【クリミナル・マインド】受刑者逃走
年齢は三、四十代くらい受刑者が突然の発作を引き起こす!
相手は殺人を犯している凶悪犯ということもあり、万が一に備えて二名の刑務官と、二人の医療スタッフが受刑者を押さえつけながら医者に診てもらっていた。
「落ち着いて! さ、横になりなさい。じっとして! ——押さえてくれ」
まるで、何かに取り憑かれてるかのように受刑者の手足が震え出し、力も強いためにとても高齢の医者一人では抑えられない。なんとか数名の助けを借りて、医療用担架に付いてるヘッドイモビライザーに受刑者の頭を固定する。そして、逃走を防ぐために、刑務官は担架と受刑者を手錠で繋ぎ留める。
ガタガタ、ガタガタと小刻みに震えながら、受刑者を乗せている担架は刑務所の中を通っていき、暗い外で待機してる救急車のところにたどり着く。
すると、三十代くらいの救命士が、運んできた刑務官に「てんかん患者?」と尋ねた。
「何も聞いてない」
刑務官がそう答えると、受刑者の男は構わず車両の中に運ばれる。
救急車は遠くからでも音が伝わるサイレンを鳴らし、有刺鉄線のある分厚いフェンスを越えて行った。
しばらく山道の峠道を走っていると、受刑者の発作が落ち着いてくる。彼れは点滴に繋がれ、仰向け状態で眠りについていた。
受刑者のすぐ近くで見守っているのは、刑務官一人と救命士一人。あとのもう一人は救急車を運転している。
「なんの発作だ?」
四十代くらいのメタボ体型、白髪頭で、社会に対しての不満やストレスもメタボっていそうな刑務官が、偉そうに聞いてくる。
「アレルギー反応だ」
聴診器を外して、救命士が普通に答えた。
偉そうな刑務官は受刑者を疑っていた。
「どうせ、自分でやったんだろ」
「自殺の常習?」
「他殺の常習。命が軽いのは同じ。——なんで、あんたらを呼んだんだか。こんなクズ助けて、なんの意味がある? 隙あらば、人殺そーってやつなのに」
前屈みになっていた刑務官は、壁にもたれながら言った。
「俺れは仕事するだけ」
誠実そうな救命士は、点滴をいじりながら中立な立場を守ろうとする。
「定員オーバーしてるし、税金の無駄だろ」
この刑務官は、犯罪者に対しての偏見を強く持っており、受刑者を生かす価値はないと思い込んでいるようだ。
そんな時、狭い車線を走っている目の前に、突然、シカが飛び出してくるッ!
急ブレーキ————ッ!!
——ダメだ、間に合わない!
ハンドルを大きく切った!
すると、そこはガードレールのない酷道だった。救急車は車ごと、傾斜の強い山下へと落ちてしまう——。
辺りは砂塵で霧のように視界がボヤけ、フロントガラスを貫通した大木は、運転手の男の胸に突き刺さっていた。すでに息はしていない。即死。
後ろの方に乗っていた救命士も頭を強打してしまっているため、身じろぎもせずに倒れている。刑務官も近くで倒れており、二人とも意識を失っていた。
いっぽう、頭と体を固定されている受刑者の方は、怪我一つ負うことなく眠っている。すると、彼れの目が開く。
——!?
——どうなってんだ?
受刑者は腕の力で担架の鉄パイプを外し、そこから手錠の輪を外す。これで、両手が自由になる。その次に、ヘッドイモビライザーを外して頭も自由にする。頭を起こし、何が起きたのか状況を理解しようとした。
——刑務官と救命士が倒れている。
——なぜか、俺れだけ無事。
——事故でも起きたのか?
自分のすぐ隣りで倒れている刑務官の腰には拳銃が所持されていた。受刑者はすぐにその銃を奪い取る。その次に手錠の鍵を奪い取って拘束を解こうとする。
すると、刑務官が意識を取り戻し始めた。
受刑者は急いで手錠を外し、拳銃を刑務官に向けながら後退りする。
完全に状況を理解した刑務官は、一気に青ざめた! 気がつくと、自分の拳銃を自分に向けられているのだから。それも、相手は凶悪な殺人犯。
オレンジ色の囚人服を着た受刑者は、こちらの出方を伺っている感じで、拳銃を向けながじっと黙って見つめている。
「おい、早まるな! 銃を下ろせ」
下手に刺激しないように言葉を選び、なんとかこの状況を打開したいとこ。
受刑者が銃を向けながら立ち上がる。
「バカな真似はやめておけ。そんなことしたら、二度とあの穴倉から出られないぞ」
話しが通じているのかいないのかが、いっさいわからない。この受刑者はずっと口を閉じたまま、刑務官を見下ろしているだけで、全く行動が読めない。
「とにかく、銃を、下ろすんだ」
刑務官はジェスチャーも交えて、説得しようと試みる。
すると、言葉が理解できたのか、受刑者は素直に拳銃を棚に置き始めたではないか。
しかし、ずっとこちらを無表情で見下ろしている。
——いったい、何を考えてるんだ?
なんと、今度は、受刑者が手を差し伸べて来た。
——全く、予測ができない。
——こいつにも慈悲の心があるというのか?
——とりあえず、信じてみるしかない。
刑務官はその手を取り、体を起こしてもらった。
相変わらず、無表情でこちらを見つめてくる。
不気味だ。
「……ようし、それでいい」
——あそこに拳銃がある。
——それで、こいつを制圧しよう。
刑務官は拳銃を取り戻そうと腕を伸ばした瞬間、不気味な受刑者にその腕をバキッと折られてしまい、逆に制圧されてしまう!
倒れ込んだ音に反応したのか、一瞬、受刑者は左手をおでこにやり、落ち着くと、怯んだ刑務官のノドに、腕を力強く押し当てた。
「うおぇ……ぇ…………ッ!!」
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