イミグレ怪談
それぞれの生活言語で。
・登場人物は、それぞれの俳優の名前で演じられる
・一人称は便宜上「EU」としているが、わたし、あたし、ぼく、おれ、自分の名前など、普段使うもの/使いたいものを原則的に使用する。二人称は「VOCE」としているが、一人称同じように普段使うもの/使いたいものを原則的に使用する
・文章の途中での改行は、リズムや間などを意識して書かれている
・「間」<「沈黙」、読点 < 句点、として時間を使われるイメージで書かれている
・意味が変わらない限り、語尾や単語は普段自分が使う表現に変更してよい
・複数の役が登場していて、片方が長めのセリフを喋っている場合、しゃべっていない方の役は適当に相槌を入れてよい
・セリフ中のカッコはセリフのニュアンスを説明する補完的なもので、しゃべってもよいが、基本的には表情やジェスチャーなどで表現することを想定して書かれている
タイの幽霊
1がしばらく無言で、しかし楽しそうに立っているやがて口を開く
1 いつぶりだろう?
沈黙
1 元気だった?
沈黙
1 誰も来ないね。
沈黙
1 EUたち、早く来過ぎたんじゃないかな?
沈黙
1 それにしても卒業以来だよね? 時間の流れを感じるね。どうしてたの?
間
1 そうそう。
間
1 えっ?
間
1 名前? って、EUの名前? ショックだな、覚えてないのか。
EUの名前は……、
音楽1のダサい踊り
ときおり、影アナがテンション高く1の俳優の名前を呼ぶ
2と3が登場する
1が踊り終わっても音楽はつづく
1 どういうわけか、ほかに誰も来ないね。ひさしぶりに会うのに。
EUたち、早く来過ぎたんじゃないかな?
これおみやげ。
ダン・サーイってとこのお面……だったと思う。タイの東北部のルーイっていう県にあるとこなんだけど。聖霊のお祭りがあって。
シマウマのお面を取り出し、2に渡す
2は3にそれを渡す音楽はやがて騒がしい感じになる
1 EUはいまタイに住んでるんだけど。そう、バンコクの。トンローってとこ。
焼酎好きだったじゃない、EUは。
間
1 いや、焼酎だよ。EU、ビール飲めないし。
それで、それが高じて、焼酎好きが高じて、
ラオスに焼酎の工場を作ったんだよ。
間
1 そうそう、EUが。
もちろんEUだけじゃなくて、沖縄の企業と組んでなんだけど。焼酎の起源を辿ると、ラオスの「ラオラオ」っていう酒が、
沖縄に伝わって「泡盛」になったらしい。600年くらい前かな。
それがその後、日本に上陸していわゆる「焼酎」になった。
っていう説があって。
でもラオスでは、ラオラオは家庭で作って個人で売買するみたいな感じだったから、現地に工場を作って、そこで泡盛の品質管理のノウハウを沖縄から逆輸入して。
で、そこで造ったラオラオを、「美(ちゅ)らラオ」って名前で売り出してる。
沈黙
1 ラオスだと日本からの直行便はないし、いまは工場に行くのは2、3ヶ月に1回でいいし。だから、事務所はバンコクに置いた方がなにかと動きやすいから。
スライドを使った焼酎の説明
1 (地図を指して)ラオスはここ。タイ。バンコク。東京。沖縄。
……焼酎は、要するに蒸留酒だけど、大きく甲類と乙類に分けられる。
甲類は、代表的なのは、韓国焼酎とかキンミヤとか。
何度も繰り返し蒸留させて、作る。
だから、雑味がなくて癖がないって言われてて。
そのまま飲んでクリアな味わいを楽しんでもいいし、レモン搾ったり、好きな味のサワーにしたり、アレンジを楽しんでも。
いっぽうの乙類。これは一度の蒸留で作るから、原料の香りや風味が残るのが特徴。
いろいろな原料が使われて、
米焼酎、
芋焼酎、
麦焼酎、
黒糖焼酎、
栗焼酎、
そば焼酎、
などなど。
本格焼酎とも言ったりする。
水とかお湯で割っても、そのまま飲んでも、香りを楽しめる。
EUが好きだったのはもともと米焼酎だったんだけど。
間
1 簡単に歴史を説明すると、
むかし沖縄は琉球という別の国でした。
で、15世紀前半くらいまでは特に、琉球は、中国や日本、朝鮮半島、東南アジア諸国との貿易を通して栄えていたんです。
各国と、こうやって、安く仕入れてほかのところで高く売る、みたいな中継貿易をしてて。だから当時から沖縄、琉球にはいろんな地域のものが入ってきていた。
3 へー。
1 その貿易で琉球に来たものの中に、タイとかラオスあたりの蒸留酒があった。らしいんだよね。米が原料の蒸留酒。
それが琉球で泡盛として発展を遂げた、っていう。ちなみに、泡盛の原料には、タイから輸入してくるタイ米を使ってる。
だから、タイに行ったら、焼酎の元になったっていう酒を飲んでみたいじゃない? だから、探してみたんだけど。
……なんか、そもそもバンコクではあんまり、そういう、米の蒸留酒は、貧乏人が飲むものみたいに思われてるっぽくて、売ってるところが見つからなかった。コンビニとかスーパーにもないようだった。
でも、単純にEUはタイ語がわからなかったっていうのもあるし。そのへんの白人に聞いてみても、いまいち話通じないし。
間
1 だからさ、
とりあえずいい感じのバーを探して、入ってみたのよ。
長めの沈黙 スライドは消え、音もいつのまにかなくなっている1は酒を飲んでいる3はバーテンみたいになっている
3 え、で?
1 知り合いに、ドライヤーを使うと、ドライヤーの音がおばけを呼んできちゃいそうな気がして、ドライヤーが使えないっていう人がいるんだよね。
She was like--
うるさいのが嫌い。
うるさいのが嫌い。
ドライヤー、
叫び声、
大勢が集まって、大きい笑い声。
音で満たされてないといけないところ。
でもそんな空間にも、隙間がある。
どうしても音が届かない場所。
むしろ音を吸収する場所。
そういうところに何かがいる気がする。
間
3 は?
1 バーに入ってみた。
バンコクのあれはどこだったんだろう、もう完全に日は落ちていて、人んちみたいな門があって、低めの門。それを開けて、そうすると、まず広い庭、背の高い木とか草が茂ってて、真っ赤な太陽が沈んだあとの、
暗い庭。花が咲いていた。黄色い花だった。
花火みたいに黄色い花々。
真っ暗な中、浮き上がるように、庭の奥のほうに、
半野外のカウンター、といくつかのテーブル。
間
1 とりあえずウィスキーを頼んで、一口飲む……。
長い間
1 ゆったりとウィスキーを口に運ぶ。グラスにたっぷりの氷。徐々に薄まるウィスキー。
……しばらくすると、大音量で音楽が流れ始めて、
3 焼酎の話は?
間
1 (2に向かって)え? なんて?
3 なにが。
1 It's very noisy. I can't hear you.
3 焼酎の話はどうなったの?
1 Hah?
3 泡盛!
1 Hah?
3は舌打ちする
1 あのときは、レッチリかなんかが流れてた。
Red Hot Chili Peppers…
1は口ずさむ
ここから先は
¥ 900
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?