【洋画】『デス・オブ・ミー』2020をノベライズで紹介!
◆どんなストーリー?
昨夜の出来事の記憶がいっさいなく、離島から帰れなくなった夫婦に幻覚や超自然的な現象が起こりはじめるようになる。
そのせいで夫がとつぜん姿を消してしまい、妻は夫を捜そうと、自分に謎のペンダントを渡した女性のところへ訪ねていく。
その過程で妻は、この島が何百年も台風から守られている恐ろしい秘密を知ってしまうストーリー。
◆主要人物
クリスティーン・オリヴァー……ニールの妻
ニール・オリヴァー……旅行記者
サマンサ……民宿の大家
ナティーダ……サマンサの娘
煌々と輝く美しい光りの輪をした暈が、みょうに凪いだ海の上にあがっている。なにかの前触れであるかのように。
そこには小さな無人島もちらほら点在していて、近くにはこんもりと熱帯雨林が大半を占めている大きな島がある。その島を俯瞰して見てみると、縄文時代をおもわせるような茅葺き屋根の家が、二列をなして縦長にならんでおり、生いしげった緑りに囲まれながら侘しく存在していた。
海に面しているところには観光客をねらった商店街も埠頭のちかくに立ち並んでいる。まるで、時代が一気に進んだかのようだ。わりと大きな島ではあるものの、住民の規模は三〇〇〇人にも満たしてはいないだろう。
ここでニュースが入ってきた——
『——この台風は数日にわたり、強い勢力を維持し、猛威を振るうことが予想されます——』
ニャ〜、と一匹の猫が鳴いた。すると、島の民宿で一夜を過ごした美しい夫人——クリスティーンがうつろうつろとベッドから起きだした。猫は開いていたテラス窓から出て行った。
ベッドの横のキャビネットに置かれた液晶テレビから、ニュースがつづく——
『——一二時間後の午後七時ごろに上陸が予想されますので、迅速に避難をしてください——』
装飾性の高いショーツと、白いブラトップ姿のクリスティーンは、まるで三大美女の一人——ネフェルティティのように艶美である。が、どこか彼女の様子が変だった。テラス窓のほうへすすんだ彼女は、反射した自分の身につけている首飾りに気づいた。
自分のものではない……そう思いながら、銅メダルのようなペンダントをつかんで見つめた。だんだんと不安がこみあげてきた。
「……ニール?」振りかえり、夫の名をよんだ。やけにゴチャゴチャと荒れている部屋のようすは後まわしにし、床で倒れこんでいるようにみえる夫のところへ歩いていく。「ニール、大丈夫?」
クリスティーンに叩き起こされ、ニールが目覚めた。
「部屋がひどい状態よ」
ネイビーのボトムに、白のタンクトップを履いている恰幅の良い白人のニールは、まだ意識が朦朧としている。
クリスティーンは荒らされた部屋にある時計に目がいった。「大変! 遅れるわ!」
二人とも、なぜか土の汚れが体についており、ニールの爪の中にも土が入っていた……そして二人とも、昨夜の記憶が思い出せなかった……。
すぐにシャワーを済ませ、荷物をまとめた夫婦はタクシーに乗った。フェリーに乗って帰国するためだ。
「これ何なの?」クリスティーンは自分の付けているペンダントを示した。
「わからない」隣りの席にすわっているニールが答えた。「僕たちの趣味じゃない」
五十代を超えていそうな運転手の男は、愛想もなく黙って林の多い道を走っている。チラッとルーム・ミラーで後ろの二人をいちべつすると、道を左にまがりはじめた。
「待って、道がちがう」麦わら帽子をかぶってるクリスティーンが言った。「船着き場はあっちよ」
ニールがスマホの翻訳アプリでタイ語をしらべ、妻の言葉をカタコトのタイ語で話した。
すると、運転手のすこし禿げた小男が、なにか言ってきた。
「……“祭りがある”とか言ってる」
「遠回りして、ぼったくる気ね」
また、ニールはカタコトで“道をもどってくれ”と言った。早く着けばチップを払うとつけくわえて。
すると、運転手は興奮したように怒りだした。ニールの英語に耳を貸そうとせず、彼れは勝手にタクシーを道の路側帯に停めだした。「降りろ! 今すぐ降りろ!」
話し合いにも応じてはくれず、お金を出してもつき返され、結局、二人はタクシーから追い出されてしまうのだった……。
訳もわからずタクシーを降ろされた夫婦は、しかたなく船着場まで走っていくしかなかった。お互いキャリー・バッグをガタガタ…ガタガタ…と引きずりながら。
すると、ようやく商店街などが見え、原付スクーターで走っている現地の住民たちも見かけるようになった。その頃には空一面を覆った雲が曙光をさえぎり、塩の香りのする海霧があたりに瀰漫していた。
二人は木造の歩道橋を渡っていき、三角屋根のついた船着場にたどりつく。デスクで受付をしているタイ人のふくよかな女性のまえでクリスティーンは荷物をひらき、パスポートを提示する……
「あれ、パスポートと財布がない……」焦るクリスティーン。
「ほんとうに?」とニール。
「入ってない」ショックを受けてる夫にいちべつをした。「電話もなくなってる」
後ろに並んでいる他の旅行者たちがざわつきだす。
「すみません。身分証がないと乗せられません」受付の女性が言った。
「そんな……」クリスティーンはどうにもならない現状にいきどおり、自分をうらんだ。
夫婦はいったん船着場のベンチ側に移動した。
「昨夜の記憶をたどろう」黒いドラム・バッグを肩にかけているニールが言った。「最後に覚えているのいつだ?」
「ディナーのお金を払って……財布をバッグに戻したきりよ」クリスティーンの心の中は動顚していた。「まさか部屋に忘れた?」自分の顔を両手でおおった。「私しったら、なんてバカなの……」
「大丈夫。何とかなるよ……」
すると、まだ船着場の屋根下にいる夫婦のまえに、さきほどの受付の女性が近づいてきた。
「悪いけど、もう出航の時間だわ」心苦しそうに。「次のフェリーは午後七時よ」
「……ダメだ、嵐が来る」真鍮色の短髪をしたニールがつぶやいた。
ふくよかな受付の女性は、離れた島のほうをいちべつした。「本土にね」
「巨大な台風だ。ここも無事では済まない」とニール。
クリスティーンも隣りでうなずいた。
すると、四十代以上にみえる受付の女性が、けわしい顔して妙なことを言ってくる。「この島に台風なんて二〇〇年以上、来てないわ」と。「もう一泊したら?」急に笑顔をみせた。彼女はデスクのほうへ踵をかえし、もどっていった。
一抹の不安をのこすも、ニールとクリスティーンは引き返すしかなかった……
「……おい、荷物はどこだ?」ニールが訊いた。自分たちのキャリー・バッグが消えていた。「!? 待て! 荷物が載ってる!」
「待って——!」クリスティーンがさけんだ。
旅行者と荷物を積んだ小型フェリーが島から離れていく。
「ねぇ、船に連絡して呼び戻せない?」受付の女性に慌ててクリスティーンが訊いた。「荷物が船の中にあるの」ジェスチャーもつかって。
「すみません」デスクに座っている受付の女性が応えた。「船に電話はないんです」
「……ウソでしょ……」
どんどん、どんどん離れていく小型フェリーの船尾を眺めながら、ニールとクリスティーンは、ただ呆然とそこに立ち尽くすことしかできなかった……。
……………………
——終わり。(ここまで約3000字)
◆着地点の不明なミステリー感覚が見どころ!
事件がすでに起きた後からはじまり、なにが起きたのかは目覚めた主人公たちにもわからない。取材でおとずれた離島の住民たちの妖しげな対応に、妖しげな催しごと……。
いったい何を祝っているのか?
妻の財布や携帯、パスポートまでも盗まれたあげく、着替えなどが入っているキャリー・バッグまでも失ってしまう……自国に帰りたくても帰れない……。
いったん、民宿にひきかえし、夫の撮影していたビデオ動画で昨夜の様子をかくにんする。
すると、ありえない光景が映っていた……。
その後、まったく説明のつかない不思議な現象・幻覚が、夫婦そろって現れるようになる。
島の人たちは、やけに親切・丁寧な扱いをしてくる。
この島の祀りごとと何か関係があるのか?
妻の姿に似せている張りぼてや、絵、人形……、それらはいったい何を意味するというのか?……
果たして、夫婦はこの奇妙な島から脱出することができるのか?……
このミステリーなサスペンスが最後まで私したちを釘付けにし、終わったあとに度しがたい怖ろしさを味わうことになるだろう。
とうことで、不思議系なホラーな映画でありました。
マギー・Qさんの鍛えた肉体美もチラッと披露しております!