【クリミナル・マインド 9】天使の失踪 – あらすじ
「“どんな小さな足跡も、世に後を残す”と言われる」
作中ドラマ
4800文字ほど。
【感情のトリガー↓】
【哀】咆哮の叫び
【疑】ブレーキ灯
【怒・謎】焦燥する者・二人の関係
【驚・憎】怒りの琴線・反旗の翻し
【安】天使の帰還
【哀】咆哮の叫び
絵柄の艶やかなワンピースにジャケットを着た三十代くらいの母親——ケイトは、まだ小さな五歳時くらいの娘を連れて、閑静な住宅街にやってくる。まさかの当選で、新しい恋人と旅行に行くことが決まり、一週間、娘のギャビーをあずかってもらうことにしたのだ。
落ち着いた家からギャビーを迎え入れてくれたのは、二十代後半くらいの——キリッとした目つきで細いスタイルの——スーおばさん。体たらくだった元夫とは違い、とても責任感があって、安心できるような風体である。
お互いに愛してるという言葉で、娘にしばしの別れを告げた母親——ケイトは行ってしまった——。
ケイトの愛児であるギャビーちゃんは、母親ゆずりの艶やかなブロンド・ヘアーで、それはもう、天使と表現されても否むべくもない、妙なる容貌をしており、長い前髪を左がわにしばってまとめた姿といったら、のどから手が出でしまうほどの無上の愛らしさを醸しだしていた。
五日後——。
夕方の終わりごろ、ママがいなくて寂しいギャビーちゃんはなかなか寝付くことができなかった。そんなときはドライブが気晴らしになり、いつの間にか寝付くことを知ってるスーおばさんは、一緒にコンビニへと出かけたのだった。
案の定、小さな妖精さんは眠りについてしまった。起こすのも悪いと思ったスーおばさんは、コンビニ周辺にあやしい人物がいないかを確かめた。今だと思った彼女は、急いで中に入り、必要な食べ物と飲みものをレジに置いた。とちゅう、娘には牛乳をあげてと言われていたことを思い出し、慌てて追加したけれども、まだ、ほんの数分だ。すぐに車にもどって、ギャビーちゃんと一緒に自宅へ…………
スーおばさんの手にしていた荷物は、床に落ちた。
けたたましい叫び声が、静寂な夜の空を裂けていた……。
【疑】ブレーキ灯
ミシシッピ州——ハッティズバーグで女児が失踪。
F B I が現地へたどりついた時点で、すでに五時間が過ぎてしまっている。統計上、ギャビーちゃんが生きた状態で助けられる残りの時間は、あと一八時間ほど……。
行動分析課が最初に疑ったのは、ケイトの元夫である ダグ であった。トラックの運転手をしており、今も移動中のはずなのだが、連絡しても応答がなく、追跡もできないといった状況である。その元夫のダグは、過去に薬物でトラブルを起こしていたのと、養育権を失ったという動機があるため、もっとも可能性の高い容疑者であった。
目撃者の証言では、黒っぽいバンが停められてあって、ブレーキ・ランプがついていたとのこと。そして、若いスーおばさんがコンビニから戻ってくるまでの間が、およそ四分であったことから、事前に観察されていた可能性が高く、誘拐犯は複数いたことが判明した。
その後、地元警察は道路から外れた砂利道に捨てられている、元夫のダグのトラックを発見する。現場から八キロ離れた場所にあり、監視カメラ映像では、三日前に駐めたあと、黒っぽいバンが迎えにきているところが映っていた。
これは、元夫と共犯者による誘拐なのか?
監視映像のおかげで、バンに乗っていた人物が特定する。
そして今、連行されたその男は、取調べ室のなかに……。
【怒・謎】焦燥する者・二人の関係
黒っぽいバンに乗っていた男——イアン・リトル、二五歳。
携帯の位置からあっけなく連行されたイアンの顔は、ひどく焼け爛れていた。真皮から皮下組織にまで達する熱傷を帯びており、化膿が残っている状態から病院に行っていないと推測された。
おそらく、やましい何かを隠している。
イアンの姿を見たギャビーの母親——ケイトは、元夫に薬を売っていた売人だったと証言した。
これは、父親のダグとイアンが計画した犯行なのか?
彼れは三日前に、ダグを車に乗せたことは認めているのだが、娘のギャビーは見ていないと言っている。ただ、腑に落ちないのは火傷をした理由だった。ガスコンロの栓を締め忘れて マッチを擦ってしまったと証言しているが、ガスによる爆発なら火傷も全体に広がっているはず。なのに、イアンの後ろの皮膚は無事だったのだ。
拘束されたイアンのいる取調べ室のなかに、険しい顔をしたホッチナーが入ってくる。ギャビーちゃんの生存率にも関わってくるため、一分一秒たりとも無駄にはできない。
その火傷はガソリンに火をつけたときに負ったもの。死体を焼こうとしたのか? 父親のダグが あやまってギャビーを殺してしまい、その処分を頼まれたのか?
イアンはしらを切って、弁護士を要求した。
翌日の未明、イアンが引きついだ農場の川から、袋にくるまれた遺体がみつかった。それは、もっとも容疑者として有力候補だった、父親のダグであった。死後七二時間である。
死体を燃やすのに失敗した彼れが、川に捨てていたのだ。すると、ロッシがあるものを持ってきた。高速道路の道に捨てられていた——当時、ギャビーが使っていた—— 毛布。
つのる怒りを抑えながら、ホッチナーはイアンに問い詰めた。が、弁護士をよこに、彼れは太々しい顔で “俺れが知るかよ” と言いかえす——その時だった——
突然、事務机が けたたましくせり上がり、置かれていた毛布がほんの数ミリ浮いた。そこには、ホッチナーの両手が張り付いていた。今までに見たこともない迫力だった。
その峻厳なる態度にイアンは臆くしている。
彼れは本当に知らなかったようだ——。
膠着状態となった F B I は、コンビニの監視映像をチェックした。すると、ギャビーちゃんを乗せていたスーおばさんがちゃんと映っているのだが、どうにも解せない点が見つかった。なぜか、コンビニの明るい正面をさけて駐車しており、入り口まえまで来てから、すぐに引き返すところを捉えていたのだ。
小さなお子さんを連れている女性のとる行動とは考えられない。そう思った F B I は、イアンとの関連性を調べることにした。
すると、やはり二人はつながっていた。
スーは、なんどもイアンと連絡をとっていたのだった。
【驚・憎】怒りの琴線・反旗の翻し
供述書を書いてほしいという口実で、スーおばさんを取調べ室によんだロッシとアレックス。
スーおばさんは、イアンとつき合っている仲だと言っている。握っていたペンの手のひらに、痛々しい切り傷をかくしながら。
そこでホッチナーは、ダグを殺してないと証言するイアンに、それを証明しろと申しでた。そうすれば、殺人よりも罪のかるい事後共犯に変えてやると加えて。
すると、父親のダグを殺したのは彼女のほう——スーだと彼れは言った。強引にギャビーを連れて行こうとしたダグの頭をガラスの燭台でなぐり、手のひらの傷はそのときにできたものだと。そして、その凶器は今も引き出しの中に入っているはずだ、と。
イアンの証言は正しかった。
ギャビーちゃんの誘拐は スーおばさんの自作自演。
ホッチナーは、スーおばさんに厳しい罵詈雑言あびせた。
おまえは子守りをしくじった! これは、すべておまえの責任だ! おまえは母親の務めも知らない役立たずだ!
それを間近で言われたスーおばさんの顔が激変する。その面には怒りをとおり越した憎しみ、いや、殺意に満ちているといえよう。ぎゅぅーっと握りしめた拳を、ホッチナーの顔面をめがけて殴りだしたのだっ!
飛びかかって “殺してやるー!” と言っていたスーは、すぐに隣りのロッシに押さえられた。が、それでも罵り、激しく暴れだす。待機していた警察たちの手を借りるほど。
どうやら、黒 とでた。
先天的な犯罪傾向のある人が持つ特性。それは、怒りのコントロールである。あえて悪態をつくことで、その反応をみていたのだった——。
スーという女性は、怒りを抱えた サ デ ィ ス ト であった。その怒りの正体をさぐるため、あばれられないよう拘束した彼女のまえに、従姉妹である年上のケイトをおくりこむ。
自分の本性がばれてしまったスーは、開きなおり、ケイトへの憎悪をぶつけだす。彼女は八歳のときに両親を失くしており、ケイトの家族に引きとられていたのだが、そこには闇がひそんでいた。スーはケイトの父親に、いたずらをされていたのだ。ケイトの知らないところで……。
なんで自分だけ……。
やがて、その怨みは膨らみ、スーは決断する。
ケイトの一番大切なものを奪ってやろう——
ちょうど良いのがいるじゃない。
娘のギャビーが。
私しの気持ちを思い知らせてやる。
あ〜、はやく絶望する顔が見たいなぁ。
尊敬する父の淫行を知って唖然するケイトをまえに、スーは自分のおなかを摩ってみせた。
夏には生まれるんだぁ——と言って……。
【安】天使の帰還
F B I は考えた。
スーのようなタイプなら、ケイトを一生苦しめようとするはず。母親にとっていちばん辛いのは、娘の安否がわからないことだ。じゃあ、どうする? 殺せば死体が発見されてしまうぞ。死体を出さずにどうやって娘を隠す??
ガルシアは突き止めた。
スーは、ネットで知り合った人物に譲っていたことを。
娘のギャビーは闇市場で売られてしまったのだ。
通称リホーミング。問題児に手をやいた里親が、それを引きとるという他者に、横ながしをする新しい手口。そのため、法規制がととのってないことから、子どもたちは闇に消え、悪質な小児性愛者や虐待者などの手にわたるのだ。
ギャビーちゃんが引きとられたところは、育児放棄で子どもを一人死なせてしまっている——ビッグマムのような女と、幼児に性的いたずらをしていた疑惑のある——元性犯罪者の男がいるところ。
令状をとった F B I は、ただちにガサ入れをかけて、彼れらを逮捕した。その奥のとびらの部屋には、五歳児以下の小さな子どもたちがいた。床にすわりこんでテレビを見させられている子どもたちの中には、あのギャビーちゃんもいる。
娘のギャビーは無事だった。
ハッティズバーグの署内では、母親のケイトと恋人のロドニーが不安そうに待っている。
それはすぐに届いた。どんな音よりもすぐに。
ママ——! と、てくてく駆けよる娘の声。
ケイトとギャビーは抱きついた。
会いたかったよー、と自分が危険な状態だったことに気づくことなく、天真爛漫な笑顔で言ってくるギャビー。
天使の瞳は、希望に満ちていたのだった——。
【感想】
ということで、なんでしょう……とにかくギャビーちゃんが可愛いすぎる! これまでにも小さな子どもたちが出演しておりますが、みんな、べらぼうに可愛すぎるんですよねぇ。
海外の——とくに西洋よりの子どもはやばい! もう、外に出るときはハーネスが必須ですね。ありゃぁ、普通の人でも ハイエナ になってしまいますわ——いや、ならないですけど、それぐらい庇護欲をかりたてられるといいましょうか、愛しい気持ちにさせられます。
「母親の腕は優しさでできている。
子供達が、ぐっすりと眠れるように」
小説家 ヴィクトル・ユーゴー