯人には、” あ い ぼ う ” がいる!
安置所をおとずれていたリードとロッシ。
ステンレス素材のつめたい台に置かれた死体をまえに、その刺された丸い穴をじっくりと観察したリードは——言った。
「熊手や農具にして穴が小さい……」と。
ポツポツと細かく、襟ぐりに沿ったかのような傷跡の凶器とは——あれだった。かたい氷をザクザクと細かく粉砕する——
アイスピック——。
そして、リードはさらに続けて、こう言った。
「整然とされていた現場に、職人のような刺し傷——おそらく、犯人のひとりは “強迫性障害” を持ってる」——と。
【哀】真の共犯者
納屋から抜け出していた二、三十代くらいの黒人女性——ダリアは今、病院のベッドで モーガンによる聞き込みを受けている。自分を閉じこめていた犯人は ジョーという男で、歳は三十代くらいのハンサムな白人だったと述べていた彼女は、共犯者がいたことも証言した。
ジョーは悪魔で、だらしない人。だから、後始末はいつも相棒のコビーという男にやらせていた——と。血でよごれたテーブルをゴシゴシふいたり、アイスピックも丁寧にあらって、床のよごれも シミひとつ残さなかったと言っている。
病院にかけつけてきた 歳のちかい姉によって、妹のダリアは 一年前から失踪していたことが判明した。それだけでなく、認知面接によって、ジョーの身元も特定することができたのだ。
F B I は、すぐに彼れの自宅へ向かったのだが、中はもぬけのから状態で、となりの納屋からも、共犯者がいたという証拠は みつからなかった。
念のため、ジョーの写真をダリアに見せてみると、その拒絶的な反応からして、犯人の一人であることは間違いなさそうだ。じゃあ、彼れはどこに隠れているのか?
次に F B I が向かったのは、ダリアが “相棒” だと言っていたコビーという男の自宅だ。彼れの部屋のなかは、きれいに整理整頓がされており、強迫性障害の特徴もみうけられる。が、署に連行したコビーの出立ちといったら、服はしわしわだったし、靴ひもだって 粗雑に結ばれていたのだった。
コビーは強迫性障害じゃない。これが、F B I の見解である。彼れの証言によって、山小屋にひそんでいたジョーは 逮捕された。そこには、脚を撃たれて捕まっていた——ブロンドのキャビーもみつかった。それも、生きた状態で。
しかし、逮捕されたジョーという男は、かたくなに相棒のことを吐くことはなかった……。
犯人であるジョーも、相棒だと思っていたコビーも、強迫性障害の特徴はみられない。だが、ジョーの住んでいた自宅のようすや、アイスピックの刺し傷からして、まちがいなく共犯者がいるはず。
そこで、モーガンはもう一度、ダリアの入院してる病院をたずねて、認知面接——記憶の想起を助ける——をこころみようとする。彼女は目をつむり、うつろげな記憶をたどっていくのだが、とても、つらそうな表情でまゆを顰めている。たしかに共犯者は コビーだと言いながらも、彼女の手は、掛け布団のしわを伸ばしていた。
モーガンは、それを見逃さなかった。そこで、まだ目を閉じている ダリアに気づかれないよう、あえて、かけ布団を雑にめくってみたのだった。
目をひらいたダリアは、「凶器に使われたアイスピックは、箱にしまって、棚のなかに入っている」と言った。モーガンにめくられていた 掛け布団を、きれいに整えながら……。
一年後——。
ダリアは現在、“メイナード・グローヴ精神医療施設” に入院している。もしも、今日の面接でよい結果をだせば、退院できるかもしれないのだ。その大事な面接を担当しているのが——デレク・モーガン——彼れだった。
妹が退院できるかもしれないという期待を抱きつつ、お姉さんも二人のいる 個室の外で待っている。
どうやら、面会が終了したようだ。いい知らせを期待しているお姉さんに、モーガンは言った。
「ダリアを証言台に立たせられない」——と。
一年間という長い監禁生活にくわえ、ひどい暴力と拷問による精神の解離。そこにはもう、昔のダリアはいなかったのだ……。今でも彼女は信じている。自分を閉じこめて支配していた男——ジョーは、わたしの愛する恋人だと。その彼れの頼みなら、よろこんで人を殺してあげる——と。
証言台に立たせて 刑務所に行かせるくらいなら、精神病棟でしずかに暮らしていたほうが ダリアのため……。
ダリアは、別れぎわに訊いてきた。
「ジョーの相棒は捕まると思う?」
となりに付きそっていた姉は、得も言われぬ顔で、モーガンに一瞥の視線を向けた。すると、モーガンは 憐れみの表情を浮かべて「捜しつづけるよ」と言った。
「そう、がんばってね」と去っていくダリア。
彼女の肉体を救えども、精神までは救えなかったという、無念を胸に——
モーガンは、精神病棟を後にした……。
【感想】
ということで、いやぁ〜「承」が長いなぁと観ていましたが、最後のどんでん返しですよねぇ——。あの「承」があるからこその、得も言われぬ哀しみ。ほんと、なんと言ったらいいのか表現しがたいですよねぇ……。
なんか、じわじわと心が苦しくなると言いましょうか……
「あまりに激しい衝撃を受けた心は、錯乱の中に姿を隠す。苦痛に満ちた現実しか感じられないこともある。その苦しみから抜け出すには、現実を置き去りにするしかない」
ファンタジー作家 パトリック・ロスファス
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