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登山で出会う神話25|二面の守護神、陰陽馬(おんみょうば)
雲取山の奥深くに、ふたつの顔を持つ馬の神が棲んでいる。その名を**陰陽馬(おんみょうば)という。一つは平和を愛し、穏やかな言葉で山の者たちを包み込む優しい神、静駿(しずか)。もう一つは恐ろしいほどに凶暴で、少しでも気に入らないことがあればすぐに声を荒らげる烈風(れっぷう)**だ。どちらも同じ馬の身体に宿っているのだから、しょっちゅう口論が絶えない。
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ある日、若い鹿が恋の悩みを抱え、この神に相談しにやってきた。静駿は穏やかに「相手の心を思いやることが大切だ」と語りかけるが、烈風はすぐさま「相手を屈服させろ、それが恋の真髄だ!」と吠える。鹿は頭をかしげ、いっそう迷い込んで山道を戻っていった。
それでも、この陰陽馬は雲取山のすべてを愛している。ある時、山を壊そうと「異しき者」が踏み込んだとき、烈風が低く唸りをあげ、激しい暴風を巻き起こした。風は木々を荒々しく揺さぶり、異しき者たちはたちまち吹き飛ばされてゆく。その間、静駿は葉陰に隠れる小さな生き物たちへ「心配ない」と優しく囁き、そっと穏やかな物語を語りかける。嵐が過ぎると、山には再び静けさが満ちる。険しい尾根も、苔むす斜面も、この陰陽馬に守られてきたのだ。
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今日も二つの声が響いている。静かな声と荒々しい声が、風に混じりながら山を駆け抜けていく。
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