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【クリミナル・マインド 9】隠れた個性【綻】
ペネロープ・ガルシアは、ある企画を考えていた。
死者の日をメンバーみんなとお祝いする。
そのためにガルシアは一週間前から張りきっていた。自分の部屋をお洒落に模様替えするため、両腕がふさがるほど装飾アイテムを買いこみ、それを使いパシリのごとく、仲間のリードに運ばせて。
「どうもねー」リードと一緒に帰ってきたガルシアが言った。「あとで片付けるから、それ、全部カウンターに置いちゃって」
すると、ガルシアの部屋には入るや否や「良い祭壇だね」と、リードは言った。
その祭壇はハロウィンを意識したカボチャのランタンや派手なロウソクにガイコツの置物、カラフルなお花が添えられていた。
「ありがとう」玄関を閉めた。「来週のパーティーまでには、やることが山ほどあってねー」ガルシアも紙袋とハンドバッグを置いた。「……緊張、全員呼ぶのは初めてだから」
「なんで思いたったの?」いぶかしげにリードは訊いた。
「“死者の日”ってメキシコでは一大イベントで、継父の実家でも、それが——ガルシア家の伝統」固唾をのむ一寸の間をおき、ガルシアは言った。「ねえ! 冷蔵庫に唐辛子ソースがあるか見てくれない?」
カウンター・テーブルの右隣りには冷蔵庫があり、リードは言われるままにドアを開けようとする。と、そのいっぽうで、ガルシアはすぐに後ろを振りむき、ある準備をした。普段は割りと目立つフレームのメガネをかけてるガルシアだが、それを外してカウンターの上に置き、チョコレートと食紅で作った自家製の血のりを自分の目に垂れながしたのだ。
リードは赤い唐辛子ソースをさがした。しかし、赤い液体のビンに入っているのは白玉で作った人の目玉たちで、そのとなりの鈍い緑りいろの液体は青唐辛子が原料のハラペーニョ・ソースだった。
「目玉の瓶詰めのとなりに、ハラペーニョ・ソースはあるけど——」リードは両手にソースの入った瓶を持ちながら言った。「——ワカモレをいっぱい作るつもりだったら、もっと——」やっと、ガルシアの顔をみた。「——なに?」
「……ぜんぜん、驚かない」呆気にとられたガルシアは言った。「ジェイジェイの言うとおりね。怖いパーティーにしたいって、ジェイジェイに言ったら、大笑いされたの。あたしは怖がらせるキャラじゃないって」
「……ごめんね、でも……怖い一面も、あるんじゃないかな」
「ほんと?」
「そう!」萎れてるガルシアにリードは言った。「人っていうのは複雑で、多面的にできてるから——隠れてる面がいろいろあって、それを表現したいっていう欲求は——誰れでも持っていて当然」
「誰れでも?」ガルシアは訊いてみた。「あんたも?」
「んあー、もちろん」悠然とリードは答えた。「あるよ」
「あるんだ」ガルシアの表情が明るくなった。「それじゃあ、見せて。ドクター・リードの隠れた一面をみたい!」
リードは言葉をノドに詰まらせた。「……え、ここで? 今? 今すぐ見たいの?」
「あたしだって——」ガルシアはカウンターに置いてあったメガネをかけた。「——いまここで偽の血を流してるんだから」
「いいよ」リードは覚悟を決めた。「後悔しても知らないから」
「わかった」
すると、ンーと俯きながら小さく唸りはじめ、リードは両手を自分の首のうしろにやった。そして、何かが憑依したかのように——本人はそのつもりなのだが——パッと両手をもどし、視線を目のまえにいるガルシアに向けた。胸を張りながら右肩をうしろ側に向けて、左手を前にのばして言った。「お見とおしだぜぇ、こう思ってんだろ? アイツは今、五発撃ったのか——それとも六発撃ったのかって」
ガルシアはその場で固まった。聞くんじゃなかったと後悔しながら。
「てめぇに聞いてみるんだなぁ」リードの大根役者ばりの演技は続いた。「今日の、運勢はどうか——チンピラ——が」目を閉じて、にぎった左手の拳を花が咲くように広げたあと、フゥ〜という息を洩らして演技は終了した。
ガルシアの目は点になったままだった。
「イーストウッド」うなずきながら、ドヤ顔でリードは言った。「“ダーティ・ハリー”」
「おー」ガルシアもその映画は知っていた。
「メインの人格ほど——」
話しの途中でガルシアの携帯が鳴った。それは事件が起きたという召集の知らせ。と、同時にこの冷えた空気から逃れられる救いの知らせでもあった。
「——しょっちゅう出てこないけど、ぼく——」
「見て!」ガルシアが遮った。「行かなきゃ」
「目玉は冷蔵庫にもどしたほう——」
「いいの! 大丈夫」また遮って、ガルシアは部屋を後にした。
実際のホールで観客たちを満員に集め、舞台のヒロインを演じたことのあるガルシアにとって、リードの演技力はとても見るに忍びないものであった。
そんなガルシアの後ろを、リードは満足げについていくのだった——。
————————。
「死は命を絶つが、絆を断つことはない」
作家 ミッチ・アルボム
【感情のトリガー↓】
【綻】隠れた個性
【謎・笑】犯人の空想・ペネロープ
【解】妄想の正体
【哀】天使のキズ
【偲】オフレンダ
【綻】隠れた個性
来週のハロウィンに、ガルシアはメンバー全員を自分の家に招きいれ、メキシコの風習である “死者の日” をともに祝おうと準備をしていた。すでにガルシアの部屋のなかは、たくさんの煌びやかな装飾品でいろどられ、にぎやかな祭壇までが用意されている。
買い物を手伝ってもらったリードに、ガルシアは隙をみて血の涙で驚かせようとした——のだが、反応はいまいちで受け流されてしまうのだった。
ショックを受けるガルシアに、リードは人には多くの面があるから、君にも怖いところがあるはず、となぐさめた。すると、それを見せて! とガルシアに言われる。
リードはみんなに見せてない、裏の面を披露してあげたのだった。
【謎・笑】犯人の空想・ペネロープ
ユタ州——プロヴォの雄大な峡谷の上で、二四歳の女性が遺体でみつかった。両腕には裂いたような傷があり、のどには火傷の跡、そして、その被害者は古風なローブを着せられて殺されていた。持ちこんだ岩石による 圧 死 によって。
死後、二十四時間であった。
捜索範囲を広げてみた F B I は、もう一人、殺されていた遺体を発見する。また、二十代のブロンド女性。
その女性は一週間前に殺害されいていた。
しかし、手口は今回のような儀式的なものでなかった。装飾品には手をつけず、拷問を受けることもなくそのまま転落死。被害者どうしの共通点はみつからず、わずか一週間で犯行手口が劇的に変わっていたのだった。
また、手口が変化した。
三人目の犠牲者は女性ではなく、男性。殺害場所も峡谷からダウンタウンの小さな公園へと変わり、首縄をかけられたことによる縊死によって殺されていた。
今回のように岩石で顔を潰されていなかったため、身元はすぐに割れた。その人物は犯罪歴の多い変質者だったのだ。
それを調べたガルシアは、つまびらかに教えてあげようと……。
【解】妄想の正体
変質者の遺体にも火傷の跡がつけられていた。ただし、三人目からは焼印に進化している。
リードは大量の本を読みあさり、その印は『ストートンの紋章』だということをつきとめた。犯人は一六九二年のセイラム事件を模倣していたのだ。
冤罪で多くの女性たちが犠牲となってしまった——人間の恥垢の魂がはっきりと顕在化してしまった——
魔 女 裁 判 。
【哀】天使のキズ
妄想はさらに悪化すると等しく、自信をつけていく犯人。今度の被害者は母親と小学生くらいの小さな娘であった。
石壁で作られた小屋のような建物の中に、ローブ姿で親子を見おろす犯人は、自白すれば神によるお慈悲がくださると言った。自白しなければ、拷問をくり返す、と。
犯人の思考は完全に空想のなかで生きている。娘を助けるにはこれしかない。そう思った母親はついに自白する。
私 し は 魔 女 よ ——と。だけど、娘は私しを売ろうとした——あなたと同じ側の——存在だということも加えた。その証拠に “天使のキズ” があるのだと。
すると、犯人は娘のほうだけ拘束縄をほどき、小屋から連れ去っていくのだった……。
【偲】オフレンダ
ハロウィンと同時期に行われることもあるメキシコの風習——
死者の日。
カラフルなイルミネーションで更にファンタジーな見栄えとなったガルシアの自宅に、メンバー全員が集まった。彼れらは一人一人、自分にとって大切な故人の写真とお供えものを祭壇にのうえに置いてゆく。そして、面々がお偲びの言葉をかけてゆくのだ。
死者を慕う想いによって——
メンバーの絆は結ばれた——
より、も っ と 強 い も の に 。
【感想】
ハロウィンということで、ポジティブな感情が印象に残る内容となっておりました!
今回の最後のほうで、初めてジェイジェイの姉の容姿が判明しましたね。リードの恋人だったメイヴや、ホッチナーの妻だったヘイリーの写真も祭壇に飾られたときは、観てるこちら側も自然と追憶にひたってしまいます。
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