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【クリミナル・マインド 9】獣たちの祝宴 – あらすじ
「真実と正義においては、問題の大小はない。
人の扱いについては、すべて重要だ
アルバート・アインシュタイン
10,000文字ほど。
【感情のトリガー↓】
第一章:【悲・謎】
第二章:【ー】
第三章:【解】
第四章:【憎】
最終章:【安】
第一章:ブタマスク
⑴ 仕事か恋人
寝起きのモーガンが、リビングのほうへとやってくる。まだ、明け方の未明で、カーテンの開いていない その部屋には、ブラケット・ライトと スタンド・ライトのあたたかい灯りがついていた。なので、その壁に飾られている陶板画たちや、観賞用の植物、そして、救命病棟のドクターとして働いている彼女の姿までとらえることができるのだ。まるで、ビヨンセのような風体をしており、完璧といっても否めない美女——サヴァンナは今、仕事にでかける準備をしている。そこにこっそりと、黒いワイシャツが肌けているモーガンが——にこにこと微笑えみながら——近づいているとも知らずに——。
「——ぁは!」
美しい花のような甘いかおりのする彼女に、モーガンが抱きついた。その瞬間、サヴァンナのセンサーが良好にちかいような声がもれたようだ。うしろから優しく抱きしめられている彼れの手を さらに抱きしめ、きめ細やかな肌をした頬を 彼れの顔に密着させた。
「おはよう」甘い声でモーガンが言った。
「はぁーい♪」それに応えるサヴァンナ。「ゆうべのディナー、最高だった♪」
「デザートはもっと……」彼女の耳元でささやいた。
「ん……眠れたぁ?」キスの合間にたずねた。
「ん……ぐっすりと」今度は彼女の頭にキスをした。
「だと思った……おおいびきだったから」
「おーい、ちょいちょい」手を離したモーガンが言った。「オレ、いびきかかねぇぞ」
きょとんとした顔でモーガンを見つめたあと、サヴァンナは両腕をつかって彼れを抱きしめた。「だったら、ベッドの下に大きなクマがいたのねぇ♪」やさしいキスで、彼れの機嫌をなおしてあげた。
《ピロリン……♫》
「ん——たく、なんだよぉ」仕事の連絡を知らせる着信音に、いらつくモーガン。いやいやながら、トコトコと携帯をチェックしに歩いていった。
「事件——発生!?」
「……」モーガンは、無言でうなずいた。
その瞬間、あの美しいヴィーナスの笑顔がなくなった。
「どこ?」
「……メンフィス(テネシー州の)」申し訳なさそうな面持ちで、モーガンは言った。
サヴァンナは、なにも言わなかった。仕事の支度にとりかかるその顔には、みえない涙がこぼれていた。
「……サヴァンナ?」感情を抑えている様子は、モーガンにも理解ができた。
「あぁー、いいのよぉ」強がるサヴァンナ。
「話しあったよなぁ?」両手をかるく広げた。
「そうね」黙々と準備を進めることで、感情を抑えようとつとめている。
すると、モーガンが近づいた。「待てよ」彼女を手をつかむ。「ちょっと、こっちきて」ソファへとひっぱった。「座ろう」いっしょにすわり、そっぽ向いてる彼女の顔を こちらに向かせた。「……どうしてほしい?」
「もう、三度目よ」サヴァンナは、冷えた声で言った。
「だよなぁ……四度目、五度目もあるかもしれねぇ」モーガンは続けた。「事件が起きる日は決められないから……」
「……」サヴァンナは視線をおとし、すこし頷いた。
「ご両親に会いたくないわけじゃない……これが仕事なんだ」
「わかってるわよ……ただ、わたしも親も楽しみにしてたから!……少しくらい、ふてくされてもいいんじゃない?」言下にサヴァンナは言った。
こんなことが、この先もおとずれる……そして、お互いに嫌気がさして……別れてしまうんだ……。「オレじゃだめか……」ボソッと、遠くをみてたモーガンがつぶやいた。
「はぁ?」悲しそうだった彼女の目が、ボッと燃えた。
「飛びまわってばかりで、そばにいられないなんて……彼氏、失格だろう」悲しげにモーガン。
「待ってよ——もしかして、わたしに——あなたを振らせようとしてる?」強めの口調でたずねるサヴァンナ。
「……おまえがそう望むなら……」まっすぐな目で言った。
「のぞんでないから!……別れたいと思ってたら、わたし、自分から切りだすし!」サヴァンナはつづける。「あなたがダメだと思うなら、はっきり言って!——わたしに言わせるのは、卑怯だわ!」
「そんな——」
「人間関係って、自然には出来あがらない……築きあげるの! その努力をしたくないなら、私しじゃなくて、あなたの問題!」
「サヴァンナ——」
「はやく行ったら!」
「……」
「ほら、さっさと着替えて」サヴァンナは、ソファから立ち上がった。「事件なんでしょ?」
「……」
「行きなさい」冷たくあしらうように、サヴァンナは言った。
モーガンは、なにも言いかえせなかった。理解をしてくれない彼女に問題があるのか……それとも、サヴァンナの言うとおり、関係を築こうとする努力の足りない、自分のほうに問題があるのか……。これ以上、なにを言っても火に油をそそぐだけだ。
黙って彼女の家を後にしたモーガン……。
見えない涙をこぼしていたのは——
彼れもいっしょだった……。
————————。
⑵ 免れた学生
時刻は〇時を過ぎてしまっている深夜、まるで男の子みたいに冒険を好みそうな——アクティブな二人の女性たちが、駐車場にもどってくる。すぐそこの、二四時間営業をしているスーパーを後にしてきた二人は、ともに二十代前半くらいで、親友同士。
ブルネットのほうが、『ダーク・エンジェル』のヒロインを演じていた “ジェシカ・アルバ” にすこし似ている——クリスティン 。そして、アフロのように髪みの広がっているほうが、『ロック・アップ/スペイン……』に登場するキャラ “エステファニラ” にすこし似ている——デビー 。
「“ダニエル” って、ほんと めんどくさい」黒いタンクトップに、ピンクのパーカーを着た——ジェシカ風の——クリスティが、電話を切ったあとに言った。
「じゃあ——別れたらー?」色ちがいの紫のパーカーを着た——エステファニラ風の——デビーが、外に置いてあるカート列に戻したあと、その買い物袋をとりだして言った。
「だけど……」とクリスティ。「カッコいいんだもぉーん」さらに、惚気づいて言った。「それに、すごいし—— 舌技 が♪」
「やめてよー」荷物を助手席のほうまで運び、まゆを顰めるデビー。「そんな情報、いらない」
ふたりは笑いながら、車に乗った。——《ブルル……ブォーン》と、クリスティは エンジンをかけた。そして、バックして駐車場を出ようとした——
その時——
まるでピタリを張りつくように、彼女たちの後ろを ほかの車が止まったではないか。二人の車は、前向きで駐車しているために、バックでしか出られないのだが、その車は動こうともしない——しかも、ヘッドライトの強さを ハイ・ビーム にしている。いったい、どんなヤツが乗っているかなんて 見えやしない。
「……そんなとこ寄せる!?」ルーム・ミラーをにらみながら、クリスティが言った。
「しんじらんない……」後ろをのぞいた デビー。「こっちは、明日の朝七時に、テストだっていうのに……」
《プ——————ッ!!!!》
柳眉を逆だてながら、クリスティはクラクションを鳴らした。が、うしろの車は じっとしている。すると、よりアフロ感が増したようなデビーが、降りようとする。
「なにすんのー?」不安げにクリスティがたずねた。
「どういうつもりなのか、見てくる」クリスティは、降りていった——。
「ちょっとー! なんなんですかー!」
《——ガサッ——》
開いていた窓から、デビーの声が聞こえなくなった。
「デビー!?」心配になったクリスティも車から降りた。「デビー?!」光りを遮ろうと腕を上げながら、大きな声で言った。が、返事がない。しかたなく、うしろの車のほへと歩いて……
「——は!?」クリスティは駆けよった!「ウソでしょ?」
デビーは、たおれて 意識を失っていた……。
「誰れか来てえぇ——!!」デビーをさすりながら、クリスティは叫んだ。すると——「!?」自分の背後に、気配を感じた……
そう——なにか……全身が黒いなにか……
クリスティの首になにかが当たった!
それは、小さくも——強力な——
—— ス タ ン ガ ン ——
クリスティも今——気絶した……。
————————。
————————。
視界がぼんやりと明けてくる……だんだん……うっすらと……黒いフードをかぶった人物が……あれ!?……クリスティ?……クリスティがトランクの中に入れられた……ダメ……からだが動かない……
地面に倒れているデビーの意識が、起きた。しかし、動かすことができるのは、麻痺を避けていた頭だけ——彼女は おぼろげな声で「クリスティ」と名前えを呼んだ。すると、トランクを閉めた——黒いフードをかぶった——謎の人物が近づいてきた!——その正体があらわになってくる……ん!?……その顔は……人ではない……そう……あれだ——
ブ タ の マ ス ク だ ……。
「誰れかあ——!」デビーは叫んんだ!
すると、ブタのお面をかぶった謎の人物は、「シー」というように 人差しゆびを豚鼻に当てた。そして、恐怖で竦まっているデビーを そのまま残して、謎の人物は去って行った——
ク リ ス テ ィ を乗せて……。
————————。
第三章:犯人の怒り
テネシー州——メンフィスという街ちで、拉致事件が発生!
この四十八時間で、
❶男(五九)マイケル。平凡な顔。
❷男(二三)トレヴァー。若いマースデン風。
❸女(二一)クリスティ。ジェシカ・アルバ風。
以上の三名が、深夜の駐車場から拉致されていた。——そう、昨夜、連れさられてしまったクリスティは、三人目の被害者。そして、モーガンとサヴァンナの関係に、亀裂を入れてしまった事件でもあったのだ。
しかし、犯人に襲われていた被害者のうち、さいわいにも拉致を免れていた人物がいた。ふわふわのアフロがとてもキュートで、さらわれたクリスティの親友でもある——デビーという女の子。なんと、二人を拉致する余裕があったのにもかかわらず、彼女には興味がないといった感じで、走りさってしまったというのだ。
その彼女の証言によると、犯人はブタのマスクをかぶり、スタンガンを凶器に使っていたとのことだった——。
平凡な顔をした爺さん、マースデンのように濃い顔をした男の子、尻りの軽そうなジェシカ風のクリスティ。彼れらの両手には、手錠がかけられており、それをグイッと持ち上げて、天井に吊るされた鎖りに繋がれている。彼れらの口元は、グレーのガム・テープで塞がれていて、ほぼ、均等な間隔でよこに並べられていた。そこは、暗〜く、コンクリートの壁で覆われた地下室……。
《ギ…ギ…ギ…ギ……》
なにか、鉄製のぼうを引きずりながら、彼れらのもとに近づいてきた。
《カーン……カーン!》
それをわざと床に叩きつけ、恐怖を煽っている。
ああ、だんだんと見えてくる……
その前身を覆っている黒いコートと 黒いフード……
そして……
……………………。
ブ タ の マ ス ク ……。
覆面をした人物は、若い男のほうに近づき、持っていた棒の——分厚いほうを彼れの腹に向けて突いてきた! そいつは、目を大きくして悶えているトレヴァーのズボンを下ろし、萎えた親指を露出させた。今度は、持っていた棒を逆向きにしたと思ったら、その先の細くとがった棒を、彼れの——その臭いくさい汚物がでてくるところを目指して刺したのだ! 彼れの両どなりに吊るされている爺さんもクリスティも、目なんて開けてはいられなかった。
だが、トレヴァーは、まだ生きていた。
ブタのマスクをしてる人物は、テープをはがして 彼れの口を開放させた。
「……すべて話しました……本当にごめんなさい……お願いです、どうか許してください……」苦しそうにトレヴァーは言った。
すると、マスクをした人物は、水の入ったポリタンクを持ってきた。
「水……もう、喉がカラカラだ……飲ましてくれ……」
トレヴァーは真上を向かされると、自分から大きな口をあけた。そして、それよりも高い位置から水が与えられた……
「!?——ゔぉ……ゔぉ……ゔぉ……」
なぜか、彼れの口からジリジリと煙がでているではないか!
みるみるうちに、その皮膚は焼け爛れていく——
飲み込んでしまった喉の粘膜を、いちじるしく破壊していく——
その液体は……
……………………
塩酸だった……。
————————。
拉致されていた被害者が一名発見された!
それは、トレヴァー(二三歳)。森に捨てられていたところを、明朝、ふたりの狩猟者がみつけたらしい。
なんと、彼れは生きていた。その醜くなってしまった顔は、二度ともどることはないのだが、殺されてはいなかったのだ。
ガルシアの情報によって、一年前のあるパーティーが関わっているのではないかと、 F B I は推測した。
それは、トレヴァーが主催していたフラタニティ——アメリカの大学では一般的なグループの集まり——で、マスクをかぶったブタ・パーティーが開かれていたのだ。五九歳のじいさんは、そのパーティーを後援していたというのと、同じく一年前、クリスティもそのパーティーに参加していたことが判明した。
ここで、やっと事件のカギが見えてくる。
ある一人の少女——ローリンという一九歳の大学生。彼女は、クリスティといっしょに、そのパーティーへ参加していたことが目撃されている。そして、その彼女はついさっき、命を終えていたのだ。
原因は——低体温と、高濃度のアルコール……。そのきっかけも、去年のブタ・パーティーであった。ずっと、昏睡状態を保ちながら、延命装置につながれていたのだが、とうとう、その医療費が払えなくなり、やむなく中止にサインをした姉——シーラ。歳のはなれた彼女は、亡くなった親の代わりとして、妹のローリンを娘のように育てていたのだ。
これはおそらく、妹のための復讐……。
F B I は、至急、姉のシーラの家に向かった——。
————————。
第四章:地下室の戯
地下室にこもり、ブタのマスクを外した人物が デスクにすわって動画を見ている。その容姿は、まるで『S・A・T・C』シャーロット役——クリスティンを彷彿させるような赤毛の女性。
名前えは “シーラ” ——妹のローリン(二〇)がとうとう逝ってしまい、ゆいつの家族を失ってしまった悲劇の女性……。
『ほんとに来ちゃったー!』携帯にうつるローリン——すこし子どもっぽくした “ダレノガレ・明美” ふうの少女が、はしゃぎながら言った。『夢がかなったねー!』
場所は有名な観光地——『 H O L L Y W O O D 』のサインがみえるハリウッド・パーク。姉と妹は、自撮り棒をつかって撮影している。
『ホー! 来たぜー、ハリウッドー!』姉のシーラも、ローリンといっしょに並びながら言った。愛しい妹の頬に いつくしみのキスをしながら。
『わたしたちってキレーイ?』カメラ・レンズに近づいて言ったローリン。
『さー、お次は——』妹をみやったシーラ。『ビーチよ!』
『バッチリ焼かなきゃー!』
天使のような美々しい笑顔をくずなさい二人。
そして、人生で一番、輝いていた瞬間でもあった……。
シーラは次に、去年の留守電を再生した。
その声の主は、かなり泥酔しきった様子で、かんぜんに呂律がまわっていなかった——
『……ご……めん……なさい……ごめん……なさい……』
……………………
それが、妹の残した、最後の声だった……。
————————。
————————。
立派な垣根がかこんでいる——そのなかに入っていくと、ガーデンニングが植えられており、まるで庭園のような趣きさが感じられる。敷地内にある中央のストーン・タイルをたどっていくと、邸宅ともいえるその玄関があり、ふたりの女の子が、心を踊らせながら訪ねていった。
《コンコンコンコン!》
すでにそこの邸宅から喧騒だっているのが感じてとれたが、扉がひらくと、そのやかましさは灼熱の域に達していた。みんな、お酒を飲みながらワイワイしているのだ。
「ようこそ、姫たち!」頬にドロをぬりつけてるトレヴァーが、出むかえて言った。「お名前えは?」
「あたしは、クリスティー」ファー・カーディガンをこれみよがしに見せつけ、連れそいを紹介した。「この子は、ローリン」
「どこに欲しい?」トレヴァーのとなりにいる、受付けの黒人の男子が言った。すると、トレヴァーが笑いながら、彼れの胸をどついた。
「……ほっぺた」少しはにかみながら、小さめのジーンズ・ジャケットを着たローリンが言った。
からだの見える場所にドロをぬる。これが、ここのパーティーに参加するルールだった——。
好奇心がかなり旺盛なクリスティは、すでに D J の男の子といい感じになっていた——いっぽう、彼女よりも一つ学年下のローリンは、まだ、男慣れしていないようだ。ずっと、もじもじしているだけで、トレヴァーにつけいる隙を与えてしまっている。すると、彼れはローリンから少しはなれて、ブタのマスクをかぶっている二人に、合図をおくった。また、トレヴァーは、ローリンのいるとこへ戻ると、ふたりは手をつないで歩き出す。
「オレ、ここの会長だから、特別に案内してあげるよ」トレヴァーは地下室のほうを歩きながら言った。「そこなら落ち着いてるし、ビリヤードだってできるから」
トレヴァーは、ハンサムでエリートな家庭の生まれ。そんな、彼れの甘いマスクに、ローリンはついていってしまったのだ。
大学に入って初めてのパーティー……
そして、これが最後のパーティー……。
「イヤアァァァァ——ッ!!」必死に暴れるローリン。「ヤメテェェ! 離してえ! ヤダぁー!」
「トレヴァー、こいつの腕を」ブタのマスクをかぶった男が言った。「暴れんなよ!」
ビリヤード台の上に置かれたローリンは、泣き叫んでいた。その口元にテープをはられ、誰れにも届かない声をあげながら……。
終わったあと、ブタのマスクをかぶっていた男は、それを脱いでいた。彼れは、アダムという上級生の生徒で、アメフトのクォーターでもある。そのため、このくらいの不祥事は、スポンサーであるマイケル(五九)という爺さんが、上手く処理してくれる。いつも、そうしてくれたように。
「これを全部、飲んだら帰してやる」ショートヘアのザック・エフロン風のアダムが、ウォッカの瓶をつきだした。
すると、トレヴァーが廃人と化したローリンの顔をうえに、その緩んだ口へと、ロート越しから注ぎだしたのだ。
「ゔぉ……ゔぉ……ゔぉ……」
————————。
————————。
「それからどうしたの?」鬼の形相でシーラは訊いた。
「……よい潰れるのを待って……家に送った」トレヴァーの吊るされていた位置に吊るされている、アダムが言った。
「親切そうに言ってんじゃねぇよ、このクソヤロー!」とシーラ。「妹は、うちの前から電話してきた——」歩きまわりながら続ける。「ろれつがまわってなくて、よく聞き取れなかったけど……ひたすら謝る言葉と……あんたらの名前え——」ヤリのような棒をアダムに向けた。「だから、アンタが殺したってわかったの——」次は、マイケルの方に近づいた。「それを隠したことも……あんたたちを苦しめたかったんだけど、それだけじゃ、もう意味がない」シーラはマイケルの首をつかみ、その尖ったヤリを——
「ん…ん……ん……!?」
……………………
《グサっ!!》
————————。
最終章:歯がゆい病
ローリンの姉のシーラは許せなかった。
フラタニティ・パーティーへいっしょに参加しておきながら、妹を放っておいて、見舞いにも電話一本もよこさなかったクリスティが……。シーラにとっては、彼女も同罪だったのだ。
次は、クリスティも殺そうとしていた シーラだが、そこに F B I が駆かけつけてきた。彼女は、観念して 逮捕されたのだった——。
ローリンを死に至らしめたアダム、トレヴァー、そして、マイケルの頼みで 診断書を偽造していた医師も逮捕された。
これで事件は解決。
だが、モーガンのしこりはまだ残っていた——。
————————。
シートに深くすわって 難しい本によみ耽っているドクター・リード。事件のレポートに、目をとおしているアーロン・ホッチナー。熟睡中のデヴィッド・ロッシと アレックス・ブレイク。そして、何度もメールのチェックをしているデレク・モーガンに、その対面席にすわったジェニファー・ジャロウ。
行動分析課のメンバーは、ヴァージニアへと戻っていた。
「大丈夫?」ジェイジェイは、出勤した時から気になっていた。モーガンの顔に——元気がないことに。
「……ああ」モーガンは珍しく、ヘッドホンを外していた。
「心配ごとでも、あるみたいだけど」見透したような瞳で、ジェイジェイは言った。「人? 場所?」
モーガンは少し、間を置いて言った。「フ……ひと」
「お〜——もう、“わかってくれない病” ?」たしなめようとするジェイジェイ。
「なんだって?」怪訝なモーガン。「何——病?」
「“わかってくれない病” 」ジェイジェイは、モーガンっぽく真似て言った。「“彼女がわかってくんねぇ”——“オレらの仕事、すんげぇ忙しいのによぉ”——”ベイビー、どんだけキツいか、わかってくんねぇんだぜぃ”」
「そんな言い方しねぇよ」かるい呆れ顔で言ったモーガン。
「まあ——とにかく、いつもなら半年くらいでこの症状がでて、別ればなしを切りだすか——向こうに振らせる」ジェイジェイは確信を突いた。「 “ 悪 者 ” になりたくないから」
「容赦なく、ぶったぎってくれんねー」
「単純なはなしよ」コーヒーを一口すすり、続けるジェイジェイ。「パートナーが欲しいか、いらないか」
「……」
「もし、いらないなら、一生ひとりで良いって覚悟——決めなきゃ」ジェイジェイは、またコーヒーをすすった。
「……ウィル(ジェイジェイの夫)とは、どうやってる?」
「たいへんよ……努力はいる。でも、努力しないことには、始まらない」
「……でー、努力する価値はあるって?」真っすぐな目をして、モーガンはたずねた。
「きつい仕事をしてるのは、私たちだけじゃない。……よく考えて」またしても、確信を突いてくるジェイジェイ。「ほんとは、なにが怖いの?」
「……」モーガンは、ジェイジェイから目をそらした。「プロファイラーになる前のほうが好きだった」そして、視線を戻した。
「ウッソダァ」ジェイジェイはニコッとした。
つられて、モーガンもフン…と鼻で笑った。その目をみるかぎり、どうやら心のシコリはなくなったようだ——。
————————。
サヴァンナの自宅に着いたころには、もう、暗い夕方になっていた。モーガンは、ゆっくりドアに近づき、ノックを——
と思ったら、ドアが開いた!
「は!?」これから出かけようとしていたサヴァンナが、おどろいた。
「よう」声を小さく、モーガンは言った。
「はぁーい」
「あのさ……」開いたドアに片手を当てたモーガン。「このあいだは、その……」
「デレク、あたし……」自分の態度を憾んでいたサヴァンナ。「無理をいうつもりはないの」
「サヴァンナ」言下にモーガン。「オレはぁ……どんなことをしても、おまえと……一緒にいたい」
「……」サヴァンナは、安堵の顔をにじませた。
「本気で惚れてんだぁ」
サヴァンナは、黙って抱きついた。そして、「愛している」という言葉をキスであらわした。
「わたしもよ」
ホッとしたモーガン。「よかったぁ」小さくつぶやいた。「……それで……ご両親は?」
「うふ」
「まだ、来てないの?」
「実は……これから、空港へ迎えにいくところ」
「運転するよ」
「ん……それは、無理」ドアを閉めたサヴァンナ。
「なんでだよぉ?」
「だって、安心できないもん」鍵をしめて、サヴァンナは言った。「あなたの運転じゃ」
「そういうこと言うんだ」ふてくされるモーガン。
「そうよ」うしろを振りかえって、サヴァンナは言った。「慣れてね♪」
ふたりは、肩を抱きよせあいながら、歩いていった。
ふたりでしか見つけられない——
人生の意味を探しに——。
————————。
————————。
————————。
【感想】
いやぁ、なんとか危機をまぬがれましけど……
これも、なかなか答えがわからない課題ですよぇ。
仕事に集中すれば、パートナーのほうが疎かになってしまいますし、だからと言って、パートナーばかりに気を取られていては、仕事のほうで みんなに迷惑をかけてしまうという……。
付き合って半年くらいで、この壁べにぶつかるみたいなので、みなさまもご注意を(汗
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