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【クリミナル・マインド 9】テセウスの迷宮 – あらすじ
「縛り首になる定めのものが、溺れ死ぬことはない」
ことわざ
10,000文字ほど。
【感情のトリガー↓】
第一章:【謎】
第二章:【悲】
第三章:【ー】
第四章:【解】
最終章:【綻】
第一章:免れない死
「信じらんない!」艶やかなヨガ・パンツふうを履き、じまんの乳房をさらすタンクトップ——その上に、豹柄のファー・ジャケットを着た、いかにもコケティッシュなストリッパーが言った。「男のほうを逮捕すべきでしょ!——なんで私しなの?」
「ふつう、そういう商売は前払いのはずでしょ」署で受けつけている警察官が言った。
「金持ってそうにみえたし」へだてている頑丈な窓のあいだから言ったストリッパー。「二時間も踊ったのよ!」
「で、支払いは、郵便切手だって?」呆れたようすの男性警官。
「 “現金と同じだろ” って、ありえないでしょ!」客から受け取っていた切手を握りしめて、それを睨んだストリッパー。「こんなんで家賃はらえるかっつーの」
「だからって、タマを蹴りあげて、病院送りに——」
「——ちょっ! なにすんのよ?」ことわりもなく、いきなし割りこんできた男を、ののしるストリッパー。
「緊急だ!」ヒュー・ジャックマンを貧相にしたような男——ウェインが、あわてて言った。「助けてれ!」
よこで暴れているストリッパーは、別の警官によって連れていかれた。
「命を狙われてる」逼迫めいた感じで、ウェインが言った。「見てくれ」ジーンズ・ポケットから、しわくちゃのメモ書きを見せた。
「 “ 残 り 一 日 だ 、死 は 免 れ な い ” 」警官がよみあげた。
「ポストに入ってたんだ」とウェイン。「ひと晩、泊めてほしい」
「ここは、モーテルじゃないぞ」警官が言った。「おとなしく家にもどりなさい」
悔恨の表情をにじませながら、ウェインはおとなしく警察署を後に——
「うわあぁ————ッ!!!!」
《ガ——ンッ!!》
なんと、ウェインは近くにあった スティール製のゴミ箱をつかむやいなや、受けつけの窓ガラスにむかって叩きつけたではないか!——すると、すぐにガタイのいい警官に、押さえつけられてしまった——!
「よかったな」受けつけしてた警官が、呆然と言った。「これで泊まっていけるぞ」
警察署のなかで暴れだしたウェインの顔には、どこか安堵なようすが垣間見れたのだった——。
————————。
翌朝——、ウェインの対応をしていた警官が、迎えにやってきた。
「起きろー! 朝だぞ」
すると、警官はおもわず、カギを落としてしまった。
その部屋は、鉄格子のついた窓と、露出されたトイレ、そして、ベンチしか置かれていない場所なのだが……
……………………
ウェインは、血を吐いて亡くなっていた……。
————————。
————————。
その翌日——。
「いつもので交換しときますよ」すこし、真田 広幸ふうの厳かなイメージをあたえる店員——カルロスが言った。
すると、「あ、安いマフラーでいいよ」スティーブン・セガールを、もっと太らせたような男の客が言った。「もう、三〇万キロも走ってる車だから」
カー・ショップの前に、一台の車がとまりだす。それは、店内のガラス窓からでも確認ができた。
「えらんだら呼んでください」カルロスは、客に言った。
その大柄な男は、店内のなかをめぐりだした。
《チャリーン!》
さきほど駐めた、車の運転手が入ってきた。まるで、若くした イ・ビョンホンのような面持ち。その彼れは、けわしい顔して、カルロスのもとにやってくる。
「いったい、どういうことだ?!」イラついてる男が言った。
厳しい面をしたカルロスは、無言でその男を「奥のへやに来い」という合図をおくる。イラついていた男も、黙ってついて行った——。
「これを オレが書いたっていうのか?」顔をしかめながら、イ・ビョンホンふうの男が言った。
「玄関の下に置いてあった」いかめしいカルロス。
《バン!》言いがかりをつけられた男は、整備室のまんなかに置かれている——赤い車のボンネットに叩きつけて帰っていった。
『 “ 残 り 一 日 だ 、死 は 免 れ な い ” 』というメモを、残していって……。
——どうやら、このまえ揉めてしまった 友達の仕業しわざではなさそうだ。いったい、誰れがこんな悪趣味なことを……
……………………ゔっ!
突如、カルロスのようすがおかしくなりだした!——額から冷や汗をかきだしたと思ったら、顔まで苦しみの表情を浮かばせて、お腹をおさえこんでいる……
「っうお——ぉ——ッ!!」
カルロスがたおれこんでしまった!
血が……まっ赤な血が……
口から垂れている……
と、そこにっ!
「おーい! 裏にいるのか?」部品をさがしていた客がやってくる。「このマフラーに決めたよ」部品を抱えた男——スティーブン・セガールをもっと太らせたような——ベレー帽をかぶった、その大柄な男が たちどまった。
カルロスはまだ、地べたで のたうち回っている——が、それも突つと動かなくなってしまった……。
大柄の男は、なぜか、おどろかない——まるで、水揚げされてしまった魚が、かってに息絶えたような——そんなところを見た感じだった。その男は、ゆっくりとカルロスのそばに近づき——しゃがみこむ。抱えていた車の部品を床において、ポケットからとり出した。
束になった ほそい“麻の糸”を。
それを、仰向けになっているカルロスの胸に置いた大柄の男は、整然としたようすで去っていくのだった——。
————————。
第二章:苦情の電話
塩けの孕んだ、青いそら——。
《ッポン!》
シャンパンのコルクが開けられた。いっきに泡が吹き出した。
「おー! すごいな」造船業者の社長が言った。彼れの見ためは、すこし丸くした “ ダニエル・クレイグ ” といった感じだろうか。その彼れは今、工場ではたらく部下たちをあつめて、退職する仲間の門出を祝っている。湾岸倉庫のシャッター内がわには、
『 B O N V O Y A G E , B I L L!』
という文字の、おおきめの横断幕がはられており、社長はそれをうしろに、陽気なかんじで言った。「考えなおすなら今だぞ」視線を窓からみえる外にうつす。「ここを捨てて、ほんとに行っちゃうのか?」視線を退屈そうに聞いている従業員たちにもどす。「ビルは、二〇年前にもギリシャに行こうとしてたが、オレと飲んでたせいで、送迎バスに乗りおくれた」
社長の真むかいにいる ビルという男の背後から、こ馬鹿にされたような嘲笑が聞こえてくる。なんと、その男は、スティーブン・セガールをもっと太らせたような——のたれ死んだウェインの胸に、麻糸をおいていった——人物であった。あのベレー帽がはずされた彼れの頭は、C型のようにハゲあがっており、その頭同様——ビルの心も至極無念といった感じである。
あっさりと終わってしまった送別会を後に、
ビルは、怨恨 の情を秘めて帰って行った——。
————————。
————————。
カリフォルニア州——ロングビーチで、事件が発生!
❶女(七十)ヘレン。西川 ヘレン 風。
❷男(三八)ウェイン。ヒュー・ジャックマン 風。
❸男(四十)カルロス。真田 広之 風の厳しさ。
六日前のヘレンをさいしょに、昨日がウェイン、そして、当日にカルロスが——おなじ手口で殺されていた。彼れらの体内からは、致死量の “ヒ素” がみつかっており、麻糸がおかれていたのだ。
また、おなじ内容のメモ書きも残されていた。
『 “ 残り一日だ、死は免れない ” 』
監視映像や、目撃者からの知らせで、この犯人は被害者たちと接触していたことも判明した。
しかし、わからない。
なぜ、麻糸をおいていくのか?
なぜ、死ぬまえに被害者と会う必要があるのか?
……………………。
————————。
街路樹のつづく道路沿いにならんだ住宅地。そこに一人の女性が帰ってきた。ビシッとした長ズボンのスーツに、ワイシャツ、を着た五十代くらいの——『グレイズ・アナトミー』に登場するミランダ・ベイリー役のひと、もしくは、美容家で有名な “I K K O” を黒くしたような——そんな見ためで、名前えは ジャニス 。買い物ぶくろを持ちながら、自宅のなかへと入ろうと——
——!?
——なにかしら、これ?
玄関のドアに、白い封筒がはりつけられていた。まゆをひそめながらも、とりあえず中へと入って、ジャニスは その中身をかくにんする。
『 “ 死は免れない ” 』
ジャニスの眉間にシワがよる。窓越しから外をのぞいてみると、バスケット・ゴールの下で遊んでいる少年たちがいた。
彼女は 子どもたちのイタズラだろうと、思ったようだ——。
『こちら、“911”です』オペレーターが言った。『どうされました?』
「ああ、緊急じゃないの」子機をあたまと肩ではさみ、空いた両手でワインをそそぎながらジャニスは言った。「こどものイタズラなんだけどね」
『担当者につなぎます。——プ——』
担当者に代わった女性警官が、くわしく事情をうかがっていた。「その書かれた内容を教えてくれますか?」デスクの上で、メモをとろうとしていたのだが、突然、青ざめた感じで動きがとまった……。「……このまま、切らずに待っててください」急に張りつめたような感じで言った。「今、F B I のかたに代わりますので!」
「“ F B I ” ?」顔がけわしくなったジャニス。「たかが、子どものイタズラなのに?!」
数秒後に、また担当者がかわった。『おまたせしました』その渋い声がつづく。『 F B I のデヴィッド・ロッシです。家には一人ですか?』
「そうよ」不安そうに答えるジャニス。「てゆうか……そのはずだけど」また、窓から外をかくにんした。
『ドアと窓にカギがかかっていることを確認してください』
焦燥感にかられたジャニスは、ロッシの指示にしたがい、部屋中のドアや 窓をかくにんした。念のため、屋根裏のはしごを引っぱりだすための フック棒をつかみながら。
「カギは全部かけた! それから?」涙目のジャニス。
『今、警察が向かってますから』ロッシが言った。『一歩も出ないでください』
「あたし、怖い」がくぶるのジャニス。
『いいですか——ジャニスさん、よく、聞いてください。
たべ物も飲みものも、いっさい口に入れないで』
「わかったわ」ジャニスは 飲もうとしていたワインを、シンクに捨てた。
『よし、もう大丈夫だ。あとは、警察を待って』
ジャニスはもう一度、シンクの小窓から外をのぞいた——
「——!?」
——誰れ!?
——え、なんでいるの?!
——なんで、ナイフを持っているの?!
一瞬でそれらのワードが頭によぎり、ジャニスはすぐに振りかえった!
『きゃあぁぁぁぁ——っ!!』
「ジャニス!?」悲鳴の聞こえたロッシが言った。「ジャニース!」
『やめてえぇ——っ!!
——プ——————————』
ロッシも、それを聞いていた女性警官も、憮然とした感じで、しばらく動くことができなかった……。
すぐに、行動分析課のロッシとホッチナー、ジェイジェイも現場にかけつけたのだが……
それはあまりにも無惨な姿……
お腹にはナイフが刺さっている……
その首には麻紐で締めたような跡がある……
ジャニスはすでに、亡くなっていた……。
————————。
第四章:運命の紡糸
新たに四人目の被害者が発見された。
❹女(四八)ジャニス。“チャンドラ・ウィルソン” 風。
これまでの犯行とちがって、死ぬまえに接触することができなかったための、過剰殺傷。その犠牲となった自宅のワインのなかから “ヒ素” が検出されていたのだが、そのまえにロッシの忠告によって邪魔されていた。だから、犯人は逆上してしまったのだろう。しかし、家のなかに侵入されているとは思わなかった。危機せまる勢いで怯えているジャニスに、“もう、大丈夫だ” と言ってしまったロッシは、この不甲斐ない結果にたいして、かつてない憤りを覚えるのだった……。
————————。
スティーブン・セガールをもっと太らせたようなビル——頭がC型状にハゲあがっている大柄の男——は、もうじき後にしようとしている自宅のデスクで、最後のメモを書いている……。
《コンコンコン!》ドアが叩かれた。
「だれだ?」頭だけ振りかえり、ビルは言った。
すると、玄関の外から「ウィックだ」と、名乗る声が聞こえた。
「ちょっと、待って!」ビルは立ちあがると、玄関まで歩いて、ドアをあけた。
「やあ、鍵を返してもらいにきた」ダニエル・クレイグをすこし丸くしたような男——ウィックが言った。「地球の裏がわに発つまえにな」リビングと一体化してる玄関から入っていく。「おー、ずいぶん改装したんだな」
ビルは、キーホルダーからキーを外すのに、苦戦中。
「その手はどうした?」包帯のまかれたビルの左手をみて、ウィックはたずねた。
「ちょっとね……」にごす、ビル。「切ったんだ」
待っているあいだが退屈なウィックは、たずねてみた。「なあ、どうしてギリシャにこだわるんだ?」
「さあ、わからないけど……」まだ、外せていないビルが言った。「しっくりくるんだ」
「へぇー」形だけの相槌をして、ウィックは壁にたくさん貼られている 絵や写真の切りぬきを見て言った。「あれも、しっくりくるのか?」
その絵や写真は、どれもギリシャ神話に関わるものばかり。
「ああ」と、ビルは返事をした。すると、ウィックがその壁に近づこうとしいるのを見て、彼れはドキッとする。壁のまえにはデスクが置かれており、その上には例のメモが置いてあったからだ。それも、書いてるがわが表になっている。ビルは、気づかれないように、そぉーっとハンカチで覆った。
「じゃ、これ」やっと、外せたキーを渡したビル。「いろいろ、ありがとー」
「元気でなぁ」立ち去ろうとするウィック。
「あのとき、行けばよかった」突つとビルが言い出した。「二〇年まえ……」
「お金がなかったろ?」振りむいたウィックが言った。「むしろ……感謝してもらいたいな」両手をひろげながら、少し近づいた。
「感謝って!?」けげんに訊いたビル。
「実は……」すこし言いづらそうに言うウィック。「わざと酔わせた」
その瞬間……ビルの表情がカッチカチに硬直した。
「ふふふ……なんだよ」ビルの情けない顔を見てわらうウィック。「とっくに、気がついてると思った」
ビルは、微動だにしない……。
「無謀だと思ったんだ。金も計画もなかったし。——おふくろさんの面倒だって看ることができたろ? もし、ギリシャに行ってたら……」
ウィックの言葉は、もう耳に入ってこなかった。この男のせいで、自分の人生を狂わせられたと思うと……無上な殺意しかわかなかったのだ……。
それは、まるで啓治を受けような感覚——
ビルは、こいつを殺そうと決意した……。
————————。
そのころ、行動分析課のスペンス・リードは、重大な発見をしたようだった。それは、被害者たちに置かれていた “麻紐” である。なんと、どれもその長さがバラバラだったのだ。
六四センチ……三八センチ……三一センチ……
そして、最後のジャニスが四八センチ……
そう、どれも被害者たちの年齢と一緒。
ギリシャ神話では、三人の女神が人の寿命を決めるという。
生命の糸を紡ぐ者。
その長さを測る者。
それを断ち切る者。
これが、犯人の妄想の正体だったのだ。
そして、殺された被害者たちは、あるコーヒーショップのおなじ日時に、全員ならんでいたことが判明する。おそらく犯人は、このときに被害者を選んだのだろう……そのお店の近くには、病院があるではないか……なんと、その日に余命宣告を受けていた人物もいた……絶望のどん底に落とされてしまったところに、自分には関係ないといった感じで幸せそうにしている連中がいる……ゆるせい……これは、あまりにも理不尽……
つまり、犯人の動機はやつあたり。
おなじ絶望を与えてやるという……。
————————。
————————。
「仕事が恋しいのかぁ?」会社のデスク作業中だったウィックがたずねた。
キーを受けとってから数時間後くらい——なんと、ビルが酒瓶を持って現れたのだ。
「辞めた日に、もう、禁断症状かぁ」すこし呆れたような半笑いで言ったウィック。
「一杯やろうと思って」ベレー帽をかぶったビルが言った。「今日まで、思いもよらなかったから」お酒をグラスに注いだ。「二〇年前に、そこまで考えてくれてたなんて」
「いいってことさ」
「そのお返しがしたくて……」ビルは、一応、自分にもお酒を注いだ。
ふたりは乾杯をした。それを、ゴクゴクと飲んでいくウィック。その様子を、ビルは無表情でながめていた……。
————————。
最終章:鋭敏な女児
「 F B I だ! 動くなー!」防弾着を装着したデレク・モーガンがかけつけた! 三人ほどのスペースしかない波止場に立っているビルに、銃を向けながら。「ビル・ハービング、逮捕する! 容疑はヘレン・ミッチェルのほか、計四名の殺人だ」
モーガンのとなりにいるジェイジェイも、彼れの胴体を狙っている。そのビルの奥にいるウィックは、グラスをあわてて捨てたところだった。
「毒を飲んでしまったぁ」お腹をおさえているウィック。
「病院へ運びます」とモーガン。「ハービング、武器を捨てろ!」
「いやだ!」包帯をしてない右手に フック棒を持っているビル。「こいつは、オレの二〇年の人生をうばいやがったぁ」ウィックのほうにフック棒を指した。
「いいえ、その逆よ」とジェイジェイ。「あのバスはね、空港へ行くとちゅう、事故にあったの!」
「乗客全員、死んだぁ」とモーガン。「おまえは、乗り遅れたおかげで生きてる」
「……」あたまが上手く めぐらないビル。
「ほら、武器を捨てろ」
「……」ウィックに一瞥の視線を向けると、その手を下ろし、ビルは 武器を捨てた。
じわじわと込みあげてくる良心の呵責——
運命に弄ばれたような晴らしようのない憾恨——
そんな想念をいだきながら——
ビルは逮捕された……。
————————。
————————。
行動分析課は、ヴァージニアへと翼を向けていた。
「で、どうすることにしたんだ?」対面席にすわったロッシが言った。「ジャックの頼まれていた授業」
「月曜に、小学三年生軍団が B A U に来ます」ホッチナーが答えた。
「そりゃ、いい」とロッシ。「ジャックも喜んでたか?」
「そりゃあ、もう」コーヒーをすすりながらホッチナー。「跳びあがって」
まるで、息子のように温かいまなざしを送るロッシ。「自慢のパパだからな」
「……プロファイラーのデモンストレーションが心配なんですけどね」
「ほー、殺人犯、レイプ犯、サイコパスと戦いつづけて早二〇年、ホッチナー捜査官がついに、最強の敵に会うわけか」ロッシは、少しおちょくってみせた——。
当日——。
「君たち、一人一人を観察して——」B A U に呼んだ一二人の小学生たち——息子のジャックもいる——と、その教師がみまもるなか、ホッチナーが手品みたいなことを披露している。「取りしらべさせてもらった」
ミーティング・ルームで行われているその空間に、ペネロープ・ガルシアと ロッシも、一緒にみまもっている。彼らの隣りにある大画面のスクリーンには、“ホッチキス” が映しだされていた。
ホッチナーは腕を組みながら、円台・テーブルにすわっている五人の子どもたちを尻目に、実力を見せつけようとする。「いったい、誰れがホッチキスを持っているのか——」子どもたちの後ろを歩いていく。「最初は君だと思ったんだ」頭がチリチリの少年にとまった。「だけど……プロファリングの結果」となりで固まっている少年のほうへと足をはこぶ。「犯人は君だ!」箱で隠されていたホッチキスを、見事、言い当ててみせた。そして、そのホッチキスを、これみよがしに見せつけた。
「「「お————!!」」」
大きな喝采が起きた。みんなの驚いてる様子をみてホッとしたのか、ジャックも はにかみながら拍手をおくっている。
「どうして、わかったんですか?」若いブルネット版のカイラー・リー 風で、美しい女性教師が、目を黒くして言った。
「まず、ジェシー(男児)は、僕と目を合わせようとしなかったし——」まだ、固まってるジェシー君と、おなじ目線からホッチナーが答えた。「そわそわと、手を動かしてた」その動きもマネてみせた。「ガルシアがコインを落としたとき、ほかの三人は見たけど、キミだけ ちがった」まだ、目をそらしているジェシー君のほうをみやった。「嘘をつくことに、集中してて」
「わぁ、とっても、面白いデモンストレーションでした! ホッチナーさん」女性教師が言った。
「そう、よかった」とホッチナー。
「さあ、みんな! お礼を言って!」
「「「 あ り が と う ご ざ い ま ー す !」」」
また、大きな称賛の鐘が鳴るなか、ここぞとばかりのタイミングでガルシアが言った。「次は、わたしのオフィスへ!」
「じゃあ、ガルシア お姉さんについて行って」とホッチナー。
「バット・マンの基地みたいで、かっこいいよー!」相変わらず、色調のハデな出立ちで、ガルシアは子どもたちを案内していった。
すると、ジャックとならんだ女性教師と 残った女の子——まるで、小さかった頃のジェイデン・スミス(ウィル・スミスの息子)に似ている——が、まっすぐな目をして訊いてきた。「わたしもプロファイラーになれますか?」
「もーちろん」ジャックの肩に手を添えながら、ホッチナーが答えた。「一生懸命、勉強して、この仕事が上手くできると思ったら」
すると、女の子が可愛くのたまった。「上手くできるよ!」
「ほんとー?」と、たずねるホッチナー。
「先生をプロファイリングした」ジェイデン君 似の女の子が、先生を一瞬、みやった。
「え!? わたし?」胸に手を当てて、訝しがる女性教師。
「そう、ジャックのパパ——好きでしょ?」笑顔でいう女の子。
すると、ポッと女性教師の頬が朱にそまった。「あ、あ、あ、なに言いだすの?」胸に当てていた手を、女の子の肩に添えた。
「先生、大好きなネコちゃんの話しするとき、すごく早口でしょ?」先生を見上げた女の子。「今日も、おなじくらい早口だから! ほかのパパのときと違う」
カイラ・リー 似の教師は、いちべつの視線をホッチナーに向けた。「今日は、ほんとに楽しかったです」と女の顔で。「ありがとうございました」
「いえ」予想外のことに、うまく反応できなホッチナー。
すると、頭から湯気を放ちながら、女性教師は女の子を連れて部屋をあとにするのだった。
その様子をみてたロッシが言った。「たぶん、ネコがエサを待ってるんだぁ」
「ふン…」ホッチナーがニコッと笑ったあと、「どうだった?」と息子に訊いた。
「かっこよかった!」自慢のパパを紹介できて、満足しているジャック。
「そうか、上手くいったお祝いしよう」とホッチナー。
「いいね!」
「ホットドッグ? ハンバーガー?」
一瞬なやみ、「どっちも!」
「それは予測できなかった……」
すると、ホッチナーは、最後にボソッとつぶいた。
「プロファイラーなのに……」
……………………
……………………
チャン——チャン——。
————————。
————————。
——おわり。
【感想】
いやぁ〜、世の中は “運命” という理不尽さで成り立っているってことですかね。仕事の能力、見ための容姿、育てられる環境、人間なのか、それとも、忌み嫌われる虫として生まれるのか……。
これも、すべては運命……。
ということで、次回からは『洋画』を中心にノベライズしていこう思います!
長くかかりそうだなぁ〜こりゃ(汗
「人はしばしば、運命を避けようとした道で、
その運命と出会う」
詩人 ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ
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